ずっと寄り添い続けてもらうことで救われる人がいる
[2019/09/30]
新卒で自動車メーカーに入社し、40歳以降は自社系列の専門学校で学生募集と就職支援に尽力した平石由雄さんは、退職後、キャリアカウンセラーを目指しました。個人と会社の関係を考える中で、「一人ひとりの『個』の思いを大事にしたい」「一人ひとりを大事にする生き方をしたい」との思いを強く抱くようになったからです。
しかし、資格取得までの道のりは思いのほか険しいものになりました。筆記試験は合格したものの、実技の面接試験で足踏みをしてしまったからです。合格までに9回のチャレンジを要しました。
ただ、キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント養成講座受講から受験までの長きにわたる経験により平石さんが得た学びは、非常に深く大きいものだったと想像されます。平石さんの語りの中に、対人支援者として最も大切なものが存在するように思われるからです。
平石さんは現在、行政機関で就労総合相談員として県民の就労支援に向けて初回面談を担当しています。その「あり方」には学ぶべきことがあふれています。
平石さんのキャリアストーリー最終話を、ぜひご一読ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
行政機関 就労総合相談員
国家資格キャリアコンサルタント
CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
平石 由雄 さん
その人が本当に求めていることを
業務で気をつけていることは、相談者の第一声を優しく受け止めてあげること、そして複数の視点を持って全身で聴くということです。老若男女さまざまな背景や事情をかかえる方が来所します。まずは思いを受け止めてあげることで相手も心を開き、本当に求めていることを話してくれるからです。
「やりたい仕事が決まっているのだろうか、あるいは決まっていないのだろうか」
「仕事をするにあたって、何か障壁はあるのだろうか」
「職探しのほかに、何か別のニーズや悩みはあるのだろうか」
「何らかの背景が、その人の問題になっているのではないだろうか」
このように、さまざまな視点を持ち全身でお話を聴かないと、インテーク面談(編集部注:初回面談)を担当する総合相談員として主訴をつかみ適切な機関・専門家につなぐことができません。
この職に就いて間もないある日のこと、私は上司にこんな質問をしました。
「総合相談員の仕事をする上で、相談件数は多い方がよろしいですか?」
答えは「NO」でした。この時、量を重視するのではなく一人ひとりのお話をじっくりと聴き、適切な対応をすることを、組織としても推奨していると理解しました。
組織のこの姿勢は、「量より個」を重んじるという私の哲学と一致するもので、時間を気にせずに相談者に寄り添える大きな支えとなっています。相談者によっては、個室にご案内してじっくりとお話をうかがったり、適職診断をして一緒に結果を考えたりすることもあります。1人につき1時間半位面談することもあります。
ずっと寄り添い続けてもらうことで救われる
思うに、私たち相談員の立場でできることは限られています。その人の人生にどれほど役に立っているのかもわかりません。でも私は、徹底して傾聴し寄り添ってあげることが大事だと思っています。相談者の中には、周りに打ち明けることすらできず、自分を追いつめてここに来られる方が少なからずいるからです。
もちろん、人は、短い時間のキャリアカウンセリングだけで変わるものではないでしょう。でも、前職の専門学校で出会った、あのA君のようにずっと寄り添い続けてもらうことによって救われる人もいるのです。私自身もそうでした。CDA・キャリアコンサルタント試験に合格できず自分を全否定して追いつめられていた時、支えになったのは、合格するまでずっと親身になって伴走し続けてくれた仲間たちだったのです。
行政機関に相談に来る人も同じはずです。心の内に何らかの悩みや苦しみを抱いていて、誰かに寄り添い続けられることによって、ようやく救われるのではないでしょうか。私はそうした辛さを自ら味わった者として、「相談者に寄り添い続けよう」とキャリアカウンセリングに取り組んでいる次第です。
今、こうした素晴らしい職場で仕事ができていることを、本当にうれしく思います。そしてこれからも、さまざまなハンディキャップを背負っている人の力になれるよう、理論をベースにした信頼されるキャリアカウンセラーになりたいと思っています。私自身の力は限られていますので、さまざまな支援ネットワークとのつながりを太くするコーディネーター的な役割も果たせるキャリアカウンセラーになりたいと考えています。
自分自身が人として成長しなければならない
現在私は、地元の「人生の転機研究会」という会のメンバーにもなっています。産業カウンセラーを中心とする集まりで、職場の同僚に紹介されて入会しました。この会は「人生の転機」という視点からキャリアについての学びを深めることを目的としたものです。ゲストやメンバーの体験や講話を聴いたりグループワークなどを行ったりするのですが、メンバーは尊敬できる方ばかり。そんな方々と接すること自体が非常に勉強になりますし、私の糧の一つとなっています。
将来の夢は、キャリアカウンセリングを通じた無料の人生塾を開くことです。何かで困っている人を、地域で空いている店舗か空き家あるいは私の自宅に招いて、時間を気にせずに人生をサポートできるようなことを一緒に考える。夢物語かもしれませんが、私の究極の目標です。
私たちキャリアカウンセラーに相談に来られるのは生身の人間です。一生懸命に生きている人です。その人が何を経験し、どう感じ、どう意味づけしているのかを傾聴できることが何よりも大切です。そのためには、仕事以外のことも含めてその人を受け入れる大きな器量が必要です。キャリアカウンセラーとはそうした存在であるべきです。
私は、自分自身が人として成長しなければならないという思いを抱きながら日々を過していきたいと思っています。
最後に、私と同じシニアのキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタントのみなさんにエールを送らせていただきます。
みなさんは今、何らかの形で社会に貢献したいと思っているのではないでしょうか。貢献の仕方はいろいろあると思いますが、人生経験豊かなシニアの方は、自分の生き方、生き様を若い人に見せるのがいいのではないでしょうか。きっと、自分のためになりますし、歳を重ねることの意味も深まるように思います。
人は年を取ると、心身の機能が低下するにつれて下向きの生き方になりがちだと言われています。キャリアカウンセラーは、人としての成長に応じた分クライエントに影響を与えられるように思います。ぜひ留まることなく自分の成長を目指していきましょう。