ちょっと一息

キャリアカウンセラーの資格活用vol.20

社員とその家族にとっての「支援システム」になりたい

[2017/02/27]

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 総合商社に勤めていた20代の頃、取引先とのトラブルが原因で「信頼関係の取り戻し方」や「人の心の動かし方」に強い関心を抱くようになった齋藤朋子さん。その後、数社での就労経験を通して、社員のモチベーションの高め方や傾聴スキルの習得の必要性を感じ、『キャリアカウンセラー養成講座』(『キャリアコンサルタント養成講座』の前身)を受講、CDA資格(キャリアカウンセラー)を取得しました。
 ここまでは、前回の同コーナーでご紹介しました。今回はその続編です。

 齋藤さんは現在、総合建設会社である松下産業の「人」に関わることすべてをワンストップで行い、社員の人生全体を支援する部署ヒューマンリソースセンターの長として社員の支援に尽力。一般的に「建設会社は3K職場」と言われる中、松下産業の職場環境改善施策や福利厚生には目を見張るものとなっています。もちろんそれには、会社の方針が大きく反映されていますが、齋藤さんの存在も少なからず影響しているようです。
 同社および齋藤さんがどのような社員支援を行っているのか、ぜひご参照ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社 松下産業(総合建設会社)
 ヒューマンリソースセンター長
 キャリアコンサルタント
 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
 特定社会保険労務士
 AFP(2級ファイナンシャルプランナー)
 宅地建物取引士
 齋藤 朋子 さん


採用業務を超えて新しい施策を提案

 私が松下産業に入社したのは2007年です。入社当初は採用業務を中心とする職務を任せていただきました。その後、教育・研修や総務的な業務など次第に業務範囲が広がり、新しい施策も提案するようになりました。

 たとえば「ファミリーデー」は、私が企画した施策のひとつです。ファミリーデーとは、社員の働いている姿を家族に見てもらう職場訪問・見学イベントのことです。
 実は以前、友人との何気ない会話で教えてもらってから、「ウチの会社でも子どもたちに親の仕事を見せられる機会があればいいのになあ」と思っていたのです。社員には家庭の悩みごとも多いため、家族に仕事ぶりを見てもらうことで家庭が円満になり、職場環境も改善するだろうと考えたからです。社員の帰りが遅く、さびしい思いをしているご家族の方が仕事を理解してくれれば、関係性も好転すると思いました。
 ただ、弊社はマンション・オフィスビル、個人住宅などの新築工事からリニューアル、土木工事まで扱う建設会社ですから、見学には安全確保が欠かせません。イベントには予算も要します。そのため企画を提案できずにいたのですが、東京都の事業として助成金がおりることになり、会社に提案申請しました。そうしたところ、社長の理解が深く、「すぐにやろう」という運びになりました。


「お父さんを尊敬した」と涙を流すご家族も

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 もっとも、実現に向けては見学先の工事現場の許可も必要となります。そこで、「協力していただけませんか?」と現場へお願いに回ったところ、安全通路から絶対に出ないことを条件に、いくつかの現場が理解を示してくれました。初年度は2現場で降車しての見学、数現場でバスの車窓からの見学ができることになりました。
 ちょうどお子さんが夏休みの時季。大型バス1台をチャーターして、ご家族が工事現場を訪問しました。
 待ち受けていたのはうれしい誤算。最初は渋々許可してくれた現場でも、かき氷を提供してくれたり、水鉄砲遊び宝探しゲームなどの工夫をしてくれていたのです。もちろん、子どもたちは大喜び。けがもなく成功裡に終わりました。
 実施後の評判は非常に良く、「家族との会話が増えたよ」と喜ぶ男性社員や、「たいへんな仕事をしているお父さんを尊敬した」と涙を流すご家族などもいらっしゃいました。この取り組みは今も続けているほか、独自に小規模ファミリーデーを実施する現場も現れました。


