変幻自在に成長できる「プロティアン・キャリア」
[2008/04/28]
キャリアとは、「仕事の経験と密接に関係した、生涯にわたる行動や態度の軌跡」を意味します。いわば、「仕事を通した生き方」だと言えるでしょう。そして、そのキャリアの目標となるのがキャリアビジョンです。「こんな自分になりたい」という将来の自分像のことですね。
一般的に、このキャリアビジョンがないとキャリアを形成していくのは難しいと言われます。でも、仕事に追われていると、キャリアビジョンを考える暇もありませんよね。それに、「10年も20年も先の目標なんて思い浮かばない」という人も多いのではないでしょうか?
そんな方に、興味深い理論をご紹介いたします。日々の仕事を通して自分を高め、変化しながらキャリアを築き上げる方法です。それは、心理学者であり組織行動学者であるダグラス・ホールが提唱した【プロティアン・キャリア】。日本マンパワーの自称・ハッピーコーディネーター、大原良夫さんが教えてくれました。
ちなみに、プロティアン・キャリアの「プロティアン」とは【変幻自在】という意味で、ギリシア神話に出てくるプロティウスという神様に由来しているとのことです。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
キャリア形成事業推進本部 キャリアドック部
部長(CDA)
大原 良夫 さん
※肩書きは取材当時のものです。
−仕事に追われながらも成長する方法−
「プロティアン・キャリアとは変幻自在なキャリアという意味です。現代社会は環境の変化が激しく、ひとつのキャリアビジョンにこだわり続けることが難しくなっています。ですから、『むしろ、環境が変わったら自分も変化していけるようなキャリア形成が重要である』という考え方です。
このキャリア作りの方法には納得させられる点が多くあり、非常に実践的な方法だと思います。また、『さあ、キャリアプランを考えよう!』と仕事の手を止めて構えるのではなく、日々の仕事をしながらキャリア作りを実現させられるので、忙しい人にも適しています」
−必要とされるのは、たった2つの能力−
「プロティアン・キャリアを作るのは、たった2つの能力を持っているだけで可能です。ひとつは『適応能力』、もうひとつは『アイデンティティ能力』です。
適応能力とは、ただ単に適応すればいいという意味ではなく、『自分もやってみたい』『やってみたらどうなるんだろう?』という前向きな適応能力を指します。チャレンジ精神と似たような意味だと捉えていただければ結構です。
一方のアイデンティティ能力とは、『この仕事は自分にとってどのような意味を持つのだろう?』『私は何にこだわっているんだろう?』ということを考えられる能力のことです。このアイデンティティ能力がなければ、環境に左右されるだけのカメレオン的存在になってしまいます。
要するに、日々の仕事の中で、新しいことにチャレンジしながら自分に還元できる能力があれば、キャリアを高めることができるということです」
−能力を育てるための環境と行動−
「それでは、この2つの能力をどのように育てればいいのか? それには4つのことが求められます。
まず、チャレンジできる場。今まで取り組んだことのないような仕事や、少し難しい仕事に挑戦できる環境が必要とされます。
次に、メンター(支援者、指導者、助言者)の存在。成長過程の人が悩んだり困ったりした時に支援してくれる人が求められます。
3番目は、研修。学びの場を設けることで、適応能力やアイデンティティ能力を身につけることが必要だと、ダグラス・ホールは言っています
そして最後は、内省。英語ではreflectionと表現されます。何か仕事をしたら、『その仕事の中で自分がどんなことを学んだのか』をすぐにその場で振り返りなさいという意味です」
−内省次第で自分のキャリアは高められる−
「これら4つの中、自分の心掛け次第で今すぐできること。それは最後の『内省』です。
『そんなことを今さら言われなくても、仕事をやっていれば自然に学ぶよ』と思う人がいるかもしれません。でも、なんとなく学んだ気になるのと、学んだことを深く考察するのとでは、キャリア作りにおいて大きな差が表れます。『深く考察する』とは、たとえば次のようなことを考えることです。
・この経験はなぜ生じたのか?
・この経験から自分は何を学んだのだろうか?
・この経験は自分にとってどのような意味を持つのか?
・この経験はキャリア作りにどのようにプラス作用するのか?
・この経験はどのように活かせるだろうか?
実際、優秀な人は多忙な日々を送りつつも、こうした内省をしている人が多いように思います。文字として手帳や日記などに書き留めていけば、さらに深く考察できるはずです。
プロティアン・キャリアとは、このようにいい意味で日常的に自分を変えていくことでキャリアを築き上げる方法です。みなさんのキャリアップの参考としていただければ幸いです」