電子メールの文書に隠された落とし穴
[2014/03/28]
ビジネスでは、さまざまなシーンで文章力が求められます。たとえば、営業ツール、企画書、報告書、プレゼンテーション資料、Webサイトコンテンツ・・等々。
そうした文章の中で、非常に重要な役割を持ちながらも、比較的軽視されているのが「電子メール」ではないでしょうか。なぜなら、営業ツールや企画書などはプリントアウトして上司のチェックを受けることが多いでしょうが、電子メールの文章を逐一上司がチェックするという話はあまり聞かれないからです。
しかし現実的には、顧客への営業提案や取引先との交渉など、重要な事柄を電子メールでやりとりすることは少なくありません。そうした大切な文章に、みなさんはどの程度気を遣っていますでしょうか? もしかすると、自分が気づかないだけで、相手は不快な思いをしているという実態が隠れているかもしれません。
そんな電子メールでのコミュニケーションについて、情報発信のプロフェッショナル・水谷一生さんにアドバイスしていただきました。水谷さんの話によると、意外な落とし穴があるようです。ご参考にしてください。
●アドバイスしてくださったのは・・・
有限会社エディット
代表取締役
水谷 一生 さん
メール文書が会社を代表することも
私は職務上、さまざまな業種・職種・立場の方とメールのやりとりをする機会がありますが、そうした中で強く感じることが2つあります。ひとつは、「メールの文章にはその人や会社の姿勢が表れやすい」ということ。もうひとつは、「受信者が文意を誤解しやすい」ということです。直接合って話をしたり電話で話をしたりする場合は、表情やしぐさ、声のトーンなどの情報が、発する言葉に加わりますが、メールは文章だけで判断されます。ですから、知らず知らずのうちに相手を怒らせたり、自社のイメージを下げてしまったり、誤解されてトラブルに発展したりするケースがあり、非常に怖いツールだと思います。場合によっては、うまくいく商談もうまくいかなくなる危険性を孕んでいるのではないでしょうか。
ですから弊社では、社員の書いたメールを上司がチェックすることもあります。なぜなら、メール内容が「会社を代表した意見」と捉えられることがあるからです。
おそらく、メールの文面を事前チェックするようシステム化されている会社はごく稀でしょう。だからこそ、個々のビジネスパーソンがメール文書を重視する必要があるように思います。
自社のイメージを低下させるメール
メールでのコミュニケーションで留意すべき点はいくつかありますが、よくある“改善すべき点”のポイントとなるのは、想像力と気遣いです。いくつか例を挙げてご紹介いたします。
●連絡先登録における姓名の記載方法
Microsoft Outlookなどのメールソフトの画面には、宛先が表示されます。たとえば私の場合、「水谷一生様」とか「エディット水谷様」などと表示されます。この表示は、返信でない限り、差出人が登録した名称です。つまり、メールの受信者にとってみれば、「相手が自分のことをどのような名前で登録しているか」を知ることができるのです。その時、「水谷一生」と呼び捨てだったら、受信者はどう思うでしょうか? 少なくとも「大切にされている」と思われることはないでしょう。うがった見方をする人には、「きちんとした教育が行き届いていない会社なんだな」と評価されてしまうかもしれません。
●他者のメールを気軽に転送
ビジネスでは、複数の関係会社が共通のプロジェクトを行うケースがあります。たとえば、A社がクライアント、B社が代理店、C社がB社の協力会社、というようなケースです。こうしたケースでは、A社とC社が直接コンタクトを取らず、B社がすべての情報拠点となる場合が少なくありません。
しかし、「A社からB社に送られたメールを、B社がC社に転送する」という現実が見受けられることがあります。逆に、「C社からB社に送られたメールを、B社がA社に転送する」という場合もあります。部署も氏名も連絡先も、すべて開示してです。
こうした担当者のいるB社を、情報セキュリティ面で信頼できるでしょうか?