ワーク・ライフ・バランス推進の取り組み

 その後間もなくして、本社のある東京都文京区で「ワーク・ライフ・バランス推進企業」として認定されました。これは、「仕事と子育て・介護の両立支援」「男女共に働きやすい職場づくり」「地域活動への参加」の取り組みを行っている企業を認定するもので、いくつかの審査基準があります。
 「建設業界においてワーク・ライフ・バランスは現実的に難しい」と認識されていた頃でしたから、最初は社長にも相談できませんでした。「ウチには無理だよ」という声も上がりました。
 でも、その動きを知った社長は私に「どうして相談しなかったんだ?」とコメント。社長にも職場改善への強い思いがあったらしく、申請・認定に至ることができました。以来、職場改善へ向けて社員を支援することが、私の役割だと考えるようになりました。

                                                              ヒューマンリソースセンターの6つの機能

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  弊社の企業理念は、「多様な価値観との共存を図りつつ、平和で豊かな環境のもとに、希望と喜びと誇りに満ちた生活のできる社会作りに貢献する」というものです。社員に対してそれがよく表れているのが、2013年の組織改編です。今、私が所属しているヒューマンリソースセンターが設置されました。
 同センターには6つの機能があります。「採用」「ライフデザイン」「教育・研修・自己啓発」「子育て・介護支援」「健康管理」「その他」の6つです。先ほどお話ししたファミリーデーは「子育て・介護支援」のひとつです。中学生・高校生職場体験大学生インターンシップにも取り組んでいます。
 ほかに特徴的なものには、たとえば「ライフデザイン」のマネープランセミナーがあります。ファイナンシャル・プランナーの会社と提携をして、社員の経済的な相談を無料で受けられるようにしています。社員とのキャリア相談などでそうした話題になった場合には、私からファイナンシャル・プランナーにつなぐこともあります。


全社員を対象に65歳までの所得補償保険

 社員ががんを患った場合に備えた支援も行っています。会社は、東京都より平成27年度「がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰」の優良賞も受賞しています。
 一般的に、がんになった際の悩みごとで解決が難しいのは、「経済的な問題」「働き方の問題」「相談先の問題」「ハラスメントの問題」だと言われます。
 そこで弊社ではまず、経済的な問題の支援策として、社員の休業時に所得を補償する損害保険に加入しました。既往症のあるなしにかかわらず、全社員加入し、65歳まで所得補償されるプランにしています。もちろん、保険料は会社が全額負担しています。がんを患うと職場復帰しても体調不良で休まざるを得ず、収入減となることもありますから、安心感を抱いてもらえていると思います。ちなみにこの保険は、メンタルヘルス不調で休業する場合なども対象となっています。
 また、働き方の問題では本人とご家族とヒューマンリソースセンターが話し合いますし、相談先の問題では主治医と産業医、その他医療機関と連携し、リファーしながら問題解決できる制度を整えています。


養成講座での学習が今も活かせている

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 こうしてお話ししていると、CDA資格に向けて学習したことが、さまざまな形で役に立っていることがわかります。
 すでにお話しした社員の面談・相談対応だけでなく、「この人はこう考えているから、こう動くんだ」というような行動の理由づけもできるようになりました。それによって、社員のモチベーションの源泉なども、ある程度理解できるようになったと思います。
 細かい例では、大学生のインターンシップで自己効力感を得てもらうために、個人的達成を感じられる工夫をしています。自分で行動を起こして達成できたという経験をしてもらうと、職業観を実感として理解してもらいやすくなるからです。
 いずれも、『キャリアカウンセラー養成講座』で学んだことばかりです。
 テキストのナンシー・K・シュロスバーグの章に書かれていた「支援システム」は、今でも強く意識しています。人は、何らかの転機にぶつかった時、支援システムの存在によって乗り越えやすくなります。支援システムには「人」「物的資源」「支援機関」という3つがあるのですが、社員やその家族にとって、私自身がそうした支援システムのひとつになれればいいと思います。


理解ある会社で社員とその家族に還元

 会社はそうした支援システムの構築に非常に理解があり、人材育成にも力を入れています。そのひとつが、日本マンパワー『組織開発ファシリテーター養成講座』の受講です。「制度で人は変わらない、人は人で変わる」という考えのもと、組織活性化に向けた人材を育成する講座です。
 半年間に及ぶ講座ですが、私を含めこれまで7人が受講しました。こうした恵まれた環境で働けることを幸せに思いますし、さらにスキルアップして、社員とその家族に還元していくよう努める所存です。

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