イメージ先行の転職希望に関わったキャリアカウンセリング事例
[2011/12/22]
キャリアカウンセリングの相談内容には守秘義務があることが多く、ほかの会社でどのようなカウンセリングが行われているかを知る機会はなかなか得られません。そのためもしかすると、「キャリアカウンセリングって本当に役に立つのかなあ」との疑問をもっている人もいるのではないでしょうか。
しかし、実際にそれを導入している企業には、「カウンセリングを受けて良かった」という相談者、「部下がカウンセリングを受けて良かった」という相談者の上司、「キャリアカウンセリングを導入して良かった」という人事・労務担当者など、効果を実感している人がたくさんいます。
そこで今月は、日本マンパワーが独自にヒアリングした“導入企業の生の声”の中から、ひとつの事例をご紹介します。優秀な社員が「転職したい」とキャリアカウンセラーに相談をもちかけた事例です。
当該企業から直接お話しをうかがった日本マンパワーの坂室繁さんから、報告していただきます。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
キャリアドック部 CDA企画課
専門課長
坂室 繁 さん
退職を考えたAさんの訪問
ご紹介する事例は、ある企業で営業職として勤務していた男性Aさんの話です。
Aさんは非常に優秀な社員で営業成績も良かったのですが、本人としては「今の仕事はどうも自分の興味ある分野と違う」という思いを抱いていたようです。「会社を辞めようか、どうしようか」と、悶々とした気持ちが消えませんでした。
そんなAさんは、あることがきっかけでB社を知りました。Aさんは自分の興味ある分野の仕事ができるイメージに思えたB社へ転職したいと思うようになりました。
それが、社内のキャリアカウンセラーを訪れたきっかけです。Aさんの所属する会社には、希望すれば相談できるキャリアカウンセリング部署があったのです。
「B社に転職したい」という相談を持ちかけられたキャリアカウンセラーは、Aさんをすぐには引き留めませんでした。まずは、「どうしてそういう思いになったのか、ゆっくりと話を聴かせてほしい」と、Aさんの話に耳を傾けました。そうしてAさんの話を聴いていたキャリアカウンセラーは、ある質問を投げました。「Aさんは、B社のことをいろいろ調べたでしょうか?B社に転職したとしても、実際はどのような仕事をするのでしょうか?」
そのキャリアカウンセラーの問いかけに、Aさんは「はっ」としたようです。「B社の事業分野の印象が自分の興味ある分野に近いからといって、それが実際の仕事と必ずしも一致するとは限らない、自分があまりもイメージ先行の転職願望を持っていたのではないか?」と気づいたからです。
カウンセリング後の大きな変化 初回の面談は、「B社についてもっと調べてみること」と「転職する・しないにかかわらず、自分の棚卸しをしてみること」をキャリアカウンセラーから提案し、Aさんもそれを約束して終わりました。
その後、何日か経った時、Aさんの気持ちが大きく動きました。Aさんの興味ある分野に近い業務を行っている社内の他部署が社内公募しているという情報がAさんの目に留まったのです。キャリアカウンセラーの提案で自分の棚卸しをしていたAさんは、「ここの部署なら、転職しなくても自分のこれまでの経験や興味を活かせるかも知れない」と考えました。社内公募は狭き門でしたが、以前相談に乗ってくれたキャリアカウンセラーに何度か社内公募書類の作成に関するサポートをしてもらいながら、これまでの仕事の成果を会社にPRできるように準備した結果、見事合格することができました。
その後Aさんは転職をすることもなく、新たな部署で意欲をもって仕事に取り組めるようになりました。「キャリアカウンセラーの方に話を聴いてもらったり、適切なアドバイスをもらったことで自分の思い込みに気づいたり、新たな視点を得たことに本当に感謝しています」と喜んでいるそうです。
社内キャリアカウンセリングの存在意義
もちろん、社内キャリアカウンセリングの事例すべてが成功に導かれるとは限りません。Aさんの場合は、ご本人の気づきと社内公募のタイミングがうまく一致した例だと言えるでしょう。 ただ少なくとも、Aさんが社内公募にアンテナが立ち、「自分の将来に向けてのチャンス」だと捉えることができたのは、キャリアカウンセリングを受けたからこそだと思われます。そうでなければ、おそらく転職することだけに囚われてしまい、社内公募の存在を知っても関心が向かなかったのではないでしょうか。そうした意味で、キャリアカウンセリングは本人の視野を広げ、将来に向けての選択肢を増やすという効果を発揮することが可能です。
一般的に、キャリアカウンセラーは相談者(クライエント)に答えを教えるようなアドバイスはせず、質問をしたり傾聴をしたりすることによって本人の気づきを促します。ですから、Aさんのように気づきを得られた場合は、しっかりと本人の腑に落ち、モチベーションを高めることができるのです。
一方、会社にとっても、Aさんのように優秀な人材を流出することなく新しい部署で能力を発揮してもらうことは、結果的に業績のプラス方向へと作用するものと思われます。