ちょっと一息

ハッピーキャリアの作り方 vol.96

「CDAの学び」をどう活かしていくか(後編)

[2018/08/30]

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 その人らしい生き方・働き方を支援する専門家、キャリアコンサルタント。資格取得後も、講習や研修、ワークショップや自主勉強会など、継続的に学習して活躍につなげていけるような学びの場がたくさんあります。たとえば、有資格者がネットワークでつながり、全国各地で開催される各種イベントもそのひとつです。
 本記事は、7月7日(土)に東京で行われた『「資格取得で得た学び」をどう活かしていくか』というイベント(※)の中で、日本マンパワー『キャリアコンサルタント養成講座』講座開発担当者・田中稔哉さんがお話ししてくれた基調講演の後編です。
 前編では、AIと道徳の観点からキャリアカウンセラーを捉え直すというショッキングな内容でした。その続きとなる今回は、「組織内キャリアカウンセリングの制約や難しさをどのように考えて乗り越えていくか」「活躍しているCDAにはどのような共通点があるか」などが中心テーマとなります。
 もっと組織内で資格を活かしていきたいと考える有資格者はもちろん、キャリアや資格に少しでも関心のある方は、ぜひご一読ください。きっと何かのヒントになると思います。
(注釈)
※JCDA西関東支部西東京地区および日本マンパワーによる共催イベント(於:国立オリンピック記念青少年総合センター)


●講演者
 株式会社日本マンパワー
 取締役
 キャリアコンサルティング事業推進部長
 CDA、1級キャリア・コンサルティング技能士、精神保健福祉士
 田中 稔哉 さん


組織内キャリアカウンセリングの対立軸

 それでは、組織内キャリアカウンセリングについて話題を提供させていただきます。
 組織内キャリアカウンセリングを考える場合、個人の意向を優先するのか、組織の意向を優先するのか、という議論がよく生じます。「個人寄りになるとこうだ」「会社寄りになるとこうだ」など、現場における難しさを耳にすることが少なくありません。
 その原因として考えられるのは、仕事をどう捉えるかについて、会社と社員とで異なることです。会社にとっては「社員にはこれをしてもらわなければいけない」というMustがあります。一方、社員には「興味」を意味するInterest、「価値」を意味するValue、「能力」を意味するCanがあります。しかし、これらが一致しにくく、むしろ、対立軸になりがちです。ですから、組織内キャリアカウンセリングの定義についても、会社と社員とで異なってしまいます。

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個人のWillと会社のMustは対立しない

 こうした状況で大切なことは、Must、Interest、Value、Canのそれぞれを拡大していくことです。
 たとえばMustについては、仕事への考え方や捉え方を変えてみます。自分の興味、価値観、能力に沿った形で、自分に対するニーズ周りの環境を捉え直してみる。仕事内容職場環境を捉え直してみる。また、Interestを拡大して考えてみる。ValueもCanも拡大していく。場合によっては、やり方を変えてみるという方法もあるでしょう。そうした場合に、果たしてMust、Interest、Value、Canの重なりが現れるのか、あるいは重ならないのか。
 こういうふうに考えて重なる部分を見つけられると、「やりたい」というWillが出てくるのだろうと思います。ですから私は、WillとMustは対立するものではないと思っています。Mustを含んだ形でWillが出てくるのだろうと思います。

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 このような考え方をジョブ・クラフティングと言い、個人の“やらされ感”を“やりたい感”へと変えることが可能になります。組織の中では、自分のやりたいことだけを明確化していくというやり方は、望ましいとは言えません。社員個人が、自分のキャリアの方向性や自己概念に近い方向に仕事内容・職場環境を捉え直せるような働きかけを自ら行い、自分の興味、価値観、能力を工夫していくことが望まれます。ですから、組織内キャリアカウンセリングでは、それを促していくことが必要だろうと思います。
 別の表現で言えば、社員個人のWillはMustを含みます。社員のやりたいことは、会社の期待を含んでいるのです。会社がしてほしい仕事を認識した上で、それに応えたいということを含めてWillなのだと認識されるといいかと思います。


組織内キャリアカウンセリングの効果

 組織内キャリアカウンセリングの効果についても情報提供しておきます。
 まず、仕事に対する価値づけ、つまり、自己理解や課題整理、視野拡大を図る効果です。これにより、個人にとっては仕事への動機づけにつながり、組織にとってはリテンション(人材確保)につながります。ただ、リテンションについては、「キャリアカウンセリングをすると社員が辞めてしまうのではないか」、あるいは「残ってしまうのではないか」など、組織の思惑や理解度、誤解などによってさまざまな捉え方があります。
 また、キャリアビジョンについて個人と組織の方向性がずれている場合、WIN−WINの関係になるようにすることが課題となります。キャリアカウンセリングはそのキャリアビジョンを双方ですり合わせをして明確化することを可能にします。
 ほかにも、自立型人材の育成、職場の人間関係調整や対話促進、メンタルヘルス不調の防止と早期発見などが挙げられます。このうち、人間関係の調整については、家族を含めてその人に影響を及ぼしている関係者が職場だけに存在するとは限りませんので、難しい面があります。家族療法の専門家・吉川悟さんがDVDを発行しているのですが、それを見ると、どのように複数の人をカウンセリングの場に呼んで調整するのかがよくわかります。ただ、実際にカウンセリングするのは相当難しいと思います。
 これらをまとめるとやはり、「個人と組織の自律的成長への促進」が組織内キャリアカウンセリングの効果だと言えます。


