ちょっと一息

「IT×中小企業診断士」の強みvol.2

独立に備えた準備、仕事確保、年収は?

[2009/10/29]

 中小企業診断士の資格取得を考えている人の中には、「ゆくゆくは独立開業を」と考えている人もいらっしゃるかと思います。でも一方で、「仕事の依頼は来るのだろうか?」「生活できるだけの年収を得られるのだろうか?」などの不安を抱いている人も多いのではないでしょうか。

  そこで先月に引き続き、9月12日に日本マンパワー東京校で実施された「キャリア戦略セミナー」の内容をご紹介します。本セミナーでは、IT業界から転身して独立診断士となった樋野昌法さんならではの具体的事例をお話しいただきました。

今回はその中から、独立前の準備、独立開業後の仕事獲得方法や年収など、気になる内容をピックアップしました。ご参照ください。

●講師プロフィール
 樋野 昌法 氏
 中小企業診断士・社会保険労務士。工業用センサーメーカーを経て、基幹業務パッケージ開発・販売会社へ入社。営業部にて販売戦略策定、営業、システム導入コンサルテーションを担当。その在職中に中小企業診断士の資格を取得する。2007年4月、トリプルウィンコンサルティングを設立して独立開業。現在、代表取締役として、組織・人事およびITに関する経営支援、各種研修・セミナーを中心に活動している。

独立開業後の仕事獲得方法は?

 診断士として独立して実際に仕事がとれるのか? これは、独立診断士を目指す方なら、誰もがまず不安に感じることだと思います。もちろん私も同じ思いでした。

 私はIT企業に勤めながら診断士の資格を取得し、仕事をしながら独立準備を始めたわけですが、その当時はまだ、独立して仕事を獲得するための具体的なイメージはできていませんでした。そんな私も独立し、今年で3年目を迎えます。有り難いことに年々仕事の幅は広がってきています。

 では、この間どのように仕事を獲得してきたかというと、多くは「人脈」によるものです。もっとも、私だけが特別な人脈を持っているわけではありません。診断士の多くは、先輩診断士から仕事をもらい、そこからさらに人脈を広げつつ仕事を拡大していくケースが多いのです。

 実は、私も診断士になって初めて知ったのですが、独立診断士同士は仲がよく、連携をとりながら仕事をすることが多いという特徴があります。登録診断士で構成されている中小企業診断協会に入会して研究会に参加したり、支援プロジェクトなどを受講したりすれば、自然に知り合いができます。私の場合、2次試験合格後に実施される実務補修で先輩診断士から協会への入会を勧められたのが、人脈形成のきっかけでした。

 研究会に参加していると、「今、どこどこの企業がこのような仕事ができる診断士を募集している」などの情報を得られます。私もある研究会に参加していたときにセミナー講師募集の話があり、それに手を挙げました。当時はまだ企業に勤めていたため、会社に許可をもらって、自分の得意分野である給料計算や社会保険のセミナー講師を1日行いました。すると、その時のセミナー担当者から「独立するのなら手伝ってほしい」と声がかかりました。

 さらに、また別の先輩診断士と知り合うと、そこからまた次の人につながり、そこからまた次の人へとつながっていく。そうして、仕事が増えていくという流れです。私は独立前からこれを繰り返しながら、独立した後で仕事に困らないようにと地固めをしていったのです。


診断士の気になる年収は?

 では、実際に診断士の年収はいくらなのか? 生活できるだけ稼ぐことができるのか? これは誰もが気になることだと思います。私も正直、独立する前に一番心配なことでした。

 診断士の年収は人によって違いますが、標準的な平均はおおむね1,000万円程度だと言われています。参考までに、2006年のあるアンケートによると、独立診断士の年収は次のようになります。

  500万円未満       17.3%
  500〜1,000万円   30.9%
  1,000〜1,500万円 26.4%
  1,500〜2,000万円  4.3%

 こうして見ると、年収の低い人もいらっしゃいます。ただ、診断士の中には定年退職後に年金をもらいながら、診断士として少しだけ活動しているという人も結構いらっしゃいます。ですから、年収の低い人は定年退職後の人が多いのではないでしょうか。30〜40代の診断士であれば、平均年収約700〜1,200万円くらいだと予測しています。ベテラン診断士の場合は、年収2,000〜3,000万という人も周りにたくさんいらっしゃいますから、自分の努力と実力次第で多くの収入を稼いでいくことも可能だと思います。

 ちなみに、仕事の単価でみると、経営指導は1日付きっ切りで約10万円です。研修の講師料は約5万円から30万円と幅が広く、ベテランになるほど単価が高くなります。原稿の仕事はA4判1枚で5,000円くらいです。

ITの専門性を活かして稼げるか?

 正直なところ、システム開発やシステム販売などIT業務をメインとした独立診断士としてお金を得るのはすごく難しいのではないかと思います。なぜなら、独立をした時点でITの最先端ではいられなくなるからです。

 もちろん、ITを活かしてお金を得る方法はあります。たとえば、ISMS(Information Security Management System)の審査員をする、システムエンジニアやプログラマーとコンサルタントをセットにしてフリーで仕事をするなどの方法です。しかし、これらは仕事のある時とない時とでは差が激しいものです。あるいは、IT商品の代理店業務を行う方法もありますが、本業としてやるには相当の覚悟が必要でしょう。

 ですから、もしITをメインでやっていきたいと考えるのであれば、企業内診断士としてキャリアップを目指すことをお薦めします。診断士の知識があれば、経営の中枢を担える人材を目指すこともできます。

 私もコンサルティングの一環としてIT化を支援することもありますし、必要に応じて代理店業務を行うこともあります。ただ、それらはあくまでコンサルティングに付随するサービスのひとつという考え方です。もし診断士として独立するのであれば、IT業務をメインとするのではなく、IT業界で得た知識をコンサルティングに役立てるという考え方の方が現実的なのではないかと思います。

企業に所属している時に準備すべきこと

 もしみなさんが独立を目指すのであれば、企業に勤めているうちにぜひ心掛けておきたい準備があります。それは、在職中に自分の会社のことを良く知っておくことです。診断士の勉強をしていると、自社内で起こっている現象が理論として裏付けられます。そんな時は、所属している会社の良い点、悪い点を把握し、理論と現状を結び付けて具体的にメモをしておきましょう。後々、コンサルティング時に体験事例を話すと非常に貴重がられますし、自分の実体験はノウハウとして必ず役に立つからです。

 もしみなさんが大企業にお勤めなら、「申請から承認までの流れ」や「会議室の予約システム」など、日常的に行われている業務プロセスをしっかりと見ておくことです。中小企業のコンサルティングをしていると、たとえば大企業では当たり前のように行われていることができていないというケースがよく見受けられます。そうした際、大企業のシステムを中小企業に移植するだけで改善されることもあります。

 また、中小企業にお勤めの方ならば中小企業の良い点、悪い点、経営者の特徴などを身をもって体験しておいてください。そうすれば、、中小企業の経営者の特性も従業員の立場も理解でき、顧客目線からのコンサルティングが行えるようになります。それが、独立後の強みになるはずです。

 いざ独立してしまうと、企業内の経験は身につけようがありません。ぜひ今のうちに、会社の良い点、悪い点をよく見て、少しずつ自分のノウハウを増やしていくことをお薦めします。

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