部下や後輩の想いを引き出すためには
[2010/08/03]
上司・先輩が部下・後輩の本当の想いを引き出すことは、意外に難しいものです。その原因はいろいろ考えられますが、最大の原因はコミュニケーション不足でしょう。職場での会話を思い起こしてみてください。多くの場合、上司・先輩は仕事の指示・命令・注意・指摘などの話し役となり、部下・後輩は聴き役となっているのではないでしょうか。「上司・先輩が聴き役、部下・後輩が話し役」という機会は少ないと思います。
もちろん、「ウチの場合、職場や飲み会での会話は多いと思うよ」というケースもあるでしょう。でも、会話が多いからといって、部下・後輩の想いを引き出せるとは限りません。
実は、部下・後輩が想いを話すかどうかは、上司・先輩の話し方や聴き方によって変わってくるようです。それを、赤いボールと白いボールに例えて解説しているのが、企業内の人材開発・人材育成研修やカウンセリングで活躍中の小杉恭男さんです。今回は、その考え方をご紹介します。
赤いボールと白いボール 部下・後輩が自分の想いを上司・先輩に話すか話さないかは、信頼関係に影響されます。信頼している(あるいは信頼できそうな)上司・先輩には想いを打ち明けやすくなりますし、信頼していない(あるいは信頼できそうにない)上司・先輩には想いを打ち明けにくくなります。
そしてその信頼関係は、「自分の想いを理解してくれているかどうか」の判断によって変わってきます。つまり、上司・先輩が「部下・後輩の想いを受け止めて理解し、それを部下・後輩に伝えているかどうか」が重要なポイントになるのです。
小杉さんはこれを、赤いボールと白いボールに例えて説明しています。赤いボールとは、自分の想い・考え・気持ちの例え、白いボールとは、相手の想い・考え・気持ちの例えです。
●赤いボール:自分の想い・考え・気持ち
○白いボール:相手の想い・考え・気持ち
相手の言葉の裏側(記号)を解読して白いボールを投げる 通常、職場で交わされる会話では、自分の想いや考え、気持ちを表現することが多いと思います。これは、赤いボールが飛び交っている状態です。ただ、部下・後輩が上司・先輩に投げるボールは、想い・考え・気持ちを率直に表現されていないことがあります。多くの場合、言葉の裏側に想い・考え・気持ちを隠しています。いわば、記号化されたボールです。
この記号化されたボールに対して、上司・先輩が赤いボールを投げてしまったら、部下・後輩は「私のことなんて理解されていないな」と思ってしまいます。
しかし、上司・先輩が記号化されたボールを解読し、白いボールを投げ返したらどうでしょう? 上司・先輩が「部下・後輩の想いを受け止めて理解し、それを部下・後輩に伝えている」という状態になります。そうすれば部下・後輩は、「ああ、この人は私のことを理解してくれているのかも」と思う可能性が高くなります。
こうした「記号の解読→白いボールの投げ返し」は「相手理解」と呼ばれ、上司・先輩として非常に重要だと言います。
上司と部下の会話例
上司・先輩が赤いボールばかりを投げる例をご紹介します。どこの職場でもありがちな会話です。
課長:「○○さん、この資料のデータを入力してくれるかな」●
社員:「エー、今ですか」
課長:「そう、今」●
社員:「伝票の整理をしているのですが」
課長:「それは後でいいから」●
社員:「さっき急いでいるって言ったじゃないですか」
課長:「こっちの方が急いでいるんですよ」●
社員:「急ぎだというからがんばっているのに」
課長:「いちいち文句を言わないで、スッとやってくださいよ」●
社員:「いつ文句を言いました」
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課長は自分の想い・考え・気持ちだけを言っているので、社員も腹が立っている様子ですね。
それでは、課長が白いボールを投げ返したらどのような会話になるでしょうか。
課長:「○○さん、この資料のデータを入力してくれるかな」●
社員:「エー、今ですか」
課長:「何か嫌そうですね」○
社員:「次々と細かい仕事ばかりで」
課長:「単なる使い走りのようで嫌なんですね」○
社員:「そうですよ。毎日毎日雑用ばかりで、一体何をやっているんだか」
課長:「そうか、単純作業ばかりで張り合いもないということですね」○
社員:「そうなんです、何か便利屋のように使われて」
課長:「私の仕事の与え方にも少し不満があるようですね」○
社員:「ええ、まあ、私ばかりに気軽に回しているような」
課長:「黙って聞いていたら、損な役回りばかりが増えている気がするんですね」○
社員:「ええ、誰かがしないといけないのでしょうが」
課長:「誰かがというのが自分ばかりだという気がするんですね」○
社員:「ええ…、まあ。また一度ゆっくり話を聞いてください。その資料のデータ入力急ぐんですよね」
課長:「はい、じゃ頼みましたよ」●
いかがでしょうか。相手理解のための白いボールの投げ返し方がイメージできたでしょうか。
今後のコミュニケーションに向けて 白いボールの投げ返し方は、相手の言葉を単に繰り返すだけではなく、要約を返す、気持ちを返す、沈黙に付き合うなどの技法があります。ぜひ、今後のコミュニケーションに活かしてみてください。
なお、これらの考え方は『部下・後輩のキャリア開発支援ハンドブック』という冊子にまとめられていて、日本マンパワーが提供する企業内研修のテキストとして、あるいは通信講座『OJTトレーナーコース』のサブテキストとして活用されています。