卒業生が相談・報告に来る、大学のキャリア支援
[2015/02/27]
3月1日、大学新卒学生を対象とした就職・採用広報活動のスタートです。今年度から時期が変わりましたので、学生のみなさんにとっても、保護者の方にとっても、学校の就職支援ご担当者にとっても、企業の採用ご担当者にとっても、今後の動向は非常に気になることかと思われます。
ただ、よく言われることではありますが、就職はゴールではなく、仕事人生のスタートです。もちろん、志望する就職先から内定をもらうことはすばらしいことですが、たとえ志望通りに就職できたとしても、働き始めてから悩みや不安が生じてくることは多々あります。「大学新卒者の3割が3年以内に離職」という離職率状況も改善の兆しが見られません。
そうしたなか、卒業生のキャリア支援をしている大学があります。東京都市大学です。そのキャリア支援センター課長であり、キャリアカウンセラーでもある小板橋孝雄さんにお話をおうかがいしました。どのような支援をしているのか、ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
東京都市大学
キャリア支援センター 課長
小板橋 孝雄 さん
キャリアカウンセラー(CDA)
大学卒業後、大手旅行代理店勤務を経て、私立短期大学の就職支援センター・私立大学キャリア支援センター(現職)に勤務。講座企画運営、学生の就職先となる企業とのパイプづくり、キャリアカウンセリング・コーチング・NLPを取り入れた個別指導などに取り組んでいる。2001年6月キャリアカウンセラー資格取得。特定非営利活動法人(NPO)日本キャリア開発協会に籍をおき、高校生のキャリアカウンセリング、キャリア教育プログラムの研究、企画・運営などを行っている。また、キャリアカウンセリングのファシリテーター、スーパーバイザー、JCDA認定PFAとして協会に所属するカウンセラーのトレーニング支援や研究にも取り組んでいる。
自分への手紙をきっかけに
大学や学生時代の仲間を思い出してもらう
——大学新卒で入社した社員のうち、3割が3年以内に離職すると言われています。大学のキャリア支援センターで実際に学生と接している立場から見て、どのようにお考えですか?
入社3年以内に離職すること自体が、必ずしも悪いことだとは言い切れません。ただそれとは別に、キャリア支援センターでは、学生の就職活動をサポートすると同時に、社会に出た卒業生の支えになればと思っています。ですから、離職云々に限らず、卒業生を支援する取り組みを行っています。
——具体的にはどのような取り組みなのでしょうか?
担当の都市生活学部と人間科学部を対象に、卒業前の学生に『半年後の自分へ』と題した手紙を書いてもらっています。将来の自分に対する手紙を、学生自身が書くのです。内容は自由です。自分の想いを長文で書く学生もいれば、一文字だけ書く学生、イラストを描く学生、友人と寄せ書きをする学生もいます。
私たちはその手紙を預かって、半年後の10月に本人宛に発送します。そうすると、ちょうど文化祭(11月上旬)のシーズンでもありますので、大学のことを思い出してキャリア支援センターに顔を出してくれます。学部生は1学年に約300人弱いるのですが、今年度は年間を通して延べ人数で100人以上来てくれました。
——たくさん来るんですね。卒業生のみなさんはどのようなお話をされるのでしょうか?
「自分のやりたかった仕事に就けました」「今、こんなことをやっています」というお礼や報告もありますが、キャリア相談になることが多いです。人間関係の悩みや愚痴をはじめ、「責任の重い仕事に困惑している」「本当にこれでいいのかわからない」「転職を意識し始めた」「もう辞めたい」「将来のキャリアビジョンを改めて考えてみたい」などのモヤモヤを話してくれる人もいます。
——その場合、どのような応対をなさるのでしょうか?
まずは入社して働いた経験を振り返ってもらいます。どのような研修を受けたか、どのような仕事をしたか、どんな人と働いているかなど、仕事を中心に細かく経験を語ってもらいます。そのなかで、客観的に見えてくる自分を振り返ります。興味・能力・価値観など改めて見つめ直す。また、経験を自分なりに意味づけする。実際に働いてから行うキャリアカウンセリングは学生時代よりも当事者意識が働いて、卒業生も真剣に臨んでくれます。
私たちはそれを受け止め、未来へのエネルギーに変えるお手伝いをしている気がします。
気持ちを吐露できるような
ひとつの居場所にしてもらえれば
——大学が卒業生を支援しているというお話は初耳でした。
昨今は厳選採用と言われているように、ひと昔前に比べて1社の採用人数が減っているように思います。同期入社が少なく、配属先に新入社員が1人というケースも少なくありません。また、モヤモヤの内容や相談後の評価を気にすると、上司や人事担当者にも言いにくい。気持ちを吐露できる相手が見つけにくいのでしょうね。
会社で話せないことを話せる場として、大学がひとつの居場所になればと願います。『半年後の自分へ』の手紙を始めた理由も、実は、「キャリア支援センターは、あなたたちが卒業しても何かあれば支援するよ。卒業後も大学は皆さんとつながっています」ということを伝えたかったからです。
もちろん手紙の時期だけでなく、私たちはいつでもオープンに対応しています。入社後1カ月、いわゆる五月病にかかりやすい時期に、「もう上司に耐えられません」などと泣きながら電話がかかってくることもあります。そんな時は、私たちが聴き役になり、一時的にあふれた感情を鎮めたりもします。
——たとえ第一志望の就職先であっても嫌なことはあるでしょうし、自分に本当に合っているかはわかりません。
そうですね。たとえば自己分析や自己理解だけをとっても、その必要性は就職活動の時期に限りません。「変わらない自分」と「変化していく自分」を見つめることは卒業後もずっと続いていきます。学生時代にきちんとキャリアビジョンを描いて計画的に行動してみても、離職してしまうケースはあります。逆に、偶然の縁で入社した会社でも、長くやりがいを持って働けるケースもあります。「その会社で働いてみて初めて自分が見えてくる」ということも少なくないでしょう。
——卒業後の支援は、在学時に信頼関係が構築されていないと難しいように思われますが。
そうかもしれません。私が担当する2学部では、2年次からキャリアデザインの授業がありますので、ほぼ3年間の付き合いです。また、キャリア支援センターだけでなく、学部の先生方も協力的ですので、たとえばゼミの中で私たちが話す時間を割いてくれることもあります。
もちろん、なかにはキャリア支援センターを訪れてくれない学生もいますが、ゼミの先生の働きかけで相談の機会をつくったり、学生の友人経由で情報を交換したりするなど、できる範囲で全員と接するように努力しています。
——こうした取り組みが他大学にも拡がるとすばらしいと思います。
私は、今の大学に来る前の短大でも同様の取り組みを行っていました。他の大学でもぜひ参考にしていただければ幸いです。
>>東京都市大学
http://www.tcu.ac.jp/