●メールの返信が遅い
1通のメールに限った時、そのメールは一方通行です。ですから、相互確認することができません。差出人が「メールを送ったから読んでくれているはず」と思い込んでいても、受取人は何らかの事情で読むのが遅くなっているかもしれません。逆に、受取人がすぐ読んでいたとしても、差出人が「もう読んでくれているだろうか? もしかすると届いていないかも」と不安になることもあります。
これらを解消する方法は、差出人が改めて電話などで確認するしかありません。ただ、名刺などでメールアドレスを開示している以上、「受取人がなるべくこまめに受信を確認し、なるべく早く返信する」ことが当然だと思います。ビジネスだからです。
メールの返信が遅いと、差出人が困ることがあります。たとえばスケジュールの調整。差出人がスケジュール調整をしようとメールを送っても、受取人の返信が遅くなると、差出人の業務管理に影響することがあります。
ですから、相手を大切にする姿勢があれば、「○○さんは忙しいだろうから、早くスケジュールを確定させたいだろうな」と想像し、「そのためには自分が早く返信しよう」と気遣うべきではないでしょうか。
逆に言えば、「返信の遅いビジネスパーソンは、想像力が乏しく、相手を大切にしていない人」という見方もできます。今後のビジネスに有効に働くとは思えませんが、いかがでしょうか?
適切でない文書に気づきましょう
今挙げた例は、文章内容以前の問題でした。次は、メールに文章を書く上で“改善したい点”をご紹介します。ここで大切なポイントは、「明確に伝える」ということと、「勘違いを未然に防ぐ」ということです。この点でも、想像力と気遣いは欠かせません。
ちなみに、もしみなさんが誰かにメールを送った際、電話で詳細な説明を求められたら、それはメールの文章が不備だった可能性が高いと思われます。
●何も言っていないのと同様の内容
たとえば、D社がE社に商品を納品した後、E社から次のようなメールが送られてきたとします。
E社→D社「商品の納入ありがとうございました。ただ、パッケージに不具合があるように見受けられます。これを修正していただくことは可能でしょうか?」
これに対してD社は、次のような返信をしました。
D社→E社「申し訳ございません。パッケージについては、技術的な限界があり、作業員の不備もあったようです。本当にご迷惑をおかけしました。」
E社は「修正できるかどうか」を問題にしているのに対し、D社は謝罪と言い訳しかしていません。これでは、E社の感情を逆撫でするだけです。まずは、「修正できるかどうか」を告げるべきです。
これは極端な例ですが、似たような例はよく見受けられます。相手が何を問題としているかを想像・把握した上で、それに対して的確に応えなければ、何も言っていないのと同じか、それ以下の対応になってしまいます。
●勘違いされやすい文章
メールでは言葉足らずになりがちなので、受信者が勘違いすることもしばしばです。たとえば、デザイン会社のF社がG社に提案をしたら、G社から次のようなメールが来ました。
G社→F社「ありがとうございます。とてもいいと思います。ただ、写真が少し大きく感じられますので、全体的に縮小してバランスをとってください。よろしくお願いいたします。」
このメール文章で勘違いする可能性がある点は、「全体的に縮小」と「バランスをとって」という個所です。
「全体的に縮小」という個所では、写真だけを全体的に縮小するのか、デザインの全体を縮小するのかが明確でありません。一方、「バランスをとって」というのは、何と何のバランスをとるのか、意味不明です。
このような勘違いを誘う文章を改善するためには、言葉足らずにならないように、ていねいに説明する必要があります。たとえば、次のように改善できます。
G社→F社「ありがとうございます。とてもいいと思います。ただ、写真が少し大きく感じられますので、写真を全体的に縮小した上で、タイトルとのバランスが変にならないよう調整してください。よろしくお願いいたします。」
メールで何かを説明する場合は、「相手がこの文章を読んだら、どのように解釈するだろうか?」と文章を推敲することをお勧めします。そうでないと、相手の勘違いを誘い、トラブルの元になりかねません。
ビジネスを円滑に進めるために
今や、メールなしではビジネスが成立しないほど、誰もが当たり前のようにメールを利用しています。すでに、メール文化の成熟に伴って、「手軽に伝える」という利便性だけでなく、「何を伝えるか」「どのように伝えるか」という面が重視されてきています。
ただ、こうした配慮はまだ、一部のメールマガジンや販売サイトに限られているように思います。ビジネスパーソンが日頃扱うメール、特に営業的な意味合いをもつメールの文章では、その重要性を認識し、自分や自社の意識・姿勢・能力を反映するツールとして慎重に捉えてはいかがでしょうか。
もちろん、私が挙げた例のほかにも留意すべき点はたくさんあります。日本マンパワーにもビジネスでの文章力・日本語力を高める通信講座がいくつかあるようですので、受講されてみるのもスキルアップにつながるひとつの方法だと思います。