ちょっと一息

50歳代からの転機とモチベーションvol.2

役職を外れてからこそできる「後進指導」

[2013/03/27]


 長年バリバリと働き、組織に貢献してきた50歳代の人には、さまざまな経験と磨かれた業務スキルがあるはずです。しかし、「40歳代のポストが足りないから」という理由で役職から外れざるを得ない——こうした現実が、今の日本企業では珍しくありません。役職から外れてしまうと、どうモチベーション1しても仕事へのモチベーションは低下し、「定年まであと少しだから、無理せずぼちぼちと続けていけばいいか」という気持ちになることもあるようです。
 でも、せっかく積み重ねてきた経験や能力を活かさないのは、非常にもったいない気がします。
 その点について、「役職に就いていないからこそ自分を活かせる場もある」という意見を、ある50歳代の役職経験者からうかがいました。そのひとつが「後進指導」だとのことです。
 非常に説得力のあるご意見でしたので、みなさんにもご紹介いたします。


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社日本マンパワー
 人材開発本社統括部 営業推進
 担当部長
 海野 寿雄 さん


上司の指導は部下に腹落ちしにくい

 私は、日本マンパワーに転職する前、ある会社でマネジャー職に就いていました。当時は、たとえば営業責任者として部下と一緒に顧客先を訪問しながら、人材育成ノウハウ指導をすることがありました。
 しかし、その時は部門の業績の責任者でしたから、どうしても目先の数字を追ってしまいます。会社から課せられた数字に責任とプレッシャーがかかっていたからです。ですから、人材育成や部下指導も、それが前提になっていました。ついつい、「ああいう時はこういう風にすればお客様の話がよく聞けて、営業につながるんだ」とか、「こういう風に言えば契約に結びつくだろう」など、業績に直結するような指導になってしまうのです。
 そうすると、指導を受ける部下は半分くらいしか腹に落ちません。「この上司は、本当に自分のために言ってくれているのだろうか?」とか、「数字を作るために言っているんじゃないか」という猜疑心が働いてしまいます。


プレイングマネジャーに指導を求めるのは酷

 もっとも、私が若いころに仕えた上司の方々の指導には、「ああ、この人は目先のことだけじゃなくて、本当に私のことを考えて言ってくれているんだな」と思えることが何度となくありました。そういう時は、「君の成長のためにはこれが大切だよ」「君がこれからステップアップしていくためには、これが必要なんだよ」などと一言あったうえで、指導してもらったものです。優秀なマネジメントができる方は、そうした指導ができていましモチベーション2た。一方、指導される側も「がんばればボーナスが上がるぞ」とか「評価が上がる」などとハングリー精神を持っていた人が多く、上司の指導についていこうとする姿勢が強かったように思います。
 しかし、昔の成功例を現在にあてはめるのは難しいのではないでしょうか。今の多忙なプレイングマネジャーにそうした指導を求めるのは酷です。また、今の若い人はどちらかというと、「お金や地位のためにそこまでしなくていいよ」というような気質が見られます。そのあたりがうまくかみ合っていないように見受けられます。


若手社員にマッチした動機づけが必要

 こうしたことは、私が50歳代で転職した後、キャリアカウンセラー(CDA)の資格勉強をする中で気づいたことです。
 そして、「後進指導は直属の上司ではない方がいい場合もあるのではないか」「社内の先輩でも、同じ業績責任を負わない“立場の異なる人”が指導してあげた方が、若い人が腹落ちすることもあるのではないか」と思うようになりました。
 「数字を上げるためにこうしろ」と言うのではなく、「あなたがこれを身につけることによって、自分が成長するんですよ」とか、「こうすればもうワンランクアップしますよ」「視野が広がりますよ」、あるいは「人脈をつくれますよ」という風な動機づけをしてあげたら・・。若い人たちはきっと動くと思います。


立場の違う先輩のアドバイスは素直に聞いてもらえる

先日、営業同行した若手社員から勉強になったとの言葉を聞き、うれしく思いましたが、これは必ずしも私の指導が優れているというわけではありません。同じチームとは言え、業績責任という意味において、私がモチベーション3直属の上司でない点も大きな要因だと思います。今の私は、心の底から「育ってほしい」というスタンスで話すことができるのです。そして彼らも、上司・部下の関係でないからこそ、私のアドバイスを素直に聞いてくれるのでしょう。
 もし私が彼らの数字に責任を負っていたら、おそらく言い方が違ってきます。そして、たとえば私が「これをやらなかったら数字にならないから、これをやれよ」と言ってしまうと、彼らも冷めてしまうと思います。

 今、50歳代の社員というのは、組織にとって扱いづらい存在かもしれません。しかし、組織はそれを活かすべきです。一方の50歳代本人も、活かせる場所に自分を持っていくべきだと思います。上司でない先輩による後進指導は、そのひとつの形かもしれません。

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