試験勉強に費やす時間を、実践経験を積むことに充てた
[2019/10/31]
経営コンサルタントとして唯一の国家資格、中小企業診断士。独立開業して中小企業の経営課題解決にむけた診断や助言を行うだけでなく、自己啓発やスキルアップ、業務上での活用を目的に目指す人も多くいらっしゃいます。難関と言われるこの資格を取得するためには、1次試験および2次試験に合格した上で、15日間の実務補習を受ける必要があります。
しかし、実はもうひとつのルートがあるのです。それは登録養成課程と呼ばれるもので、1次試験合格後に登録養成課程を受講・修了すれば、2次試験と実務補習が免除されるのです。
では、どちらの道を選択するのが望ましいでしょうか。その答えはご自身の考え方によります。どちらにもメリット・デメリットがあるからです。
そこで本記事では、あまり知られていない登録養成課程を修了し、30歳という若さで独立開業された田尻拓朗さんにお話をうかがいました。ぜひご一読ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
中小企業診断士(第10期登録養成課程修了)
田尻 拓朗 さん
新卒3年目に診断士の勉強開始
私が中小企業診断士(以下「診断士」)の資格を知ったのは大学生の時です。理工学部のIT関連学科だったのですが、「将来は学校を作りたい」という夢を持っていたことから、マネジメントに関する資格を調べていて知りました。
新卒で就職したのは大手グループのIT企業です。担当は、販売管理など業務システムの開発です。ただ、若手ということもあり、大規模システムの一部のルーティンワークをこなす日々が続きました。自分が担っている位置付けや意味がわからず、入社3年目には仕事にマンネリ化を感じ始めました。
そこで、自分の担当するシステムが経営全体の中でどのような意味を持つのかを知りたいと思い、診断士の勉強を始めました。診断士を取得すれば、経営的な視点で業務の流れを理解でき、開発しているシステムの位置付けも理解できるのではないかと仮説を立てたのです。
「時間」を優先して登録養成課程に申し込み
診断士の1次試験を受験したのは25歳の時です。幸い一発で合格することができました。しかし、同じ年の2次試験はまったく手応えがなく、不合格となりました。1次試験が終わってからの2ヵ月しか2次試験対策をしていませんから、当然かもしれません。
ただ、問題はその後です。翌年の2次試験に向けてもう一度勉強するか、登録養成課程に申し込むか。その検討・判断にあたって、周囲の人にお話をうかがいました。その時はすでにコンサルティング会社に転職していたため、周りに診断士や公認会計士、税理士など士業の人がたくさんいたのです。
みなさんから聞いたお話を集約すると、「公認会計士や税理士、社会保険労務士の試験は『覚える』というインプットの努力が報われるけれども、診断士は必ずしも報われるとは限らない」というものでした。実際、診断士を目指している人の中には、数年以上にわたって資格勉強をしている人もいます。
そうしたお話を元に考えて、私は「時間を買おう」と思いました。資格取得のためだけに費やす時間がもったいないと感じたからです。
「努力が報われるとは限らない勉強に、もし何年も費やしてしまったら、それによって失うものがたくさんあるのではないか。その間にできることは、いっぱいあるはず。それよりも、短期間で確実に資格取得できる方法があるのだから、そちらを選ぼう」
そう決心して、日本マンパワーの登録養成課程に申し込みました。
もっとも、当時25歳の私にとって、受講料はけっして安い額ではありません。蓄えがあるわけでもありません。そこで、国の教育ローンを組んで資金を確保しました。「登録養成課程で実習などの経験を積めばコンサルティングの仕事にも早くつけるはずだから、資金回収できるだろう」と考え、お金よりも時間を優先したのです。
クラスメイトとの実習でしか得られない体験
登録養成課程のクラスメイトは、自分を含めて24人。私は最年少でしたので、ほかの人との年齢差に不安を抱いていましたが、授業が始まると、その不安が杞憂だったことがわかりました。みなさん、前向きなマインドを持った人たちですから、私の意見にも耳を傾けてくれました。むしろ、大手のメーカーや金融機関など事業会社で何年もスキルを積んだ方々ですので、非常に勉強になりました。
特に、8人1グループになって実際の中小企業を診断する、計5回の実習では学ぶべきことがたくさんありました。たとえば、私に知識のない製造業の品質管理の視点から提案する人がいたり、経営企画の視点で指摘をしてくれたり。刺激を受けるとともに、考えの幅が広がりました。
また、さまざまな分野でキャリアを積んできたクラスメイトの夢や目標、想いをシェアし、お互いが応援できる関係性も築くことができました。そうした関係性が構築されたクラスメイトと、本音で意見をぶつけ合って真剣に診断に臨む。この重みは登録養成課程の実習でしか得られない体験だと思います。
2次試験を受ける道を選ぶと合格後に15日間の実務補習がありますが、その短期間ではこれほどの関係性は築けなかったはずです。私が勤めていたコンサルティング会社でも、1年間も続くチームプロジェクトは経験できませんでした。
働きながら1年間で確実に資格取得
もっとも、登録養成課程のカリキュラムはけっして楽ではありません。火曜・木曜の18:45〜21:45と土曜の10:00〜17:00の週3日通いますので、私のように働いている人は時間調整がたいへんな時期もあります。ただ、それは逆に、働きながら1年間で確実に資格取得できるというメリットと捉えることもできます。
また、私の場合は、登録養成課程を通じて「やればできる」ことを実感しました。そもそも私は理系学部出身ですから、ゼロからのスタートのようなものでしたから。それでも資格取得できたという自信を得たことで、さらに次の新たなチャレンジに飛び込んでいけるようになったと思います。
今年の9月からは、フリーランスの診断士として活動を始めました。コンサルティング専門の人材紹介マッチングサイトに登録して、主に大手企業の業務改善案件を受注しています。診断士の中には診断士協会などで知り合った同業者から仕事を紹介してもらう人も多いようですが、私はマッチングサイトの方が合っているようです。営業活動を人材会社に任せて役割分担をすれば、私のように若くても受注案件を得られます。今後は、業務改善に関わる案件を中心に、さらに経験を積んでいく所存です。
安全かつ確実に実践経験を積める
このような理由から、私にとって登録養成課程の経験は非常に価値あるものとなりました。みなさんがどのように考えるかは定かでありませんが、少なくとも独立開業したいと考えている人は、登録養成課程で実践的な経験を積むと非常に役立つと思います。経験を積むという意味では、コンサルティング会社などに転職するという方法もありますが、転職にはリスクが伴います。それよりも、登録養成課程でスモールスタートする方が、安全かつ確実に経験を積めるのではないかと思います。
もちろん、登録養成課程を受けるには受講料が必要です。でも、初期投資だと考えれば、比較的すぐに回収できるのではないかと思います。たとえば20〜30年間にわたって診断士業務をするならば、初期投資以上のリターンが見込めるはずです。
おそらく診断士を取ろうとする人は、これまでに何年も磨いてきたスキルや知識があるはずです。その個人特性を捨てずにコンサルティングとはどのようなものかを経験するには、登録養成課程は本当に価値のある制度だと思います。