「学び」活用の課題・制約・難しさ

 一方で、組織内キャリアカウンセリングには課題も多々あります。主なものを上げると、「経営層の理解」「効果の見える化」「個人のためか組織のためかの対立軸化」「組織・職場の人間関係への介入」「守秘義務、業務範囲」「相談者との多重関係」「品質の保持」「他の人事施策・制度との連携」などです。
 少し補足しておきますと、「人間関係への介入」は、社内のキャリアカウンセラーであれば事情がわかりやすいので介入しやすい状況である半面、介入による弊害もあります。
 「守秘義務、業務範囲」については、社内カウンセラーであっても社外カウンセラーであっても、事前にきちんと決めておくべきかと思います。
 「品質の保持」とは、ケースカンファレンススーパービジョンコンサルテーションの制度化などを指します。特に、社内のメンバーがキャリアカウンセリングをする場合は大切なポイントのひとつとなります。実際、日本マンパワーがケースカンファレンスやスーパービジョンを依頼されるケースも多くなってきています。
 ほかにも、みなさんが組織の中でキャリアカウンセリングの学びを活用する上で、課題や制約、難しさを感じる点はさまざまあるだろうと思います。


専門家として活躍しているCDAの共通点

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 最後に、今、どのような人がCDAとして活躍しているのか、CDAに関連する仕事だけを生業としている専門家の共通点をご紹介します。
 まず、ほとんどの方が、1対1のキャリアカウンセリングだけではなく、研修・セミナーの講師や、ワークショップの企画・運営・ファシリテーターをされています。そうしたグループへの支援ができるようになると、経済的な自立への道に近づくように思います。
 また、特定の領域のクライエントに専門的な支援をする人が増えつつあります。たとえば、がんなどの難病患者やその家族、外国人、生活困窮者、受刑者、不登校児やその家族などへのキャリアカウンセリングです。長期入院患者、特に精神科の長期入院患者の方に社会復帰していただこうという動きもあります。こういった特定領域へ入り込んでいくと、そこに強いニーズがあることは少なくありません。私のCDA仲間にもたくさんいます。私自身、退院が近づいてきた方を対象とするキャリアカウンセリングや講演を、病院で行った経験があります。
 特定領域という意味では、トップマネジメント層や高度専門職層への個別支援を生業としている人もいます。これらの方は経済的な余裕がありますので、1回ごとの報酬がかなり高いようです。
 ただ、気をつけなければいけないのは、自分が望む支援をできるかできないかは組織によって異なるということです。たとえば、「自分はMBTIを使えます」「自分は精神疾患の勉強をしたので、うつ病にも対応できます」と主張しても、組織の枠組みによって「できる組織」「できない組織」があります。ですから、自分に対応可能なスキル経験があり、それが可能な組織または立場を得ることが条件となります。
 ほかでは、『キャリアコンサルタント養成講座』など養成の指導者になることです。今でも、インストラクタースーパーバイザー、ケースカンファレンス運営ができる人材は求められています。
 もちろん、こうした専門家への道はたやすいわけではなく、最初は思うようにいかないかもしれません。しかし、あきらめないことが重要です。あきらめずに今いる場所でやり続けることが、活躍されている人の最大の共通点です。『キャリアコンサルタント養成講座』のインストラクターと定期的にお話をする機会がありますが、そうした立場の方でも、かつて未経験の頃にはボランティアをされていた方がほとんどです。無報酬だからこそチャレンジできたことも多いのではないでしょうか。その意味で、みなさんの学びを助けてくれたインストラクターの先生方は、できないからといってあきらめることなく、今いる場所で活動し続けてきたロールモデルかもしれません。CDAとして活躍なさっている人を見るとそう感じます。
 以上、ご清聴ありがとうございました。

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【編集部より】
★イベントを振り返って
今回のイベントに参加した人は約70人。さまざまな組織、さまざまな立場で活躍されているキャリアコンサルタントが一堂に会しました。初めて出会う人がほとんどでしたが、みなさんが対人支援の有資格者で、なおかつ「資格を活用するためにもっと学びたい」という姿勢で集まった方たちですので、講演途中のグループワークは非常に勉強になりました。
また、基調講演の後には、すでに組織内で資格を有効に活用なさっている4名の方の事例発表がありました。自分の業務内にキャリアコンサルティングを組み入れた方、業務外でボランティア的にキャリコンサルティングを実行している方、会社という場を変えながら自己実現に向かっていく方など、それぞれのお話が刺激的で参考になりました。
「果たしてキャリアコンサルタントとは何か」を考えさせられたとともに、考えて自分の言葉にしていくことの大切さを改めてかみしめた1日でした。
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