決算書を読む基礎力を身につけよう
[2010/10/29]
会社の経営実態を数値で表す決算書。正式には財務諸表と呼ばれ、複数の書類から構成されます。その中でも特に重要な書類が「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」、いわゆる財務3表です。ある程度キャリアのあるビジネスパーソンであれば、多くの方がご存知のことかと思います。
ただ、財務3表をきちんと読める人は意外に少ないようです。みなさんは、財務3表をどの程度読むことができますか?
「言葉は知っているけれど、ほとんど読めない」
「売上高や経費、利益など、記載されている数字がわかる程度」
「読めなきゃいけないとは思っているけれど、勉強したことはない」
本記事は、そうした人のためにお送りします。将来、マネジメント層を目指す人や、経営者に近い人と仕事をする人はもちろん、そうでない人も知っておいて損はありません。
わかりやすく教えることに定評のある中小企業診断士・樋野昌法さんに、基本中の基本を教えていただきました。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社トリプルウィンコンサルティング
代表取締役
樋野 昌法 さん
中小企業診断士、社会保険労務士
一橋大学経済学部卒業後、(株)キーエンスにて生産管理および給与計算業務に従事。その後、(株)エイ・アイ・エスにて販売・会計・勤怠管理ASPサービスの営業および導入・運用保守業務に従事。2007年4月に独立した後は、人材育成およびIT化支援を中心に研修や執筆等を行っている。日本女子大学リカレント教育課程講師、千葉商科大学非常勤講師。
貸借対照表はお金の調達と運用の関係を表す
財務3表とは貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を指し、決算書の中で最も重要視されている3種類の書類です。
貸借対照表とは、通称バランスシート、略称B/S(ビーエス)とも呼ばれます。これは一言で言えば、一時点におけるお金の調達と運用の関係を表すものです。
調達とは「経営に必要なお金をどのように集めているのか」ということ、運用とは「集めてきたお金をどのように活用しているのか」ということを意味します。
実際の貸借対照表で言うと、右側(図の青色部)が調達を表し、左側(図の黄色部)が運用を表しています。
もう少し詳しく見ると、右側・調達部の「流動負債」
は短期借入、「固定負債」は長期借入、「純資産」は株式や利益によって得たお金であることを示しています。
そうして調達してきたお金を、左側の「流動資産」または「固定資産」という形に変えて運用しています。「流動資産」とは在庫や売掛金など、1年以内に現金化が見込めるもの。預貯金・現金も流動資産に入ります。一方の「固定資産」とは、土地・建物・設備など短期で現金化しないものがあたります。
右側で集めたお金が、形を変えて左側になったのですから、右の合計と左の合計は一致します。
損益計算書とキャッシュフロー計算書の違い
損益計算書とは、略称P/L(ピーエル)とも呼ばれます。これは、1年間の収益と費用がどうだったかを表すものです。いわゆる、売上高や原価、人件費や地代などの経費、利益または損失の状況が、損益計算書によってわかります。
ただ、必ずしもお金の出入りと一致するものではありません。たとえば売上高を例にとると、納品して請求すれば売上高として損益計算書に加算されます。そのお金を回収したかどうかは関係ないのです。経費にしても同じです。たとえば事務用品を後払いで購入した場合、お金を支払っていなくても、品物が納品された時点で経費として計上されます。いわば、伝票上の収支と考えるとわかりやすいかもしれません。
実際のお金の出入りを表すのは、キャッシュフロー計算書です。1年間のお金の出入りを3つに分類して計算したものです。その3つとは、①営業活動によるキャッシュフロー、②投資活動によるキャッシュフロー、③財務活動によるキャッシュフロー、です。
