使い方・読み取り方のスキルアップに向けて
[2014/09/29]
就職活動を控えていると、何らかの適性検査を受けるケースがあります。みなさんは、そうした検査を受けられたことはありますか? その結果を見た時、どのような気持ちになったか覚えていますか?
なかには、「私がやりたい仕事とまったく違う職業が“適職”だって結果が出た」ということがあるかもしれません。あるいは、「どうも結果に納得がいかない」とモヤモヤを感じることがあるかもしれません。
しかし、東京未来大学教授の高橋一公先生によれば、「職業適性検査やパーソナリティ検査とはそもそもそうした側面のあるツールです。検査結果に記載された内容は100%の答えではありません。大切なのは、結果をどのように読み取り、どのように活用していくかです」ということです。適性検査は使い方次第で非常に有効ではありますが、扱いを誤解しやすい危険も多いようです。
そこで、『適職診断検査CPS−J』をはじめとする適性検査など(アセスメント・ツール)の活用と注意についてお話をうかがいました。高橋先生は、キャリアカウンセラー養成講座テキストの「アセスメント」の章を執筆された方で、大学では「キャリアカウンセリング」の授業も担当していますので、卓越した見識をお持ちです。CDAの方はもちろん、検査を受けようとする人や、あるいはこれまでに検査を受けて結果を消化しきれていない人も、ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
東京未来大学
モチベーション行動科学部
教授
高橋 一公 さん
専門は生涯発達心理学。特に人生後期の発達や日本人の老年観に関心が高い。
臨床発達心理士、精神保健福祉士。
著書に「家族の関わりから考える生涯発達心理学」「図解雑学 発達心理学」(ともに共著)などがある。
「人を検査する」アセスメント・ツールとは
適性検査や心理検査など、個人の特性を推測したり行動を予測したりする検査のことを、総称してアセスメント・ツールと呼びます。アセスメント・ツールは便利な半面、勘違いされやすい面もあり、検査を実施する人も受ける人も注意が必要とされます。そのため、最初にアセスメント・ツールとはどのようなものであるかをご理解ください。
まず、アセスメント・ツールとは、人の内面すべてを数値化するものではありません。あくまでも、個人のある側面をあるモノサシで測定し、それを見える形で示したものです。例えて言えば、人の姿を一方向から撮影したようなものです。逆の方向から撮影すると別の姿に見えるかもしれませんし、カメラや撮影者が変わっても違う写真になるでしょう。つまり、アセスメント・ツールとは、人の100%をみるものではないのです。
次の特徴としては、ツールによって目的が異なるということです。その枠組みは、大きく分けて2つあります。
ひとつは、その人の最大のパフォーマンス(潜在能力)を測定する検査です。たとえば知能検査などがそれにあたります。
もうひとつは、その人の通常レベル・一般行動レベルのパフォーマンスをみる検査です。職業適性検査やパーソナリティ検査がそれにあたります。ただ、「通常」「一般」といっても当然幅がありますし、受検者や受検態度によっても結果に差異が出てきます。それを念頭に置いてください。
3つ目の特徴は、特に適性検査の場合ですが、あくまでも傾向をみているということです。「傾向」とは、完全なる答えではないということです。しかも、その人のキャリアによっても結果は変わります。たとえば、何度も転職を重ねた職業経験豊かな人と、職業経験のまったくない学生が同じ結果が出たからといって、その2人がまったく同様の興味・適性を持っているとは言えないのです。
アセスメント・ツールは自己理解や他者理解を深めるための参考にすることを目的としたものであり、結論づけるためのものではありません。大切なのは、結果を適正に読み取り、個々の受検者をしっかり見ながら、その人に合った使い方をしていくことです。
適職診断検査に内在する情報から何を読み取るか
