長年の会社勤め経験は、社会に役立てられる価値がある
[2018/02/28]
パソコン黎明期からプログラミングの魅力にとりつかれ、メガバンクの行内イントラネット構築やIT推進に携わってきた井上昭雄さん。その道、約30年。システム開発の第一線で多くの部下やスタッフを牽引してきました。ただ、部下にとっては近寄りがたい存在だったようです。ご本人も「人には関心が薄かった」と言います。
そんな井上さんは、人事部で若手の成長を目の当たりにすることで、価値観が変わってきます。自分の考えたことや話した言葉によって、他者に影響を与えることに、大きな喜びがあることに気づくのです。そうして、講師業を目指し、定年を待たずに退職。日本マンパワー『キャリアカウンセラー養成講座』(現在の『キャリアコンサルタント養成講座』の前身)を受講することになりました。
本記事はその後編です。当時56歳だった井上さんは、何を考え、どう行動したのか。今は何をやりがいとしているのか。オーバー50の方は必見です。ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
行政機関勤務
CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
PHP研究所認定ビジネスコーチ
井上 昭雄 さん
一度は諦めかけたCDA試験
『キャリアカウンセラー養成講座』での学びは、さまざまな発見が多く、理論も実践も非常に面白いものでした。まず、インストラクターの先生が魅力的。さすが、人とのかかわりを教えられる方だと思いました。もちろん、クラスメイトとの出会いも刺激的でした。老若男女さまざま立場でさまざまな生き方をしてきた人が、グループワークやロールプレイで自己開示しながら、利害関係も上下関係もなく一緒に勉強をする。この心温まる関係性は、会社にはない貴重なものとなりました。
もっとも、試験ではかなり苦労しました。一次の筆記試験は1回で合格できたのですが、二次の実技試験がどうもうまくいかない。自分としてはコミュニケーションに自信を持っていましたし、「いいロールプレイができた」と思っていても、評価が低いのです。最初は、自分の何がいけないのか、さっぱり理解できませんでした。2回不合格となり、「自分には向いていない」と一度は諦めかけました。
しかし、フェイスブックで集まった自主勉強会の先輩たちが支えてくれました。仕事やコーチングの習性で染み付いた、指示・判断・問題解決の利き腕ではなく、別の利き腕があることに気づかせてくれたのです。おかげさまで、3回目の受験で合格することができました。
悠悠自適は自分を低下させる
一方、システム会社の退職理由だった「講師として独立する」という目標はどうなったかというと、実はまだ実現できていません。会社を退職した後、旅行などを楽しんでいるうちに、仕事への意欲が減退してしまったのです。結局、2年弱の間、CDAの勉強以外は、遊ぶように暮らしていました。
でも、遊んで暮らしていると、脳も体も衰えてきます。傍目には悠悠自適の生活に映るかもしれませんし、みなさんの中にはそれを望んでいる人がいるかもしれませんが、働かないことはけっして楽しい生活だと言えません。責任などがなくなるので気分は楽になりますが、自分の健康状態が低下していきます。特に、新しいことを学ぼうとする機会が減るので、だんだんと頭が鈍っていきます。それは、私自身の経験からも、周囲の先輩方を見ていても感じることです。年をとってから新しいことを学ぶのはたいへんですが、それが刺激になるからこそ若さを保つことができるのだと思います。
行政機関で若年層の就業支援
遊ぶような暮らしから私が脱却したのは、CDA取得後に参加した有資格者の集まりで、自主勉強会の仲間から「行政機関で就業支援の相談対応をするやりがい」を聞いたことがきっかけです。
確かに、講師と同様、相談業務は人に影響を与え、誰かの役に立つ仕事です。また、人事部の時に採用面接官をした経験がありますので、「若い人たちに面接のコツを教えてあげたい」との思いも芽生えました。私が意識を変えることで実技試験に合格できたように、若い人も「面接官がどんな人材が欲しいか」を考えて意識を変えることを教えてあげれば、経験を役立たせられるだろうと考えたのです。
そこで、地元の行政機関の求人に応募、無事採用が決まりました。担当業務は、学校を卒業しても就職できなかったり、入社後すぐに辞めてしまったりした若年層の就業支援です。難しい事情を抱えている人もいますが、モチベーションをもって自立した生活を目指せるよう、よく話を聴いていいところを引き出すように努めています。
もっとも、私から与えるばかりではなく、若い人から得られるものもたくさんあります。その最たるものは、相談者からの言葉。「元気が出てきました」「やれそうな気がしてきました」「今日はお会いできてよかったです」「また話を聴いてほしい」などの言葉を聞くと、本当にうれしく感じます。なかには、私を指名して相談に来てくれる人もいます。
人の話を聴くのが好きになった
こうして考えると、CDA学習や相談業務を通して自分はかなり変わったように思います。まず、人の話を聴くのが好きになりました。以前は「人の話を聴くなんて時間の無駄」だと思っていたのに、今ではとても興味深く聴いている自分がいます。
また、ほかの人が話しかけやすい雰囲気になったようです。銀行やシステム会社にいた頃は、部下は気安く声をかけられなかったと思います。それが今は、若い人が「実は・・」と打ち明けてくれる。自ら家庭の事情などを自己開示してくれるのは、きっと、そんな話をしてもいい人だと思われているのでしょう。
余談ですが、昨年の4月から地元町内会の自治会長も務めています。昔であれば、町のイベントすら大嫌いで、絶対に務めなかったと思いますが、変われば変わるものです。
会社勤めの経験は価値がある
私は今、60歳です。でも、実は次のステージにキャリアチェンジすることも考えています。フリーランスで、カウンセラーや講師として人の役に立つことです。
読者のみなさんの中にも、私と同じ年代の人がいることでしょう。そうした方々にぜひお伝えしたいことがあります。それは、「会社勤めを長年経験してきた世代が、CDAなどの資格を取って社会の役に立つのは、非常に意味がある」ということです。
人生100年時代と言われます。60歳から数えれば、あと40年もあります。その長い年月を悠悠自適に生活するのもいいかもしれません。ただ、悠悠自適で楽しいのは自分だけだと思うのです。それよりも、誰かに喜びを与えたり、誰かに影響を与えたりする仕事ができるのであれば、なおすばらしいのではないでしょうか。
会社勤めしてきた経験や知恵は、大きな財産です。その経験がなければ話せないことがたくさんあるからです。それを聴きたがっている人もたくさんいます。そして、CDAは、その経験を伝えるための有効な道具となります。ぜひ、新しい世界にチャレンジして、自分らしいセカンドライフを歩んでください。きっと、趣味や旅行よりも大きな喜びと巡り合えると思います。