ちょっと一息

ハッピーキャリアの作り方 vol.66

社内キャリアカウンセリングは化学反応を促す

[2014/03/04]

白書 たった1回のキャリアカウンセリングを通じて、自分本来の仕事観に気づく。それによって、目標が明確になり、課題が整理され、視野が広くなる。そして、自ら主体的に考え、行動し続ける人材が育成されていく。
 「そんな変化は果たして本当に起こるのか?」
 「社内にキャリアカウンセリングを導入すると、社員はどう変わるのか?」
 そうした疑問に対して答えているのが、書籍『企業内キャリアカウンセリング白書2013』(日本マンパワー)です。
 先月の当シリーズでもお伝えしましたが、その変容は非常に興味深い結果となりました。特に、仕事観をレゴブロックで表現した実験では、「カウンセリングの前と後ではこんなにも変わるものか」と驚かされました。
 そこで、白書の実験・分析にご協力いただいた(株)ビジネスリサーチラボの伊達洋駆さん、実験にあたってカウンセラー役を務めていただいたユースキャリア研究所の高橋浩さんに、座談会形式で白書を振り返っていただきました。お二人とも知る人ぞ知る著名な方で、白書に掲載されていない非常に貴重なご意見をうかがうことができました。
 本記事では、座談会の内容を抜粋・要約してご紹介いたします。ビジネスに関わるすべてのみなさんに参考になるお話ですので、ぜひご一読ください。


●座談会参加者
 株式会社ビジネスリサーチラボ 取締役
 伊達 洋駆 さん
 株式会社ビジネスリサーチラボ 取締役。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター 客員研究員。大学研究者が研究拠点を構築する支援を、産学連携コーディネートという観点から行っている。

 ユースキャリア研究所 代表
 高橋 浩 さん
 博士(心理学)。CDA。日本キャリア開発協会顧問。大学の非常勤講師、行政や企業におけるキャリアカウンセラーや教育研修講師を務める。キャリア心理学の実践と研究を両輪とし、生き生きとした個人と社会の実現に向け活動中。

 株式会社日本マンパワー
 白書プロジェクトチーム

※肩書きは、コラム公開当時のものです。


人材施策の効果測定として革新的な試み

——自己紹介を兼ねて、『企業内キャリアカウンセリング白書2013』作成にあたっての役割をお教えください。
伊達 株式会社ビジネスリサーチラボの伊達と申します。今回の白書は、産学連携のチームで作成されたことに大きな特色があると思います。私の役割としては、研究者チームを束ね、実践的に意味のある白書を作り上げていくマネジメントの側面を担わせていただきました。

高橋 ユースキャリア研究所の高橋と申します。私はキャリアカウンセラーの立場で、被験者全員のカウンセリングを担当させていただきました。キャリアカウンセリングの効果検証についての論文や解説文はほとんど見られませんから、非常に大事な役割を担わせていただいたと喜んでおります。

一滴——白書のプロジェクトでは、私ども日本マンパワーからご依頼させていただきましたが、当初はどのような感想をお持ちになりましたか?
伊達 「キャリアカウンセリングの現場で何が起こっているのか」「その効果は何か」ということは、確かにわかりにくいだろうと思いました。なぜなら、カウンセリングを受けた瞬間に行動が変わって、組織が変わるということは考えにくいからです。おそらく、カウンセリングを受けた後に心理的な変容があって、次第に集団的な次元に広がっていくのだろうなと。そうすると、旅行やホテルのサイトのように、「この点が良かった」という定性的な感想と同レベルにならざるを得ません。それでも貴重な情報ではありますが、企業内にキャリアカウンセリングを導入するか否かの判断材料としては、特に経営層にとって非常にわかりにくい。ですから、定性的かつ定量的に示すことが重要だと考えました。
 もっとも、キャリアカウンセリングに限らず、人材を巡る施策では効果測定はあまり行われていないという現状があります。その点でも、今回の白書は革新的な試みではないかと思いました。


カウンセリングで話していないのに大きな変化

——高橋さんには、被験者26人全員のキャリアカウンセリングをお願いしました。その内容はどのようなものだったのでしょうか?
高橋 1人につき約1時間というルールで、まず、クライエントの方に過去の仕事との関わりについて話してもらいました。そして、お話をする中で、クライエントの方が何に価値を置いているのか、どういうことに力を注いできたのかという核となる部分を中心に、「将来どうしていこうか」という入り口くらいのところまでカウンセリングをしました。
 ただ、カウンセリングルームの入室から退室までの間のクライエントの方の変化しか確認することはできませんでした。ですから、後日、白書の結果を伊達さんからお聞きした時、少なからず驚きました。カウンセリングでは将来の目標などについてほとんどお話ししていないのに、グループワークではすごく変化が現れていましから。

——実験による調査はどのように行ったのでしょうか?
伊達 まず、「キャリアカウンセリングを通じてどのような効果が出るのか」について仮説を立てました。具体的には、自分本来の仕事観への気づき、目標の明確化、将来展望の具体化、課題の整理、視野の拡大の5項目です。それをグラフィカルな表現で可視化し、なおかつ統計学的に分析・検証することを目指しました。
 実験は1回のキャリアカウンセリングの事前と事後で同じワークを行い、そのギャップを調査しています。一般的な調査手法はアンケート回答によるものが多いのですが、それでは情報として乏しいので、多面的な情報を得るための工夫をしています。その結果、一目瞭然に近い結論を導けたと思います。

仮説と検証方法・検証結果の詳細はこちら


未来キャリアカウンセリングが心理的な化学反応を起こす

——結果をご覧になって、どのように感じられましたか?
伊達 最も強く感じたのは、キャリアカウンセリングを受けた後、心理的な内面で何かしらの化学反応が起こっていんだなあということです。
 実際に効果測定をしてみると、目標が明確になったり、課題が整理されたり、視野が広くなったりしています。でも、それをキャリアカウンセリング現場でお話ししていないとすれば、自分の仕事観が明確になったことによって自分を見つめ直すきっかけになったのではないかと考えられます。仕事観に気づくことができれば、後で化学反応が生じていろいろなものが整理されていくのでしょう。

高橋 私も同感です。仕事観は「自分にとっての仕事に対する意味」であり、おそらく自身の基準になっています。それは元々あったものだと思いますが、意識していなかった。それがカウンセリングによって意識化され、基準が明確になってきた。基準が明確になれば、「自分が今抱えている問題はどういうふうに対応していこうか」とか「この人との関係をどうしていくのか」などが、整理し直せるのです。たぶん、キャリアカウンセリングを受けた後、再整理が促されていったのだろうと感じました。

伊達 けれども、仕事観というものは忘れられてしまいがちです。日々、いろいろな業務や問題に直面していると、考える余裕がなくなってしまうからです。
 これは経営戦略でも同じですが、戦略論では複雑なルールよりもシンプルなルールの方が運用しやすいとも言われています。今回の白書でも、仕事で大切にしたいことや達成したい目標についてキーワードを書いてもらったり、仕事観を表現したレゴブロックにタイトルを付けてもらったりしながら、仕事観の変容を捉えようとしました。仕事上で自分が一番大事にしたいのはこれだ」とキャリアカウンセリングで気づくことによって、自分本来の価値観に基づいたシンプルな表現ができ、日々の仕事の中で振り返りや内省をしやすい状況になったのではないでしょうか。それが、化学反応の起こった背景として考えられます。

★このお話しの続きは、来月の当コーナーでご紹介いたします。

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