オフィス家具販売、未就業者支援、就職ノウハウ本執筆・・
[2016/11/29]
キャリアカウンセリングの機能は、さまざまなシーンで活用できます。人とかかわる仕事はもちろん、プライベートな人間関係にも活かすことができます。専門職としても、企業の人事部門、人材会社、大学・短大・専門学校、行政機関など、さまざまな業種・職種でキャリアカウンセラーが活躍しています。
そのため、キャリアカウンセラーとして活躍している人の個性もさまざまです。一人ひとりに特有の経験があり、多様な価値観があります。「キャリアカウンセラーを目指して一番良かったことは、いろんな人に出会えたこと」という人も少なくありません。
本記事で紹介する高田裕明さんも、30代半ばにもかかわらず、稀有な経験の持ち主です。今でこそ、大学の講師や就職支援に携わっていますが、10年前にはこうした仕事に就くと想像もしていなかったそうです。
高田さんの魅力、対人支援の魅力に、ぜひ触れてみてください。「こんな生き方もあるのか」と、興味深く感じられるものと思います。
●今回お話を聞いたのは・・・
就職請負人
高田 裕明 さん
◇就活支援私塾「高田塾」塾頭
◇CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
入社3年目でトップ営業になるも・・
私が新卒で就職活動をしたのは10年ちょっと前です。ただ、あまり真剣には取り組みませんでした。大学の就職課に相談したこともなければ、適性検査を受けた記憶もありません。人と話すのが嫌いではなかったので、なんとなく「営業かな」という思いがあった程度です。志望業界は意識すらしたことがなく、最終面接まで残った6社はすべて異なる業界という有り様でした。
それでも運よく2社から内定をもらうことができました。入社したのは、OA機器やIT関連の商社です。その会社に入社を決めた理由は、なんとなく。直感です。
これほどいい加減な就職活動で入社した会社でしたが、仕事はとても面白く、責任感を抱いて働きました。私は法人を対象にオフィス関連家具を販売する担当でしたが、ノルマはすべて達成。3年目には半期で4億円以上を売り上げ、社内でトップの成績を収めることができました。
ただ、繁忙期はあまりに忙しい毎日でした。平日は月曜日から金曜日まで毎日終電。土曜日も休日出勤していました。日曜日は唯一の休みでしたが、お昼頃に起きて掃除・洗濯などの家事をすると、1日の大半が終わってしまいます。働くことだけに時間を割く日々に、疑問を持ち始めました。
「このままでいいのだろうか?」と退職を決意
そんな時、友人から誘われた飲み会でたまたま隣に座った初対面の女子に、意外な質問をされました。
「高田君、何やりたいの?」
大学時代から海外に長期滞在したいという憧れがあったので、「ワーキングホリデーで1年間くらいかけてオーストラリアを一周したい。そのために、あと1年間働いてお金を貯める」と言いました。それに対して彼女は、「私の夢はホテルを建てること」と言います。
衝撃を受けました。自分と同じ20代半ばの女子が自分のホテルを建てようとしている。同年代の知り合いで、そんな大きな夢を持っている人には出会ったことがありません。
「今度、こんな勉強会があるから来てみたら?」
彼女は、経営者をはじめさまざまな業界の人が参加している勉強会に誘ってくれました。
私にとって、この出来事は大きなターニングポイントとなりました。その後いろいろな生き方をしている人に出会い始め、世界の広さを知ると同時に、「自分はこのまま敷かれたレールの上に乗っていていいのだろうか?」と考えました。そうして退職を決意。入社3年半でOA機器・IT関連の商社を辞めました。
100人の未就業者を1人で支援
さまざまな方たちとの出会いに刺激を受け、ホテルを建てようと夢見る子に「世界一周をする」と約束したものの、自分が本当にやりたいことはそう簡単に見つけられません。1年半くらい自分探しをしながらフラフラしていたら、いよいよお金がなくなってきました。そこで入社したのが大手人材会社です。
私は、ある県からの委託事業の専属メンバーとして採用されました。就職できないまま大学を卒業してしまった子たちを就職させる、未就業者支援のプロジェクトです。
私が担当したのは、履歴書添削や面接指導、カウンセリングなどを行うことによって、半年以内に就職できるようサポートするという業務でした。ただ、プロジェクト初年度でしたので、業務の仕組みが確立していません。人手不足のため、私を指導してくれる先輩も、助けてくれるスタッフもいません。しかも、私は営業しか業務経験のない未経験者。そんな私が1人で約100人の未就業者を対象にしなければなりませんでした。さらに、その子たちは自分に自信をもてない子がほとんど。どうすればいいのか途方にくれました。
