ちょっと一息

ハッピーキャリアの作り方 vol.94

企業内キャリアコンサルティングの現在動向

[2017/06/28]

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 みなさんは「企業内キャリアコンサルティング」という言葉を聞いたことがありますか? 文字通り、企業内でキャリアに関するコンサルティングを行うという意味です。「ウチの会社でもやってるよ」という人もいらっしゃることでしょう。
 では、改めておうかがいします。
 企業内キャリアコンサルティングとは、どのような目的で導入され、どのような人を対象に、どのように運営されていると思いますか? 何かイメージがわいてきますか?

 実は、この答えはひとつではありません。なぜなら、ひと口に企業内キャリアコンサルティングと言っても、その実態は会社によって異なるからです。ですから、もし自分のイメージを根拠にして「私には関係ない」「コンサルティングなんて要らない」と思う人がいるならば、そう判断するのは早計かもしれません。自分のイメージが間違っているかもしれないのですから。

 今、企業内キャリアコンサルティングを導入する会社は確実に増えつつあります。ということは、みなさん自身が企業内キャリアコンサルティングを受ける可能性が高まっているということです。そうであるならば、まずは「知る」ことから始めてみてはどうでしょうか。
 企業内キャリアコンサルティングの動向に詳しい、日本マンパワーの和泉浩宣さんにお話をおうかがいしました。ぜひご参照ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社日本マンパワー
 マーケティング部
 広報・PR担当
 和泉 浩宣 さん


増加する企業内キャリアコンサルティング

 キャリアコンサルティングは時代の流れとともに、その役割が変わってきています。
 日本マンパワーで『キャリアカウンセラー養成講座』(現在の『キャリアコンサルタント養成講座』の前身)を開講したのは、1999年でした。当時の日本は、終身雇用制度が崩れ、雇用の流動化が推進される傾向にありました。そのため、個人の能力・適性と、それに合った仕事とをマッチングすることが求められました。いわゆるジョブマッチングと呼ばれるものです。そのジョブマッチングにキャリアカウンセラー(キャリアコンサルタント)が介在することによって、雇用の流動化が促進されることが期待されました。
 しかしその後、社会環境が変化し、企業のニーズは変わっていきます。すでに在籍している社員に対して、「変化に対応できる能力を自ら身につけてほしい」「主体的に専門性を伸ばしてほしい」など、組織内で活躍し続けることを前提とした方向性に変化してきたのです。そして、それを実現するため、一人ひとりが自律して主体的に能力を発揮することができるようにと、「企業として社員のキャリア形成を支援していこう」という機運が高まってきたと考えられます。

 その機運はデータでも裏付けられています。
 常用労働者30人以上の企業を対象とする「能力開発基本調査」(厚生労働省)の中で、「キャリアコンサルティングを行うしくみがある事業所」の割合が公表されています。それによると、正社員に対しては、2014年度が28.5%、2015年度が37.9%、2016年度が44.5%正社員以外に対しても、2014年度18.0%、2015年度23.7%、2016年度30.9%。企業内キャリアコンサルティングは、年を追うごとに増加していることがわかります。


増加傾向を続ける3つの理由

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 企業内キャリアコンサルティングが増加傾向にある理由は、大きく3つが考えられます。
 1つは、国の動向による影響です。2016年度から、キャリアコンサルタントが国家資格化され、さらにセルフ・キャリアドック(体系的・定期的なキャリアコンサルティングの実施を含め、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する取り組み)制度の導入が助成の対象となりました。こうした国の動きに対して、企業が敏感に反応したと言えます。
 2つめは、これから社会に出ようとする若年層の間で、自身のキャリアに対する関心が高まっていることが挙げられます。就職活動において、キャリア形成を意識するようになったのです。たとえば採用現場でも、学生から「貴社にはどのようなキャリアパスがありますか?」などの質問が出るケースもあるようです。
 これによって、人材不足が深刻化している中堅・中小企業においては、社員のキャリア形成を支援する必要性が生じています。最近では、自社サイトの採用ページや求人サイトで、キャリア支援の充実をPRする企業も増えてきています。
 3つめの理由は、主に大手企業における、ミドル・シニア層の活性化と女性活躍推進に向けての対策です。
 ミドル・シニア層の活性化という面では、雇用延長の影響もあり、仕事へのモチベーションを高め、成果を出してもらいたいという企業のニーズが反映されています。ただ、働く本人の思いや事情、背景は人によって異なります。たとえば役職定年を例にとると、その後も従来以上にバリバリ働きたいという人もいれば、ワークライフバランスを保ちながら働きたいという人もいるでしょうし、体力や家庭の事情などを理由に退職を希望する人もいるでしょう。そのため、集団研修などで画一的にモチベーション向上を図ることは困難な部分もあります。そうした状況でさらにていねいに社員をサポートしようとする時、個別に話を聴くキャリアコンサルティングが非常に有効なのです。
 女性活躍推進についても同じことが言えます。社員一人ひとり、抱えている背景や状況が異なりますし、「将来の自分のありたい姿」も異なります。そのため、活き活きと活躍してもらうための方策のひとつとして、企業内キャリアコンサルティングが導入されています。


