30代・40代から準備しておくべきこと
[2012/07/26]
ある日突然、あなたが家族を介護しなければならない事態になったらどうしますか?
「まあ、当分は大丈夫だろうし、何か起こったとしても何とかなるだろう。いざとなったら、その時に考えればいいさ」
そう考える人が多いかもしれません。でも、要介護(要支援)認定者数は全国に約530万人(本年3月暫定値)もいます。それと同じ数だけ、あるいはそれ以上の人が、介護問題に直面していると考えるのが妥当でしょう。
しかも、同居家族を介護している人のうち、37.8%が60歳未満です。「妻が面倒をみてくれるだろう」と思っている男性がいるかもしれませんが、実際には家庭内介護のうち30.6%が男性の介護によるものです(「平成22年国民生活基礎調査の概況」厚生労働省より)。
つまり、介護の問題は、誰にも現実に起こり得る【他人事ではない問題】なのです。
では、冒頭の質問に戻ります。
ある日突然、あなたが家族を介護しなければならない事態になったらどうしますか?
仕事に支障は出ませんか? 施設や病院はどのように手配しますか? 費用は十分にありますか?
介護に直面すると、さまざまな難問が現れてきます。「いざとなった時に考える」のでは遅いのです。今からその準備について考えておきましょう。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
人材開発企画部 研究開発G
小出 真由美 さん
「私には関係ない」は勘違い
介護は非常に深刻な問題で、誰にも関わってくる問題です。
もし「私には関係ない」と考えている人がいるなら、次のいずれかのパターンにあてはまるのではないでしょうか?
「親はとても元気なので、まだまだ大丈夫だと思う」
「妻か兄弟姉妹の誰かが面倒みてくれるだろう」
「親が『施設に入る』と言っているので、介護の必要はない」
いずれのパターンも大きな勘違いをしています。
まず、「親はとても元気なので、まだまだ大丈夫だと思う」というパターン。今元気だからといって、明日も元気であるという保証はありません。ある日突然、介護が必要になる可能性は誰にもあります。実際、「お風呂で倒れた」「つまずいて転んだ」などのことがきっかけで寝たきりになるケースは珍しくありません。
「妻か兄弟姉妹の誰かが面倒みてくれるだろう」というパターンは、勘違いというよりも、考えが甘いと言えるかもしれません。おじいさん・おばあさん・おじさん・おばさんなどまで含めた家系図を書いてみればわかります。結婚している人は、配偶者の家系も含めて書いてみましょう。
そうすると、「いかに高齢者が多く、現役世代が少ないか」ということがおわかりいただけるでしょう。つまり、少ない人数で多くの人を介護しなければならない状況が、何年か後にやって来るかもしれないのです。そうした時、本当に「妻や兄弟姉妹の誰か」が面倒をみてくれるでしょうか? 自分の親が倒れた時、すでに「妻や兄弟姉妹の誰か」は別の人を介護しているかもしれません。
また、配偶者に親の介護をお願いした男性が、「自分の親ならともかく、あなたの親までは無理よ。あなたの親なんだから、あなたが自分で考えてよ」と言われるケースもあるようです。実は、介護の問題で困っているのは、男性にこそ多いのです。
最後の「親が『施設に入る』と言っているので、介護の必要はない」というパターンも、典型的な勘違いのひとつです。2009年12月の厚生労働省集計によると、「特別養護老人ホームに入所申込をしても入れなかった」という人が42万人以上もいます。高額な有料老人ホームでもない限り、「施設に入る」ことは相当難しいと言わざるを得ないのです。
実際に介護を経験した人は・・
日本マンパワーでは、介護問題を考えるにあたって、介護経験のある人を対象にアンケートを行いました。有効回答数は208人(男性185人、女性23人)。全員が45〜60歳で、介護時に会社の経営者・役員・正社員、公務員のいずれかに所属していた人です。
その結果、次のようなことがわかりました。
●介護に直面した時に抱いた不安は?
「お金がどのくらいかかるか」63.9%
「仕事と介護の両立ができるか」59.6%
「施設や病院などの手配について」58.2%
●介護に対する不安がある時、仕事への影響は?
「仕事に集中できなかった」55.4%
「休みが増えた」37.1%
「モチベーションが下がった」33.7%
●介護の不安を解消するために有効だと思うことは?
「事前に介護に関する情報を収集する」68.8%
「介護についての制度(社内・社外)を理解する」55.3%
「介護に対する自身の捉え方を見直す」39.4%
「介護のために貯金をする」35.1%
「介護について親と話し合う」30.3%
いざ介護に直面すると、さまざまな不安が生じ、仕事にも支障が出るということです。親の介護に関わる人は、年齢的に考えて、会社・組織で重要かつ多忙なポジションに就いていることが多いでしょうから、休日・休暇を取りにくい傾向もあります。「介護と仕事の両立ができないので会社を辞めてしまう」という人も少なくないようです。ケアマネジャーに相談したり、介護保険のサービスを受けようとしたりしても、要介護認定の認定調査・審査は1ヵ月ほどかかりますので、その間は自力で解決しなければなりません。
しかも、医療技術の発達にともなって、要介護の期間は長くなっています。場合によっては10年以上の介護を要する場合もあります。
その一方で、介護には費用がかかります。会社を辞めてしまうと、体力・気力の疲弊に加えて、経済的な圧迫にも苦しめられることにつながります。
こうしたことを考えると、できるだけ早く介護について知識を得ておくとともに、日頃から「介護と仕事の両立」ができるような働き方をしておく必要があるのではないでしょうか。これは当事者本人だけの問題ではなく、会社としても重大な問題だと思います。
できれば30代・40代から準備しておくことをお薦めいたします。
介護と仕事の両立を図る講座を開講
日本マンパワーはこうした介護問題にお役立ていただくため、通信講座『ワーク・ライフ・バランス実践術』に、介護準備もできるコースを設ける予定です。それが、10月開講予定の『ワーク・ライフ・バランス実践術〜介護準備ブック付き』です。
『介護準備ブック』とは、通信講座の監修者である小室淑恵さんが執筆した書籍で、
・介護にかかる費用のケース別シミュレーション
・介護保険制度を上手に利用するための情報
・介護と仕事の両立のためにやっておくべきこと
・親、夫婦、兄弟姉妹と話し合っておくべきこと
などが解説されています。「自分(子ども)の都合で親を扱うのではなく、親の価値観を事前に聞いておいて、尊厳や生きがいを傷つけずに介護をする」など、精神面でも非常に参考になります。また、巻末には家系図シートをはじめとするワークシートが付いていますので、自分の介護を可視化することができます。
将来のために今から準備しておくことが、みなさんご自身や大切な人の人生を助けることにつながるのではないでしょうか。