ちょっと一息

新型コロナとキャリアコンサルティング

現場に与える影響調査結果からの考察

[2020/07/02]

画像エラー

 新型コロナによって、キャリアコンサルティング現場での相談内容はどのように変化したのでしょうか。また、今後、相談者にどのような支援が必要とされるのでしょうか。
 そうした疑問を把握するため、日本マンパワーは2020年5月、現役のキャリアコンサルタントを対象に「新型コロナがキャリアコンサルティング現場に与える影響調査」を実施しました。その結果速報によると、おおよそ以下のような傾向が読み取れます。

・相談件数は、オンライン、電話、対面の順で多い。
・企業内での相談は、自身のキャリアや働き方、メンタル面などの内容が増えている。他方、人間関係についての相談は減っている。
・学生からの相談は、就職活動、授業、メンタル、金銭に関する内容が増えている。一方、就職活動の相談が減っているという回答も少なくない。
・求職者からの相談は、雇用や金銭に関する内容が増えている。求職活動については、増加という回答もあれば、減少という回答もある。
・回答者の約70%が、キャリアコンサルタント資格の学びで「支援のマインドや心がけ」を活かせていると回答。

 この調査結果を受けて、「新型コロナとキャリアコンサルティング」をテーマに、日本マンパワー・キャリアコンサルタント養成事業担当取締役の田中稔哉さんにお話をうかがいました。
 私たちの「働き方」にどのような変化が生まれてくるのでしょうか? また、「キャリアコンサルタント」にはどのような支援が望まれるのでしょうか?


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社日本マンパワー
 取締役
 キャリアコンサルティング事業本部長
 田中 稔哉 さん


新型コロナ、5つの特徴

 新型コロナウイルス感染拡大の影響は、これまで私たちが体験したことのない様相を呈しています。大きな特徴としては5点挙げられます。
 まず、予測できなかったこと。地震や台風などの自然災害や、同じ感染症でもインフルエンザは、「いつか、また来る」と予測できますので、ある程度の心構えや対策が可能です。ところが、新型コロナは予測できなかったため、さまざまな混乱が生じました。
 次に、急速に拡大したこと。昨年暮れに中国で原因不明の肺炎が発見され、今年1月30日に世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言。3月11日に、流行がパンデミック状態にあると発表。4月の累計感染者数は世界で300万人超。それが5月には500万人、6月22日現在では900万人を超えています。
 3点目は、広範囲にわたることです。世界約190ヵ国という面積の広さはもちろん、業種・職種の面でも広範囲にわたってダメージを与えています。
 4点目は、影響が非常に大きいことです。特に、外出を自粛し、人と人との接触を避けなければいけないということは、仕事にも生活にも多大な影響を与えました。医療関係者をはじめとする特定の職種の方には、今も過大な負荷がかかっています。
 最後に、長期にわたって収束の見通しが立たないことです。しかも、安心できる対策が見えてきません


人々の気持ちの変化

画像エラー

 これらの特徴は、人々の気持ちにも大きな変化を与えているように思います。
 そのひとつが「無力感」です。「自分個人の力ではどうしようもない」という気持ちを、新型コロナは多くの人に与えてしまいました。そのため、「新型コロナがキャリアコンサルティング現場に与える影響調査」の結果でも、今後に向けての不安戸惑いが現れているように思われます。
 ふたつめは「被強制感(義務感)」です。新型コロナによって多くの人が、「働き方を変えなければいけない」「デジタル化に対応しなくてはいけない」「生活のスタイルを変えなければいけない」という変化対応に、否応なく迫られました。働き方の変化については新型コロナ以前から叫ばれていたことですが、これほど急に求められるとは誰も思っていなかったのではないでしょうか。特に高年齢層では、定年退職まで何とかやりすごそうと思っていた人が多かったかもしれません。それが新型コロナによって避けることができず、ストレスになっているようです。


在宅勤務で個人の裁量が大きくなると

 日常的な仕事での変化としては、在宅勤務リモートワークによって、個人の裁量が大きくなったことが挙げられます。上司から部下への細かい指示や管理ができなくなったからです。同じ職場で働く仲間の目を気にする必要もありません。時間の制約、場所の制約が小さくなり、どのような状況で何をするかがかなり自由になりました。
 その結果、どのようなことが考えられるでしょうか。自分の裁量でしっかり働ける人と、自分の裁量ではあまり働けない人、あるいは働くことへのモチベーションが下がる人など、個々の差異が生じてくることです。
 このことは、日本マンパワー『キャリアコンサルタント養成講座』のオンライン授業で講師をしている時も感じました。教室に来てもらって授業をすると、クラスメイトがいるという相乗効果のせいか、受講生のみなさんは真剣に理解しようとします。でも、オンラインで授業を受けていると、リラックスできている半面、緊張感が薄れ、学習の理解度に開きが生じやすいのです。

 これを仕事に置き換えると、個人の裁量が大きい状況下では、いずれ個人の成果に差異が生じることが推測できます。その最大のポイントは「自律心」です。「自律」とは、自分で立てた規律に従って行動すること、いわばセルフ・コントロールです。在宅勤務・リモートワークに限って言えば、仕事ができる環境を整え、自分のやるべき仕事を的確に選び、計画を立てて、業務遂行にエネルギーを投入することだと言えます。
 「自律心」の有無は、個人のスキルの蓄積にも、組織のパフォーマンスにも大きく影響してくるでしょう。場合によっては、それが給与や職位に影響を及ぼす可能性もあります。


                                                         自律心を養うための支援とは

 では、キャリアコンサルタントは、画像エラー「自律心」を持ってもらうためにどのような支援が求められるのでしょうか。
 「自律心」を持つためには、「環境が変化しても自分はこうありたい」という自己概念を明確化することが大切です。その上で、コロナ禍の中で「自分はどうするか」を考え、諦めずにできることから実行する姿勢を持つことです。自己概念に沿った将来を実現しようとするエネルギーは、自分を律するモチベーションの源泉になります。
 キャリアコンサルタントにはこうした支援が望まれ、社会にとってもますます重要になってくるでしょう。

 また、自分にできるという「自己効力感」と、これをすればこれが得られるという「結果期待」を抱いてもらうように支援することも大切です。これは、個人だけにとどまらず、組織や社会にもあてはまることです。特に新型コロナの問題は、個人だけで対処できないことが多くあります。ですから、できれば組織や社会にも目を向けてください。組織や社会が、ありたい状態を共有し、自分たちにそれができるという「集団自己効力感」と、自分たちが目指せばこれを得られるという「集団結果期待」を醸成するような支援を、ぜひ目指していただければと思います。

 新型コロナは、キャリアコンサルタント自身にも大きな影響を与えたことと思います。「新型コロナがキャリアコンサルティング現場に与える影響調査」では、約70%のキャリアコンサルタントが、「支援のマインドや心がけ」を活かせていると回答しています。それは、弊社の養成講座で大事にしている「人は誰でも自己実現に向かうエネルギーを持っている」という人間観だと思います。ぜひ、みなさんのマインドと心がけをぜひ発揮してください。

  • 講座コンシェルジュ

    おすすめの講座・資格をご紹介

  • 講座を選ぶ

    キャリア形成にお役立てください

  • キャリアを考える

    キャリアビジョンを創る