ちょっと一息

新人育成に効くヒントと事例

OJTが計画通りに実行されない理由と、その打開策

[2015/04/27]

新人育成1

 新年度が始まって約1カ月。すでに新入社員研修が済んだ会社も多いのではないでしょうか。同時に、配属先で新入社員を対象とするOJTが始まる時期かと思われます。
 OJTは、職場の上司や先輩が後輩をマンツーマンで教育・指導する人材育成手法のひとつで、多くの企業で導入されています。しかし、制度が導入されていたとしても、実際に望ましい状態で機能しているかどうかは別問題です。
 「ウチはOJT中心で新人教育しているんだけどね。現場の問題がいろいろあって・・なかなか十分には実行できていないんだよ」などと漏らす人事担当者も少なくないようです。

 そこで、新入社員育成をテーマに、OJTをする側の問題点と解決策について、日本マンパワーの西村広隆さんにお話をうかがいました。ぜひご参照ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社日本マンパワー
 研修事業部
 部長
 西村 広隆 さん


OJTトレーナーの事情に原因がある

 企業における人材育成に対する基本的考え方は、大きく2つに分けることができます。社員個人の自助努力によって能力開発をする」という考え方と、組織が主導して育成する」という考え方です。いずれの考え方を重視するかは企業によって異なりますが、新卒採用を人員確保の主とする日本企業の新人・若手社員育成においては、後者の考え方が一般的なようです。
 新卒入社の社員に対しては、いわゆる新入社員研修と呼ばれる集合研修と、配属後のOJTが、育成の2本柱となっています。通常は、集合研修でビジネスパーソンとしての基礎知識やスキルを習得し、OJTで企業あるいは配属先特有の業務知識やスキルを指導する、という流れです。集合研修は期間が限られていますので、本格的な育成はOJTということになります。

 ただ、OJTを計画的に実行することはけっして簡単ではありません。実際、企業の人事担当者に新人育成の方法をお尋ねすると、「OJTを重視しています」と答える企業がほとんどであるにもかかわらず、「実際はいかがですか?」とお尋ねすると、なかなかできていません」との答えがよく返ってきます。
 なぜOJTを実行するのが難しいのでしょうか?
 多くの場合、OJTトレーナーOJTリーダー、あるいはブラザー・シスターなどの名称で、20代・30代の社員がマンツーマンで新人の面倒をみる役として任命されますが、その面倒見役の事情に原因があります。
※ここでは総称してOJTトレーナーと表記します。


新人育成2

どう教えればいいか、わからない

 OJTが計画通りに進まない原因のひとつは、OJTトレーナーに指導経験がないことです。教わった経験はあっても、教えた経験がない。どのように教わったかも忘れてしまっている。その結果、どう教えればいいかわからないという状況が生まれます。
 この解決策としては、教え方を教える」しかありません。日本マンパワーにもOJTトレーナーを対象とする研修や通信講座「OJTトレーナーコース」がありますが、そうした外部の機関をうまく活用されるといいのではないでしょうか。

 ちなみに、先進的な企業では、新入社員とOJTトレーナーとが一緒に参加する研修も行われています。新入社員研修とOJTトレーナー研修を同時並行で行い、最後に合同するのです。合同の場では、教える側と教わる側が2人1組になり、個別の育成計画について話し合います。これによって、人事担当者の目が行き届く状態で、確実に1回目の打ち合わせを行ことができます。現場任せにしておくと不安な場合には効果的な方法だと思います。


新人育成3

忙しくて新人と向き合う時間がない

 もうひとつの原因は、OJTトレーナーが忙しことです。一定期間、新人を預けて安心なトレーナーに任命される先輩社員は、周囲から優秀と目され、仕事ができる方が多いため、新人と向き合う時間がとれないのです。
 こうした事情を抱えるケースは非常に多くあります。しかも、OJTの管理は実質的に配属先のマネジャーに一任されますので、人事担当者の裁量で現場を指揮することができません。

 この状況の打開策としては2つ考えられます。
 まず、配属先のマネジャーにOJTトレーナーのサポーター役を務めてもらことです。トレーナーにとっては、OJTという仕事が増えたわけですから、その分、ほかの部下に支援させたり、仕事を軽減するように配慮してもらうのです。それによって、新人に向き合う時間を捻出することが可能になります。
 2つめの策は、新人からの報告に際してツールを活用することです。もちろん、対面で話すことは重要なのですが、基本的なホウレンソウメール社内掲示板を使うことで、トレーナーの対応時間を短縮することができます。その上で、疑問点や気になる点などについて面談することで、コミュニケーションがスムーズになる効果もあります。


新人育成4

交換日記スタイルの報告で副次的効果も

 日本マンパワーの社内では、あえてアナログなノートを使って、OJTトレーナーと新人とのやりとりをしたりしています。何もフォーマット化されていない罫線だけのノートに、新人は毎日、報告事項や質問事項を手書きして提出します。トレーナーも毎日それを読み、コメントを書いて返します。いわば交換日記のようなものです。
 これには、毎日続けるという習慣づと、きちんとした文章を書く練習という、2つの副次的な効果も生まれています。特に、携帯電話やSNSに慣れた新人世代は、短い単語によるコミュニケーションが日常的ですので、ビジネス文書を身につけさせる意味でも効果的です。

 OJTは、たとえ同じ制度で行ったとしても、運用のあり方によって効果が変わります。後輩に教えることで、トレーナーが学ぶことも少なくありません。OJTトレーナーに丸投げするのではなく、マネジャーや人事担当者など周囲のかかわりが大きく左右することを認識されるといいかと思います。

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