『適職診断検査CPS−J』(以下「CPS−J」)も、代表的なアセスメント・ツールのひとつです。『CPS−J』は、キャリアカウンセリングに大きな影響を及ぼした職業心理学者・ホランドの職業選択理論と、同・プレディガーの職業分析をベースにつくられています。検査内容は興味検査と能力自己評価検査の2つで構成され、非常にビジュアル的でわかりやすい結果(写真参照)が出ます。
ただ『CPS−J』を、単に人と職業とをマッチングさせるだけの診断だと考えるべきではありません。ホランドの理論的背景を考えると、「その人が生涯にわたってどのような人生を歩んでいくのかという、ひとつの方向性を示してくれる検査」だと捉えられるからです。
また、検査結果のアウトプットがわかりやすい一方、実はそこに含まれる情報量が非常に多い検査でもあります。
たとえば、別掲の人の場合、一見すると、「慣習的」「研究的」がやや強く出ていて、「企業的」にも興味があるタイプだと思われるかもしれません。確かに、ルーティン的な仕事を得意としながら、真理を突き詰めて考えるような研究的なタイプの人のように見受けられます。また加えて、このように興味が多くのタイプに分かれる人は、今までの転職経験が興味の方向性に影響を与えている可能性があります。過去の仕事を通して多方面へ興味が深まっていった人なののかもしれません。
また、能力自己評価検査の得点が一様に高いことから、さまざまなことに積極的に取り組み、応用の利く人のようにも見受けられます。加えて、興味検査が中間位置に集中していることから、回答の際に直感で答えたのではなく、客観的に設問を読み解き、自分の感情を少し抑えて回答した可能性もあります。
こうした結果の読解は、学生や一般の方には少し難しいと思いますので、実施者なりキャリアカウンセラーなりがその意味を読み解き、受検者一人ひとりに説明しながらフィードバックすることが望まれます。
実施者・支援者に望まれる使い方と留意点
アセスメント・ツール活用に際して、フィードバックする側の実施者やキャリアカウンセラーには、十分な注意が求められます。
まず、どのような目的でそのアセスメント・ツールを使うのかを明確にしておく必要があります。基本的には、アセスメント・ツールはその人を理解するための手段のひとつと考え、検査結果をスタートもしくは変化の過程として、支援に役立てていくべきかと思います。たとえば学生に対する場合は、就職・職業に対する意識啓発のきっかけとして大きな効果が見込まれます。
また、検査自体の目的について、開発背景を踏まえて理解するとともに、結果が意味するものを多面的に読み取れるように研鑽することも大切です。特に就職に関する適性検査の場合は、結果の理解がキャリアカウンセリングや就職指導に直接つながりやすいため、適切な理解は利用する上での最低限の条件となります。
そして、結果のフィードバックにあたっては、できる限りフェイス・トゥ・フェイスできちんと説明してあげてください。その人に合った支援のためには、個別に変化をみながらモチベーションアップにつなげていくことが大切です。
なお、絶対に避けるべきことは、結果による断定です。結果を元に考えてしまうと、その人自身を無視することにつながります。受検者本人も「結果は結論」だと勘違いしやすく、場合によっては自分の意思と違う結果に反感や不信感を持つこともあります。
ですから必ず、きちんと結果の意味を正しく、誤解を受けないように説明してください。その上で、たとえば「○○という結果が出ていますが、自分ではどう思いますか?」とか「検査を受けてみてどうでしたか?」という質問を織り交ぜながら、将来の可能性と具体的な行動対策につなげていかれればいいと思います。
受検者が学生であれば、自分の想定以外の結果が出ている様子に対して、「もしかすると、あなたの新しい側面が発見できたのかもしれませんね」「職業選択の幅が広がってよかったじゃない」と言ってあげることが、視野の広がりにつながることもあります。ただ、これもその人次第ですので、しっかりとその人をみて、継続的に変化を確かめながら活用されることが望まれます。
特に、『CPS−J』は奥の深いツールですので、単にタイプの結果をフィードバックするのではなく、その裏に隠された掘り下げが重要です。その「掘り下げ力」こそ、キャリアカウンセラーや支援者としてのスキルと捉えることもできますので、そうした立場の方は、ぜひ自己研鑽に努めていただければと思います。