キャリアに悩んだら、経験を振り返って“ヒント”を探す
[2011/01/26]
「自分に合ったキャリアを形成するためには、自分の『好き・得意・価値観』を発見・確認できるかどうかが大切です」
こう話すのは、キャリアカウンセリングや就職支援などで活躍する金城亜紀さんです。金城さんには『キャリアの達人』バックナンバーでも、自分の「好き・得意・価値観」の発見・確認に関連して、「やりたい仕事の本質」「心の中にある本音や感情」「悩みの本当の原因」「解決しなければならない本質」などについて話していただきました。
今回はその具体例として、3件のカウンセリング事例をご紹介いたします。いずれの相談者も、当時の仕事や職場環境に「合わない」と悩み、新しい道へ踏み出そうにも「やりたい仕事が見つけられない」状態から、自分の経験を振り返ることによって「大切にしたい価値観や活かせる強み」を見い出した事例だと言えます。
ご自身と照らし合わせながら参考にしていただければ幸いです。
●今回お話を聞いたのは・・・
CDA
産業カウンセラー
金城 亜紀 さん
フリーターおよび一般事務を経た後、再就職支援会社に転職。同社で経験したファシリテーターやセミナー講師の仕事をきっかけに、CDAと産業カウンセラーの資格を取得し、フリーランスのキャリアカウンセラーとして独立。厚生労働省委託事業の「働く若者ネット相談」「キャリア・コンサルティングによるメール相談(通称:キャリメール)」のカウンセラー等を得て、現在、大学生向け就職活動支援など各方面で活躍している。
転職活動を通して本質を見つけたAさん
30代女性の相談事例です。仮にAさんと呼ばせていただきます。
Aさんは部下を持つ管理職でしたが、地方の実家で家業を継ぐことになりました。でも、大都市での生活に慣れたAさんにとって、地方での家業は合わなかったようです。「どうすればいいか?」と相談を受けました。
Aさんの話をうかがうと、以前から関心のあった資格取得の学習にも取り組んでいるとのことです。ただ、地方の求人状況を考えると、必ずしもその資格を活かせるとは限りません。一方、地方から都市へ転居する道を選ぶとしたら、家庭状況や就職活動に要する資金などを考慮した上で、都市の選択、求人情報の入手、応募書類の準備などを行う必要が生じます。 そこで私は、Aさんの現状と課題を整理するためのヒントをご提示しました。するとAさんは早速、自分の過去の職業経験を振り返り、同時にさまざまな会社とコンタクトをとり始めました。
結果、Aさんは複数の会社から内定をもらい、めざしていた資格と直接的に関係のない仕事に就きました。Aさんにその会社を選んだ理由を聞くと、「女性もやりがいを持って働ける」「上司と相性が合う」「同年代の女性が活躍している」「社風が理想的」とのことでした。
おそらく、Aさんのキャリアにとって最も大切なことは、「職場の仲間や環境」だったのだと思います。それがAさんの「大切にしたい価値観」なのでしょう。「地方での家業が合わない」と感じたのも、そうした点に違和感を抱いていたからのようです。
Aさんは自分の本質や価値観を、転職活動を通して発見しました。積極的な行動で自分を振り返ることができた事例として、参考になるかと思います。
学生時代の喜びを振り返ったBさん
キャリアカウンセリングを通して自分の本質を見い出すケースもあります。
Bさんは20代後半の男性です。ある会社でコンサルティング営業を担当していたのですが、「会社が合わないので転職したい。でも、何をやりたいのかわからない」と相談がありました。会社が合わないと感じる理由は、「営業部門の気質が封建的」「売上ノルマに追われるのが辛い」「毎日怒られてばかり」とのことでした。
そこで、さらに詳しくお話をうかがうと、「学生時代に夢中になったアルバイトがある」と言います。アルバイトは、お客様の要望に応え、特殊な技術を使ってモノを作る仕事です。 ただ、モノ作り自体が楽しかったというよりも、「お客様のニーズに応えられるよう地道に努力して、お客様から『想像以上の出来だよ、ありがとう』と感謝されること」に一番の喜びを感じていたようです。ですから、悩みの本質は、本来職人的な仕事にやりがいを感じるBさんの力が発揮できない状況にあったのかもしれません。
その後のカウンセリングでは、「アルバイト時代と同じ喜びを得られる仕事が、勤務中の会社にあるだろうか?」「転職するとしたら何が課題になるだろう?」などを話し合いました。残念ながら最終的な動向はわかりませんが、いくつかの方向性が見つかりましたので、自分に合った仕事で喜びを感じていることを願っています。
一番好きなことを確信できたCさん
「自分の好きな仕事や強みはこれだ」と思っても、それが微妙にずれているケースもあります。
20代男性のCさんの場合は、パソコンが好きで、システムエンジニアとして活躍していました。しかし、「どうも望んでいた仕事と違う気がする」という相談でした。「ほかに自分ができそうな仕事は何もない」「興味がわく仕事は特にない」という状態でした。
そこで私は、「子どもの頃は何が好きだった?」と質問しました。そうすると、いくつかの中に「乗り物」という回答がありました。確かにCさんは、車や電車で旅をした時のことを話題にすることが多く、その話をしている時は楽しそうな印象を受けました。
しかし、好きな乗り物に関連する求人を見つけても、「未経験だから応募してもどうせダメだろう」とCさんは言います。 「じゃあ、ダメで元々だと思って応募してみたらどうかしら」と促してみると、乗り物に関連する何社かの会社に応募しました。でも残念ながら、すぐに採用という結果には至りませんでした。そうした状況が続くと、誰でもモチベーションが落ちてきます。自信がなくなっていました。
ところが、カウンセリングでの私の言葉をきっかけに、状況が一変しました。
「そもそも“ダメ元”だと思ってポジティブな気持ちで応募したはずなのに、“おれは元々ダメ”というネガティブな気持ちに変わっていませんか?」
どの言葉が響いたのか定かではありませんが、Cさんはそれまでとは打って変わって積極的になり、大型自動車免許を取得。見事、運転手として採用が決まりました。好きな「乗り物」というキーワードから、当初は「乗り物を修理する仕事」「自動車や運送業界の事務職」等、様々な職種を検討しましたが、最終的にCさんは乗り物の運転が一番好きだと確信したのです。
Cさんが自分の興味とできることの一致に気づいて採用が決まるまで、最初の相談から1年以上経っていました。それだけに、私にとっても非常にうれしい報告でした。「今までありがとうございました。金城さんもがんばってください」というメールをいただいた時は、辛い時期を乗り越えたCさんの晴れ晴れとしたご様子が伝わってきて目から涙があふれました。
誰にも、自分の本質は見えにくいものです。ですから、「自分に合っていないのでは?」と悩むこともあるでしょう。でも、悩みは人を成長させてくれます。悩みがあるからこそ、自分を振り返る貴重な時間を得ることができるのだと思います。
今、仕事や職場に悩みを持っている方は、その悩みをきっかけにして自分を振り返ってみてはいかがでしょうか。すぐには見つからないかもしれませんが、心の中の本音や感情、興味や関心に必ずヒントが隠されているはずです。