システムの「見える化」で組織を改善
[2012/06/27]
先月の「ハッピーキャリアの作り方」では、組織開発とシステムの関係性について触れました。簡単におさらいしましょう。
・組織は人で構成され、人には心があるので、機械のように部品交換や障害除去で解決するわけではない。複雑で必ずしも合理的でない「人の心のメカニズム」を深く理解する必要がある。
・人と人との関係や物事の仕組みには、何らかのシステムが働いている。誰かの不平・不満や問題行動も、「目に見える化されていない関係のシステム」が原因であることが少なくない。
こうした前回の内容に引き続き、今回は「組織のシステム」についてさらに詳しくご紹介します。日本マンパワーのコンサルタントで、『組織開発ファシリテーター養成講座』の進行役も務める水野みちさんに、お話をおうかがいしました。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
人材開発企画部 研究開発G 専門部長
水野 みち さん
システムは複雑に連鎖し見えにくい
組織には、いくつもの「つながり」や「からくり」があります。その「つながり」や「からくり」こそが【システム】と呼ばれるものです。
そして、ひとつのシステムは新しいシステムを生み出したり、ほかのシステムに影響を与えたりします。つまり、システムは連鎖するのです。大きな組織であれば、それが複雑に絡み合って、非常に見えにくい状態になっていると言えるでしょう。原因と結果が隣り合わせではなく、距離的にも時間的にも遠くなってしまうからです。
たとえば、ピーター・M・センゲの書には、次のような内容の話が紹介されています。
1人のシステム思考の専門家がある企業の工場を見学しました。工場長に案内されて見学していると、上方からオイルがポタポタと漏れていて、床に油が溜まっているのを工場長が発見しました。工場長は作業者に「すぐにきれいにしろ!」と指示します。しかし、それを見ていた専門家はこう言いました。
「ちょっと待ってください。なぜ床にオイルがあるんですか?」
工場長が従業員を呼んで理由を聞くと、「天井の機器が壊れていてそこから漏れているんです」と言います。そこで工場長は従業員に「油を掃除してすぐに修理しろ」と指示します。しかし、専門家はさらに小声で尋ねました。
「なぜ壊れているんでしょうか?」
工場長は先ほどと同じように、従業員に理由を聞きます。従業員は、「パッキンに欠陥があるんですよ」と答えます。工場長は「パッキンをなんとかしろ!」と言います。専門家はすかさず問いかけます。「なぜパッキンが欠陥品なんだろうか?」。作業者はまた答えます。「購買の社員があのパッキンを安く買ったという話を聞いたことがあります」。工場長は専門家から言われる前に問いかけます。「なぜ購買の連中はそんなに安く買ったんだ」。それ以上の答えは返ってきませんでした。
その後、オフィスに戻って調べたところ、実は予算削減のために低コストでの備品購入が全社的に推奨されていたからだということがわかりました。工場長もその方針には深く関与していた当の人物だったということです。
〜フィールドブック 学習する組織「5つの能力」/ ピーター・センゲ著(2003)より〜
実は工場長が経理部長に指示したことが、巡り巡ってオイル漏れにつながっていたという話です。この話は比較的単純な連鎖の例ですが、現実の組織では、多くのシステムが複雑に絡み合っていると思われます。
私たちは「見えないシステム」に流されている
今、企業をはじめとする組織では、コミュニケーション不足、チームワーク不足、モチベーション低下などの諸現象が起きていて、それらを解消しようと組織開発に取り組むところが増えつつあります。しかし、現象は何らかのシステムの結果で、根本的な原因は「見える化されていない相互関連性のシステム」にあることが多いのです。
ですから、組織をより良い方向に導こうとしても、「目に見える現象」に着目するだけでは実現困難と言わざるを得ません。「見える化されていない相互関連性のシステム」を「見える化」することが、組織開発の第1ステップとなるのではないでしょうか。
さらに、問題となる現象が長期的に続いているならば、「好ましくない現象の原因となるシステム」を維持する力が働いているとも考えられます。
もしかすると、「維持させている力」は私たち自身かもしれません。実際、私たちは知らず知らずのうちに「見える化されていない関係のシステム」に流されてしまっています。これまでの歴史、習慣、手順、当然とされてきたこと、などがそのシステムの維持につながっている可能性があります。それは、「会社のあり方を改善したい」と前向きに取り組んでいる人にも言えることです。
あるマネジャーAさんは「ウチの会社はまとまりがない、何とかしなければ」と考えていました。優秀なAさんは、持ち前の分析手腕を使って原因を探っていきました。各種データをもとに、その原因は、「社長がビジョンをきちんと提示しないから」というひとつの結論に至りました。そうして、同僚や部下とともに「ビジョンを提示してもらおう」と話し合いました。それが当然の手順だと思えたからです。優秀な外部のコンサルタントとも打ち合わせをし、会社を変えていく計画も練りました。しかし、社長がその話を小耳にはさみ、「どうやらあのマネジャーは私に不満があるらしい」と不信感を抱きました。「ビジョンがない」と言われることについて、社長は心地よく思っていなかったのです。そして、従来以上に自分に反抗しない者だけで側近を固めてしまいました。
この結果、会社はますますまとまりがなくなり、不平・不満も増えていきました。
「会社のあり方を改善したい」という人自身が、状況を悪化させてしまうシステムの一部となってしまった、という例です。マネジャーAさんも、良かれと思ったことが伝わらず、当初の前向きな発想は消え、会社に対する諦めの気持ちが増してしまいました。
組織を変革するのは難しく、自分の考え方がどう周囲へ影響を及ぼすのかという意識はもちろんのこと、その連鎖までをも意識していくことが大切です。また、自分ひとりでは多面的な視点は持ちにくいため、社員や利害関係者が一同に介して対話をする場もとても大切になってきます。「ひとりでは全体最適は考えられない。全体最適は全員で考え、できるだけ多くの見解を取り入れるもの」というピーター・センゲの視点はもっともだと思います。
日本マンパワーのエグゼクティブ・カレッジ『組織開発ファシリテーター養成講座』では、システムについて目を向ける力、関係性をつかむ力、自分自身の思い込みなどを見直す力、多様な視点を活かす力などを身につけることができます。また、「ホール・システム・アプローチ」という、社員が一同に介して対話をする考え方や手法についても学ぶことができます。
ご参考にしていただければ幸いです。