それでもやるしかない状況でしたので、なんとかその子たちの役に立ちたいと、自分なりに考えて一生懸命取り組みました。1日に12〜13人をカウンセリングする日もよくありました。
そうした苦しい実践の中で編み出したのが、「3Eステップ法」です。
伝え方の技法「3Eステップ法」
3Eステップ法とは、伝え方の技法です。履歴書やエントリーシートに書く文章にも、面接での話し方にも用いることができます。
3Eとは3つのEを意味します。「Ending」「Episode」「Emotion」の頭文字から取りました。和訳すれば「結論」「体験」「感情」。就職活動ではこの順番に伝えると、相手に伝わりやすいのです。
最初に結論を述べることによって、言いたいことを明確化します。ただ、結論を述べるだけでは情報として不足していて説得力がありません。ですから次に、自分特有の体験を理由として挙げることで、「なぜその結論に達したのか」を相手に伝えます。そして、最後に感情。自分がどのような気持ち・思いで何をやりたいのかをまとめとして述べることで、相手に感動を与えることが可能になります。
後から気づいたことですが、これは現在—過去—未来という構成です。この構成は『情熱大陸』(毎日放送)などのテレビ番組の構成と非常に似ています。
優秀な営業は短く簡潔に感動させる
なぜ3Eステップ法を編み出せたかというと、前職で営業経験があったからです。私が出会った営業担当者を思い起こすと、成果を上げる優秀な人は、短い時間で簡潔に感動を与えられるという共通点があったのです。話がだらだらと長い営業担当者は、あまり成績がよくありませんでした。
また、私が担当していた未就業者は、自分の長所に気づいておらず、「自分には何もPRすることがない」と思い込んでいる子がほとんどでした。応募書類に書くことがない。面接でPRすることがない。書くことにも話すことにも苦手意識を持っている。そうした子たちが採用担当者に対して、優秀な営業担当者のように簡潔に感動を伝えられる方法はないかと考えた末の、私なりの解答でした。
応募書類作成にあたって未就業者に3Eステップ法を説明すると、「これだったら書けるかも」という反応が多くありました。それを個別添削などでサポートしながらブラッシュアップしていくと、子どもたちに「私でも書けた!」という自信が芽生えます。それを元にして話す練習を何回も繰り返すと、「話せた!」という自信も付加されていきます。本人の気持ちが前向きになり、表情も明るくなっていきます。「どうせ私なんか」と思っていた子が、「私、できたんだ」「なんか自信が持ててきた」などと変わっていくのがわかりました。
こうして、早い時期に内定を得られる子がどんどん増えていきました。
セミナーに飛び込み参加で出版決定
非常にやりがいのある仕事でしたが、この未就業者支援の仕事は約2年で辞めました。なぜなら、大学卒業後よりも大学在学中に支援した方が、本人が苦しまなくていいと思ったからです。ただ、私がそう思っても、受け入れてくれる大学がなければ絵に描いた餅です。そこで、本を出版することを考えました。3Eステップ法の本を出せばより多くの学生が苦労せずに済むはずです。
ですから、会う人会う人に「本を出したい」と言っていました。そうしたら、ある人が「明日、出版セミナーがあるよ」と教えてくれました。行動力だけはありますので、翌日は飛び込みで参加。初めて出会った出版プロデューサーに話を聴いてもらい、企画書を出版社に持ち込んでもらったら、なんと、すんなり出版が決まりました。まさに人とのご縁のおかげです。
書名は『全員内定!』(サンマーク出版)。3Eステップ法を軸に、自己分析、自己PR、履歴書・エントリーシート対策、面接対策などについてマスターできる方法を解説しました。本を読んでくれた学生の誰もが解決の糸口を見つけられるよう、シンプルでわかりやすい内容を心がけて執筆しました。
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★この時、高田裕明さんは30歳。念願の出版にこぎつけた後、なんと世界一周の旅に出かけてしまいます。それからどのようにして、キャリアカウンセラーや大学講師の道へとつながっていくのでしょうか? 本記事の続きは来月の当コーナーでご紹介いたします。
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