ちょっと一息

ナラティブでCDAが変わる

キャリアの枠を超えて「生きる意味」の気づきを

[2014/03/04]

晴れやか 過去2回にわたって紹介してきた「ナラティブ」(=語り・ストーリー)。それらを要約すると、次のような内容になります。

【自分の人生をていねいに振り返って語り直すと、過去の現象に対する意味づけや価値観が変わる。過去の意味づけや価値観が変われば、現実像も変わる。それによって、自分らしさやアイデンティティも変わってくる。過去の囚われからも解放され、自分に自信が持てるようになる。その結果、未来に向けてのエネルギーがわいてくる。】

 こうしたナラティブの特性を最大限に活かすためには、ていねいに質問してくれる他者が必要です。でも、「人生を振り返りたいから、ていねいに質問してくれる?」と頼める相手なんているのでしょうか?
 そこで注目されているのがキャリアカウンセラーです。すでにアメリカでは、ナラティブ・アプローチによるキャリアカウンセリングがブームになっているそうです。日本ではまだ発展途上ですが、これを機にキャリアカウンセリングの役割が大きく拡がる可能性もあります。
 先月に引き続き、日本キャリア開発協会の大原良夫理事兼事務局長にお話をうかがいましたので、ぜひご参照ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 日本キャリア開発協会
 理事 兼 事務局長
 大原 良夫 さん


米国でブームのナラティブ・キャリアカウンセリング

——ナラティブの特性を活かして「人生を語り直す」ことの意義はよくわかりました。読者の方が実際に人生を語り直すには、どのようにすればいいでしょうか?
大原:難しい質問ですね。ナラティブを実践するためには、ていねいに質問してくれる他者が必要になります。しかも、質問する人が家族や友人など一般の人の場合、ナラティブには至らず、四方山話で終わってしまう可能性が大きいと言わざるを得ません。
 その点で私は、キャリアカウンセラーに期待をしています。「過去の経験を振り返って新しい意味づけに気づき、将来に向けての力とする」という点で、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の経験代謝という考え方に似ている部分があるからです。
 実際、アメリカではナラティブ・アプローチによるキャリアカウンセリング、いわゆるナラティブ・キャリアカウンセリングがブームになっています。適職診断などの従来ツールと複合してカウンセリングを行っていることが多いようです。

——日本ではいかがでしょうか?
大原:残念ながら、日本ではナラティブ・キャリアカウンセリングのノウハウが確立されていませんので、今後の課題となります。

手帳——そう言われると、ますます語りたくなりますね。
大原:ナラティブについて説明すると、多くの方がそう言います。特にある程度の年齢を重ねてくると、私の人生、どうだったのかなぁ」とふと疑問に思い、機会があったら誰かに話してみたい」という欲求を抱くのが自然ではないでしょうか。
 ただ、ナラティブのことを知らない人は、「私の人生を話しても何の意味もない」「話しても、誰も聞いてくれないだろう」「私の人生はたいしたことがない」などという先入観に囚われがちです。深刻な悩みを持っている人ですら、悩みは自分で解決すべき」だという思考が働きがちです。
 そうした先入観を捨てて、ナラティブ・アプローチで自分の人生を語ってみると、みなさんが感激すほどなのですが・・。


キャリアカウンセラーは第二の占い師になるべき

——悩みのある人は誰に相談しているのでしょうね?
大原:女性の場合は占い師でしょう(笑)。もちろん、家族や友人、同僚に相談するケースが多いのでしょうが、第三者となると占い師が最も認知度が高く、敷居が低いように思います。
 ですから私は「キャリアカウンセラーは第二の占い師になるべきだ」と、真剣に考えています。誰かが「自分の人生を聞いてもらいたい」「人生の悩みを打ち明けたい」と望んだ時、気軽に話せる相手になるべきだと思うのです。

——キャリアカウンセラーであれば、さまざまな理論や傾聴スキルなどに裏付けられていますので、最適のような気がします。
大原:キャリアカウセリングの流れは、大きく2つに分けられます。ひとつは、個人と職業のマッチングです。クライエントが望ましい職業選択をして仕事に就ためのお手伝いをする役割です。もうひとつは、キャリア開発です。クライエントの特性に合わせて職業能力を高めるためのお手伝いをする役割です。
 そして、私の考える第3の流「生きる意味を考える」もしくは「人生の目的を考える」ための役割です。それがまさに、ナラティブ・キャリアカウンセリングなのです。


にこやかカウンセラーもクライエントも元気になる

——大原理事は、「あなたが今まで生きてきた人生をお話しください」というアクティビティを行ったとのお話でしたが、キャリアカウンセラーの立場としてはどのように感じられましたか?
大原:その際は、1回2時間のセッションを5回、合計10時間をかけて1対1で話しました。そうした経験で強く感じたのは「話を聴いている私が虜(とりこ)になってしまう」ということです。
 多くの人は、自分の人生は、有名で成功した人に比べてたいしたものではないと思っていたり、価値ある過去を忘れてしまっていたりします。でも、30年も40年も生きてきた方々ですから、さまざまな志向や感情、パワーが必ず詰まっています。ですからお話を聴いていると、「この人、すごいなぁ」「そんな風に生きてきたんだ」などと刺激を受けます。聴いているだけで次から次へと興味がわいて、元気になってくんです。
 そうするとクライエントが、「私の人生って、そんなにおもしろいですか?」などと、不思議そうに尋ねてきます。
  「いやあ、おもしろいですよ。本当に頭が下がります」
  「そうかなあ?」
  「そうですよ」
  「そうなんですね」

 長時間にわたるこうした会話を通して、私が元気になり、自分の話を興味深く聞く私の姿を見たクライエントも元気になってきます。相乗効果のような不思議な感覚は、経験した人にしかわからないかもしれません。おかげで私は、ナラティブをやめられなくなってしまいました

——自分の人生を語り直せる機会、人のナラティブを聞ける機会がもっと増えるといいですね。
大原: 繰り返しになりますが、日本ではまだ始まったばかりの試みですから、ノウハウを積み上げていく必要があります。その上で、キャリアカウンセラーが第二の占い師的存在になって、みなさんが未来を明るく捉えられるきっかけを作れるようになることを切に望みます。

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