企業内キャリアカウンセリングの具体的効果とは?
[2014/01/30]
社内にキャリアカウンセリングを導入する企業が増えてきています。その直接的な意図は企業によって異なるでしょうが、根底の目的として共通するのは、「従業員が自分の内面を自覚したうえで、職場や組織全体のことを考慮し、職務満足と組織貢献を両立するようなキャリアを自律的に形成できるように支援すること」だと考えられます。
でも、キャリアカウンセリングを受けるだけで、人は変わるものなのでしょうか? 過去の事例を調べると、確かに「変わった」と判断できるケースが多いようです。しかし、変わるのは個人の内面ですから、その変化は他者から見えにくく、検証するのが難しいのが実情です。
そうした難しい検証を試みた報告があります。昨年11月にまとめられた『企業内キャリアカウンセリング白書2013』(日本マンパワー)です。実は2012年にも同様の試みが行われましたが、今回は異なる方法で【効果の可視化】がなされました。カウセリングの前後でレゴブロック(プラスチック製の組み立て用玩具)の作品がどう変わるか、という非常に興味深い実験も行われています。
本記事では、白書の概要およびポイントをご紹介いたします。ご参照ください。
自律的人材育成につながる効果の仮説
『企業内キャリアカウンセリング白書2013』の取り組みにあたっては、ある仮説が立てられました。それは【図1】に示されるような、企業内キャリアカウンセリングの効果のプロセスです。
キャリアカウンセリングを受けることによって、クライエントが本来持っている仕事観に気づく。さらに、目標が明確になる、将来展望が具体的になる、課題が整理される、視野が広くなる、という4つの変化が生じてくる。そうして、クライエントはキャリアについていろいろ考え、内省し、自律的人材になるというプロセスです。
【図1】企業内キャリアカウンセリングの段階的効果モデル
レゴブロックで効果を可視化
【図2】実験デザインの全体像
また、効果を可視化するため、グループワークではレゴブロックを使用するとともに、ワークの成果物を「インフォグラフィックス」で表現しました。
具体的なグループワークは次のようになります。
(1)キーワードマップの作成
(2)未来年表の作成
(3)ワークシートの作成
(4)モンスターのレゴの作成
(5)仕事観のレゴの制作
レゴで表現した仕事観が大きく変わる
効果の可視化イメージをお伝えするため、グループワークの中から「E 仕事観のレゴの制作」をピックアップし、どのような分析結果が得られたかをご紹介します。
このワークでは、「自分にとっての『働く』とは」「何のために働くのか」「どんな風に働きたいか」を表現するような作品を作ってもらいました。そして、作品に短いタイトルをつけてもらいました。
それらが、キャリアカウンセリングの前後で一体どのように変わったのでしょうか?
★Aさんのケース
カウンセリング前のAさんは、写真1のような作品を作りました。タイトルは「2足歩行ロボット」です。「仕事は方向性をもってやっていきたい」という意味で、ある方向に向かって歩いていくことを表現したとのことです。
しかしAさんは、キャリアカウンセリングを通じて、自分が周りに及ぼす影響をあまり考えなかったことに気づきました。
その気づきを反映して、2回目のグループワークで作成したのが写真2です。作品のタイトルは「みんなでGo Go!」。仕事は、周りに対する影響力があるものだと気づき、自分の評価や、自分が周りを引っ張っていくことなども考えるようになったそうです。周囲に対する意識が変わったということです。
キャリアカウンセリングによって、自分の影響力を意識することに気づき、自分中心の仕事観から、周囲に目が向いた仕事観へ発展した例だと言えます。
【写真1】タイトル「2足歩行ロボット」
【写真2】タイトル「みんなでGo Go!」
白書で判明した効果は?
「1回のキャリアカウンセリングで何が変容するのか?」「キャリアカウンセリングの効果の実際はどうなのか?」を知るために行われた今回の実験。結論としては、5つの仮説のうち、「仕事観への気づき」「目標の明確化」「課題の整理」「視野の拡大」が変わることが検証できました。なかでも、自分本来の仕事観に気づくことは、目標の明確化、課題の整理、視野の拡大に大きな影響を与えているようです。
キャリアカウンセリング時に変化が見られない場合でも、それをきっかけとして内省を促し、自分の価値観に基づいた成長を確認することができました。
また、これまで見えにくかったキャリアカウンセリングの効果が可視化されました。これにより、「自社にもキャリアカウセリングを導入したいけれど、経営陣を説得するための材料や根拠が弱い」とお困りの人事・教育担当者にご活用いただけるかと思います。
本白書の作成にあたっては、産学連携のもと、著名な研究者やカウンセラーの方にご協力いただきました。詳しくはぜひ本書をご覧ください。