ちょっと一息

新入社員フォローアップ

メンタルヘルス不調や早期離職を防ぐために(2)

[2010/07/01]

OJT_1 新入社員に生じやすい「心の不調」。その原因と背景については前回のメルマガでお伝えしたとおりです。
 念のため、簡単におさらいしておきましょう。
 新入社員が心の不調を生じやすいのは、環境や立場の一変によるストレス過多が原因。具体的には「自分に対する不安」「環境に対する不安」「仕事や環境に対する不満」「体の不調」が、主なストレス要因として挙げられます。
 また、ストレス要因の背景には、新入社員側の事情と会社側の事情の両側面があります。新入社員側の事情としては、「若者の気質」「入社前と入社後のギャップ」「仕事に対するプレッシャー」「コミュニケーション能力不足」。会社側の事情としては、「教育研修体制の不十分さ」「管理監督者の多忙(コミュニケーション時間をとりにくい)」があります。
 思い出していただけましたか?(読み逃した人はバックナンバーをご覧ください)

 こうした原因・背景を受けて、今月は「新入社員のストレス対策」についてご紹介します。アドバイスしてくれるのは、メンタルヘルス・マネジメント検定I種取得の小出真由美さん。管理監督者や人事労務ご担当者はもちろん、部下を持つビジネスパーソンの方はぜひご一読ください。

●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社日本マンパワー
 キャリアクリエイト事業部
 (メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅰ種取得)
 小出 真由美 さん

防止策は日頃のコミュニケーションから

 新入社員のストレス対策は、「管理監督者が職場内で改善できる対策」と、「会社が全社的に取り組んで初めて解決できる対策」とに分けられます。これらを順に説明させていただきます。

 まず、管理監督者に求められる改善対策としては、メンタルヘルス不調(心の不調)が生じる前に、日頃から新入社員とコミュニケーションをとっておくことです。
 たとえば「朝のあいさつ」。出社したら職場であいさつをすることは当たり前だと思われるでしょうが、実際にはおざなりになっているケースが少なくありません。特に、新入社員の多くはコミュニケーションが苦手なので、「声が小さい」「口ごもっている」などの光景が見られるでしょう。でも、それに対して管理監督者が「あいつはダメだ」と切り捨ててしまっては、ストレス要因を取り除くことはできません。
OJT2 むしろ、年長者が歩み寄って毎日明るく声をかけること。それが「コミュニケーションの第一歩」として非常に大切だと思います。ぜひ、いつもより声のトーンを上げて、意識して「おはようございます!」と声をかけてください。たとえ新入社員が返事をしなかったとしても、毎日毎日明るく声をかけるのです。そうすれば、多少なりとも距離感が縮まってきます。その「距離感の縮まり」が防止につながるのです。
 距離感は仲間意識・帰属意識と密接に関係します。新入社員の心に安定感をもたらしますので、新入社員のストレス要因を軽減することができます。

 また、同じ理由で「ねぎらいの言葉」も重要です。具体的には、「ごくろうさま」「ありがとう」「本当に助かったよ」「よくがんばったね」などの言葉です。こうした言葉を発するのは気恥ずかしいものですし、「言わなくてもわかってくれているはず」と思うかもしれません。でも、相手にとっては、言葉にしてもらうと非常にうれしいものです。下がってしまいそうなモチベーションが上がることもあります。ひと仕事終わった後などには、ぜひ声をかけてあげてください。


メンタルヘルス不調のサイン

 また、あいさつによるコミュニケーションは、別の効果ももたらします。毎日あいさつしていると、「あれっ、今日は声が小さいな」「なんだか元気がない」などの変化に気づくことができるのです。
 そうした変化に気づいたら、管理監督者の人は十分に留意してください。留意すべきことは「メンタルヘルス不調のサインが出ていないか?」ということです。メンタルヘルス不調のサインには、たとえば次のようなものがあります。
 ・仕事の能率が低下する
 ・仕事のミスやロスが増える
 ・遅刻、早退、欠勤が多くなる
 ・あいさつや付き合いを避けるようになる
 ・他人の言動を気にする
 ・態度が落ち着かずイライラする
 ・口数が少なくなる、または多くなる
 ・独りで考え込むようになる
 ・ささいなことで腹を立てたり反抗したりする

 サインの表れ方は人によって異なります。服装や髪形の乱れに表れる人もいます。だからこそ、日頃からコミュニケーションをとりながら観察し、「どこが変わったか」に気づくことが大切なのです。


変化が2週間続いたら要注意

 ただ、「変わった」からといって、すぐに「メンタルヘルス不調だ」と決めつけるべきではありません。別の原因によって一過性の変化が表れているだけかもしれないからです。その区別の判断は少し難しいのですが、メンタルヘルス・マネジメントの一般的対策としては、「いつもと違う状況が2週間続いたら、特別な対処が必要になる」と言われています。
 ですから、2〜3日「変わった」様子が見受けられても、いつも通りのコミュニケーションを心掛けてください。しかし、2週間近く続くようであれば、管理監督者はメンタルヘルス不調を視野に入れつつ、個別に話を聞く機会を設けるべきです。その際は、必ず別室で行ってください。みんなの前で話をしにくい事情があるかもしれません。
 話の切り出し方はケース・バイ・ケースになりますが、たとえば「最近、顔色が悪いようだけれど、きちんと眠れてる?」とか「ちょっと元気がないようだけれど、食欲がなくなったりしていない?」など、体調面の心配から入るのがいいでしょう。もしかすると、「実は・・」と話し始め、話すことによって心のモヤモヤがすっきりして解決する可能性もあります。
 一方、「あまり眠れていません」「食欲がわかないんです」など、うつ病や適応障害が疑われる場合には、産業医や産業保健スタッフ、人事労務担当者などと連携していくべきです。社内に適した担当者がいない場合は、「一度医者に診てもらった方がいいのでは」と勧めてみるのがいいでしょう。いきなり精神科の受診を勧めることに抵抗があるなら、内科や心療内科などでも構いません。
 なお、新入社員との別室面談では、相手が嫌がらない程度、プライベートに立ち入らない程度に質問を抑えてください。嫌がっている相手から無理に聞こうとすると、事態が悪化することもあります。
 このあたりはデリケートな問題なので対応が難しいかもしれません。メンタルヘルス・マネジメントのラインケアコースなどでメンタルヘルスに関する知識を習得されることをお勧めいたします。


全社的な育成サポート体制の見直しも

OJT3 会社に求められる全社的対策としては、「人材育成のサポート体制の見直し」と「職場環境の見直し」が挙げられます。
 人材育成のサポート体制については、OJTのあり方が最も重要です。もし、現状のOJTが「トレーナー1人に任せっきり」の状態であれば、早めに改善することが求められます。可能であれば、「1人が仕事を教え、別の1人が仕事に対する姿勢や悩み相談なども受けるモチベーションを高めるメンターになる」体制にしたいものです。そうすれば、新入社員が仕事でくじけそうになった場合でも、モチベーションメンターに相談ができるため、アドバイスをもらうことができ、ストレスがたまりにくくなります。
 つまり、新入社員の育成は、「誰かが1人で行う」という考え方ではなく、「組織やチーム全体で育成する」という考え方で体制を見直されるといいと思います。

 また、職場環境については、作業環境、作業手順、組織体制などが見直し対象となります。これらを一朝一夕に改善することは難しいかと思いますが、会社の将来に関わることですから、参考にしていただければ幸いです。

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