すでに導入している企業の運営実態

 では、企業内コンサルティングの制度はどのように運営されているのか。すでに導入されている会社の事例から代表的なものをご紹介いたします。
 まず、キャリアコンサルタントが社内の人か、あるいは社外の人かという点で言うと、社内の人のケースが多くなっています。やはり、社内の仕事内容や職場の実態、文化、制度などをわかっていないと、具体的なアドバイスを求められた時に対応しにくいからです。
 社内の誰がコンサルタントとして担当するかは会社によって異なります。たとえば、人事スタッフが担当するケース。あるいは、人事部門の下にキャリア相談室・キャリア支援室などのセクションを設けて専任スタッフが担当するケース。中立性を保つことを重視して、人事部門から完全に切り離した独立のチームで運営するケースもあります。
 少し変わったケースとしては、ダブルジョブ形式を導入している会社もあります。たとえば営業マネジャーやSEなどで活躍されている社員が、もうひとつの職務としてキャリアコンサルタントも担うのです。その会社では、キャリアコンサルタントとしての役割も目標管理の項目として組み入れられ、評価の対象にもなっています。
 キャリアコンサルティングを行うタイミングも会社によって異なります。随時相談を受け付けるほかに、キャリア開発研修など集団研修の終了後に個別キャリアコンサルティングを設けていたり、定期面談に組み入れたりする場合もあります。また、前者の場合は、受講者全員を対象とする会社もあれば、希望者だけを対象とする会社もあります。
 なお、キャリアコンサルティングの場で話した内容は、原則的に守秘義務が設けられているはずですが、内容によっては問題解決のために何らかの形で当該部門に報告・フィードバックすることも求められます。その守秘と報告の線引きをどこに設定するかは、「何のためにキャリアコンサルティングを導入したか」の目的によって異なっています。



                                                          キャリアコンサルティングに対する誤解

 こうして導入されつつある企画像エラー業内キャリアコンサルティングですが、現場では、「相談に来てくれる人が少ない」という悩みもあるようです。この原因としては、いくつかの仮説が考えられます。
 まず、日本には「働くことについて専門家に相談する」という文化が根付いていないのではないかということです。お酒の席で相談したり愚痴をこぼしたりすることはあっても、素面で専門家に相談することには慣れていないのではないかと思います。
 また、キャリアコンサルティングへの誤解もあるように思います。たとえば、社員が「相談したいことがない」「そこで解決できるとは思わない」「よくわからない」という思いを持っているなら、まさに誤解の結果ではないでしょうか。
 それは、もしかするとキャリアコンサルティングというネーミングによるイメージによるのかもしれません。コンサルティングというと、経営コンサルティングを思い起こさせるからです。キャリアカウンセリングというネーミングもありますが、カウンセリングという言葉には治療のイメージがつきまといます。「私、元気ですから、カウンセリングを受ける必要はありませんよ」という心象を抱く人がいるかもしれません。


社員がキャリアコンサルティングで得られるもの

 しかし、キャリアコンサルティングとは、経営コンサルティングでもなければ、メンタルの治療でもありません。いわば、コンサルティングを受ける人が自己理解を深めるためのものだと言えます。
 キャリアコンサルティングを通じて何を得られるかという視点で言えば、自分の適性や能力、興味・関心に気づくことができ、「自分はどうありたいのか」を自分で考えることができます。別の側面では、フィードバックをもらうことで事象への新しい見方を気づかせてくれる、自分が煮詰まっている時や思い込みに囚われている時に打破してくれる、ということもあります。
 この感覚はおそらく、キャリアコンサルティングを受けたことがある人ならわかるでしょう。残念ながら、受けたことのない人にはわかりにくいかもしれません。ただ、よくわからないことに対して敬遠しがちなことは理解できますが、すごくもったいないというか、自分で気づく機会を逸しているように思います。自分のことは、理解しているようで理解しにくいものですから。

 ちなみに、ある企業のキャリアコンサルタントの方からうかがった話ですが、マネジャーから「部下とどうコミュニケーションをとればいいか」という相談を受けることもあるそうです。上司と部下とのコミュニケーションギャップはよく聞かれますが、キャリアコンサルタントが間に入ることで解消できることもあるようです。


一般の人に「キャリアコンサルタント」を知ってほしい

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 さて、話を戻すと、社会環境の変化に伴って企業のニーズが変わり、社員は自律的・主体的にモチベーション高く働き続けることが求められています。そのためには、社員一人ひとりが、「自分のありたい姿」に向かって活き活きと働く必要がある。会社としても、一人ひとりの思いや事情・背景を尊重しながら、キャリア支援をしていこうとしている。その方策のひとつが、企業内キャリアコンサルティングということです。
 目的や運営は会社によって異なりますが、その根底には会社を良くしたいという思いがあるのだと思います。
 キャリアコンサルティングは必ずしも相談だけを対象とするのではなく、自己理解を深めるために非常に効果的です。もし、自社で業内キャリアコンサルティングを受ける機会があれば、たとえば1年に1回でもいいので、うまく活用して自分のキャリア形成に役立てられると望ましいのではないでしょうか。


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