「マルチ担当制」が仕事の効率と精度を高める
[2011/12/22]
“できる”ビジネスパーソンは何かと忙しいものです。でも、“もっとできる”ビジネスパーソンは時間を上手にマネジメントし、それによってさらなる付加価値を生み出します。
みなさんはいかがでしょうか? もし「忙しすぎる」という人がいれば、すでに“忙しすぎる人の悪い習慣”に陥っているのかもしれません。
“忙しすぎる人の悪い習慣”とは、いわば“自分や職場に潜む、タイムマネジメントの阻害要因”のようなものです。それには何パターンかの具体例があり、たとえば、「会議が長い」「昼よりも夜の方が、仕事がはかどる」「人に仕事を任せられない」などが挙げられます。これらの“悪習慣”から脱することができれば、個人にとっても会社にとってもメリットが大きいのですが、実際には多くの人がそれに気づいていないようです。
そこで今回は、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんが提唱する理論の中から、「人に仕事を任せられない」習慣にスポットをあてて、そのリスクと改善策をご紹介します。小室さんとともに新しい通信講座を開発中の小出真由美さんに、お話をうかがいました。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
キャリアクリエイト部
小出 真由美 さん
「人に仕事を任せられない」習慣のデメリット
仕事が忙しくて毎日のように残業している人は、何らかの“悪い習慣”に陥っているケースがほとんどです。
「この仕事は私にしかできない。人には任せられない」
と考えて1人で仕事を抱え込んでいる場合も、そのひとつの例だと言えます。
人に仕事を任せられない人には、おそらく次のような理由があるのではないでしょうか。
・(他者よりも)自分の方が速くて品質がいい
・(仕事を頼むために)説明するのが面倒
・(仕事を)教える相手がチーム内にいない
あるいは、「1つの仕事(またはクライアント)を1人の社員が担当する」というシステムが、社内の常識になっている会社もあるかと思います。
でも、そのような「人に任せられない習慣」や「1仕事1人担当制」には、会社にとっていくつかのデメリットがあります。
たとえば、担当者の外出時や欠勤時に取引先から電話が入っても、「申し訳ございません、担当が不在ですのでわかりかねます」などと返答するしかなく、相手を待たせてしまい、ビジネスに悪影響を与える可能性さえあります。
また、仕事の詳細を1人の担当者しか把握できていない状態では、人事異動をするのが難しくなります。そうすると結果的に仕事が硬直化し、新しい提案が出にくくなります。場合によっては、効率の悪い仕事の進め方であるにもかかわらず、ほかの人がそれを知り得ないために、何年間も効率の悪いやり方を続けることになるかもしれません。
担当者自身にとっても、どんなに忙しくても手伝ってもらえる人がいないという環境のため、「いつも仕事に追われて忙しい」という状態になりやすくなります。忙しければ、トラブルやミスにつながる可能性も高まるでしょう。
複数で担当すればメリットは大きい
こうした「人に任せられない習慣」や「1仕事1人担当制」のデメリットを解消するため、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんは「マルチ担当制」を提唱しています。「マルチ担当制」とは、1つの仕事について2人以上の複数が担当するシステムを指します。
たとえば今、X社というクライアントをAさん1人で担当し、Y社をBさん1人で担当しているとしましょう。これを「マルチ担当制」にするためには、
X社のメイン担当をAさん、サブ担当をBさん
Y社のメイン担当をBさん、サブ担当をAさん
とします。つまり、1つのクライアント(あるいは仕事)に対してメイン担当者とサブ担当者を置くようにするのです。
しかもこの方法は、AさんもBさんも兼任ですから、新たなスタッフを増員する必要はありません。会社としても人件費をかけずに実施することができます。
この「マルチ担当制」はさまざまなメリットを生み出します。
・今まで自分1人で行き詰っていたことを、サブ担当者と一緒に考えることができる。
・「自分にしかできない仕事」だと思っていたことが、サブ担当者がもっと効率的な方法でやることなどによって、自分のやり方を見直すきっかけになる。
・社員がお互いに切磋琢磨しながら成長することができる。
・多忙な時期には協力して仕事をすることができる。
・2人以上が「自分の仕事」という意識でチェックするため、トラブルやミスを減らすことができる。
チームノウハウの共有や新人育成にも
さらに、メイン担当者とは別のチームのスタッフをサブ担当に置けば、お互いの意識がチームの枠を超えます。そうすれば、仕事への視野を広げられるとともに、各チームの長所を活用することができるでしょう。
また、短時間勤務者をメイン担当、新入社員をサブ担当にすれば、OJTとしても効果的です。なぜなら、短時間勤務者が帰ってしまったら、残された新入社員は1人で仕事を進めるしかなく、仕事を早く覚えられ、自然に責任感が芽生えるからです。
いかがでしょうか? 「人に任せられない習慣」「1仕事1人担当制」をやめて「マルチ担当制」にするだけで、こうしたメリットを期待できるのです。
この「マルチ担当制」は、チームマネジメントやタイムマネジメントに深く関係しますが、実はワーク・ライフ・バランスの実現に向けて具体的を考える中から発想されたものです。ワーク・ライフ・バランスとは、それほど奥深い考え方なのです。けっして「仕事量を減らしてプライベートの時間を増やす」という単純なものではありません。むしろ、仕事の効率を高め、プライベートも充実させながら、さらに仕事の付加価値を高めていくことを目指しています。
株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんの監修する新講座『ワーク・ライフ・バランス実践術』(4月開講予定)には、こうした社内改善に向けての意識改革解説や実践的な改善手法がたくさん詰まっています。ぜひお役立てください。