①営業活動によるキャッシュフローとは、通常の事業活動によって得たお金です。会社の本業が対象となる部分ですので、ここがプラスでないと経営は苦しくなります。②投資活動によるキャッシュフローは、将来の事業に向けて投資に使うお金です。一般的に、①営業活動によって得たお金の一部をここに回すことになります。また、③財務活動によるキャッシュフローは、借入や返済の動きを表します。新たにお金を借りればキャッシュは増えますし、借りていたお金を返済すればキャッシュは減ります。借入も返済もしなければ、そのまま現金として残ります。
財務3表を読む2つの基本ポイント
財務3表を読む際、最も基本的なポイントとなるのは収益性の確認です。収益性とは、利益を得るための効率の良さと言えるでしょう。たとえば、1000万円の元手で100万円の利益を上げるのと、1億円の元手で500万円の利益を上げるのとでは、どちらが効率がいいでしょうか? 前者は元手の10%が利益になっていますが、後者は5%でしかありません。つまり、前者の方が収益性が高いと言えます。
このように、収益性をみるためには元手と利益の関係をみます。具体的には、貸借対照表の左側一番下にある「資産合計」(総資産ともいう)と、損益計算書の「経常利益」に注目します。そして、(経常利益)÷(資産合計)でパーセンテージを計算します。別掲のサンプル表で言えば、120÷850で約14%となります。この14%という数字を、前年と比較したり他社と比較したりするによって、収益性を評価できるのです。
なお、(経常利益)÷(資産合計)で出た数値を総資本経常利益率と言います。
また、経営の安定性を確認する場合は、主に3つの方法があります。
貸借対照表では、それぞれの関係を見ます。流動負債(1年以内に返済すべき負債)を、流動資産(1年以内に現金化できる資産)でまかなうことができるか。固定資産(すぐに現金化せず長期に使う資産)を、純資産(すぐに返さなくてもいいお金)でまかなうことができるか。それらがポイントとなります。
2つめの方法としては、純資産を総資本で割ったパーセンテージを見ます。つまり、株式と過去の利益でどれだけお金を調達できているかという率をチェックするのです。これを自己資本比率と言いますが、自己資本比率が高ければ負債の率が少なく、自己資本比率が低ければ負債の率が高いということになります。もちろん、自己資本比率が高いほど安定していると判断できます。
3つめの方法はキャッシュフロー計算書のバランスを見る方法です。理想的なのは、営業活動によるキャッシュフローの範囲内で投資活動をまかない、その余ったお金を財務活動で借入金返済や株式配当に充て、それでも現金が残って次期に繰り越せるという状態です。
財務知識は将来のキャリアに効いてくる
財務3表を読めるようになると、収益性や安定性の動きの原因まで読み取れるようになります。たとえばある会社が前年に比べて収益性が落ちた場合、なぜそうなったのか? 在庫が増えたからか、売掛金が増えたからか、値引き販売をしたからか、原価が上がったからか、人件費や広告費などの経費が上がったからか、などについて数値を根拠に特定することができるようになります。
もっとも、職種や職階によっては、こうした知識がなくても日常業務で困ることはないでしょう。逆に言えば、特定の職種・職階でなければ、財務3表を読める力がついたとしても、日常業務を遂行する能力が上がるわけではありません。財務の知識とはそうした特性を持ちます。
しかし、将来マネジメント層になれば、財務3表とマネジメントを結びつけて実務を行う必要に迫られるはずです。たとえば、担当部門の予算計画を立てる時は、財務3表にどのように反映するかを把握した上で検討しなければ、組織に貢献することは難しいと言わざるを得ません。あるいは、会社の経営に問題がある場合、財務3表を読む力があることによって、問題発見に対する感度が高くなります。
また、経営層に近い人と仕事で接する機会のある人は、財務3表を読むくらいの財務知識を持っていなければ、会話の水準が合わないこともあろうかと思います。
私は経営や財務に関する研修の講師を任されることがありますが、受講者の中には、マネジメント層に昇進して初めて財務3表の読み方を知る人もいます。そうした人がよく言うのは、「もっと早くに知っておけばよかった」という後悔の言葉です。
それほど難しいことではありませんので、ご自身のキャリアアップのためにも、財務の基礎知識を早めに学習しておくことをお勧めいたします。
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