ブランクの不安を乗り越え、専業主婦からキャリアカウンセラーに
[2016/08/30]
結婚を機に退職し、夫の転勤が頻繁な中、3人の男の子の育児と家事に専念。ようやく子育てがひと段落して仕事に就こうと思った時、仕事から離れて十数年が経っていた。その長いブランクが、社会に出ることに「不安」「弱気」になり、「自信のなさ」「負い目」が自分を襲う。
鈴木恵美さんは、過去の自分をそのように振り返ります。
しかし、お子さんの進路について家族で話したことがきっかけで、自分のやりたい方向性が現れてきたと言います。社会に出ることに不安で弱気だった鈴木さんが、「もっと社会や人とかかわって、若い方たちの役に立ちたい」と考え始めました。
それから約5年経った今、鈴木さんは、高校生のキャリア教育支援や大学生のキャリアカウンセリングなどに携わり、日々やりがいを感じながら活き活きと働いています。その間、鈴木さんにどのような変化があったのでしょうか?
主婦の方はもちろん、みなさんに読んでいただきたいストーリーです。ぜひご一読ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
特定非営利活動法人16歳の仕事塾 コーディネーター・ファシリテーター
東京理科大学キャリアセンター キャリアカウンセラー
キャリアカウンセラー(CDA)
2級キャリア・コンサルティング技能士
進路アドバイザー検定マスター合格
鈴木 恵美 さん
子どもの将来を一緒に考え、「こんなことを仕事にできたら」
私は、大学卒業後、外資系の生命保険会社に就職しました。配属されたのは代理店を対象とする営業部門。取引先から感謝されたり必要とされたりすることを経験し、仕事をすることの喜びを知ることができました。
その後、結婚して子どもができ、夫の転勤が多かったこともあり、いわゆる専業主婦の生活が長くなりました。でも、働くことの喜びは味わっていましたから、3人の子どものうち一番下の子が小学校3年生になった頃、外に出て仕事をしたいという気持ちがわいてきました。
それで勤めたのが、レストランの調理場のパートタイマーです。料理を作るのが好きでしたから。でも、楽しいながらも、なんとなく物足りなかったのかもしれません。「もっと自分が成長し続けられて、社会とかかわれるような仕事はないかなあ」と考え始めました。できれば定年のない仕事。すでにある程度の年齢になっていましたので、定年があると、一人前になった頃に仕事を辞めざるを得ないからです。
そう考えていた時、長男が、高校で文系コースか理系コースかを選ぶ時期にさしかかりました。ただ、「将来何やりたいの?」と聞いても、「お金を稼げれば何でもいい」というような返答。自分がやりたいことを何も考えていない様子なのです。そこで、夫と協力して何回か子どもと話をしていくうちに、「建築士になりたい」という方向性を見い出すことができました。
私にとってこの経験は、とても興味深いものとなりました。「建築士になりたい」という思いは、元々本人に何らかの形で潜在していたのでしょうが、自分がかかわることでそれが見え、人生の方向性を自分で選べるようになっていく。本人にとって、もやもやとした思いがすっきりして、人生やキャリアに主体的・前向きにかかわっていくことができるようになると同時に、私自身にとっても大きなやりがいを感じられました。なんとなく「こんなことを仕事にできたらいいなあ」と思いました。
専業主婦になって十数年、社会に出ることの不安
そこで、「キャリア」や「人生」などをキーワードにインターネットなどでいろいろ調べてみました。そうして知ったのが、キャリアカウンセラーの仕事やCDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)資格です。日本マンパワーの『キャリアカウンセラー養成講座』の無料説明会にも参加しました。
ただ、専業主婦になってから十数年。パートタイマーの経験はあっても、パソコンも打てませんでした。「社会に出る」ということに対して不安で、弱気な気持ちが襲ってきました。専業主婦である自分に対して自信が持てず、さまざまな負い目もあったように思います。
たとえば、子どもの通う学校のPTA活動でもそうでした。中学生に父母が就労経験を話すキャリア教育活動に参加した時、バリバリ仕事をしているみなさんの中で、専業主婦は私一人だけ。「こんな私が意見を言ってもいいのかな」「手書きしかできないので、書類作成の役にも立てない」など、マイナス思考ばかりが先行しました。
PTA活動ですらそうなのです。社会に出て仕事をするなんて、当時の私には非常に遠いイメージだったのです。
また、資格試験に挑戦するためには、ある程度の費用が必要です。資格を取得したからといって、すぐに仕事が見つかるとも限りません。「自分のためだけにこんなにお金をかけていいのかな」と悩むこともありました。
そのため、まずは日本マンパワー『キャリアカウンセラー養成講座』(注:『キャリアコンサルタント養成講座』の前身)の「通信講座」だけを受講することにしました。通信講座を受けてみて、それでも興味を持ち続けられたら、「通学コース」も受講して本格的に挑戦しようと思ったのです。
通信講座を受講してみると、自分がこれまで選択してきた人生が肯定されるような理論、これから前向きにがんばろうと思える理論がいくつもありました。たとえば、キャリアは職業だけでなく家庭や社会における役割も含まれるという「ライフ・キャリア・レインボー」、個人のキャリアの多くは予想しない偶発的なことによって決定されるという「プランド・ハプンスタンス・セオリー」、自分がキャリアを選択する際、最も大切で不動な価値観があるという「キャリア・アンカー」などの理論です。
そうして、誰かのキャリアや人生に役立つことができ、自分もずっと成長できてやりがいのあるキャリアカウンセラーという仕事に、ますます関心がわいてきました。また、「やりたいことをやらないと、いずれきっと後悔するだろう」と思い、通学コースも受講することにしました。
もっとも、同じ主婦の友人に相談した際、「資格マニアになっちゃったりしてね」と言われました。その時、「ああその通りだ、そうなってはいけないな。働いていない身で自分に投資をしているのだから、絶対に活かさなければ」と決意しました。
ですから、通学コースの曜日選択にあたっては、平日の講座に通えたにもかかわらず、あえてお勤めの方が多いであろう土曜日を選びました。クラスで私1人だけが専業主婦で心配でしたが、クラスメイトは温かく受け入れてくれました。
主婦の経験、自信のない経験も誰かの役に立つ
クラスメイトとの出会いは本当に貴重でした。最初は、社会人と接することに不安を抱いていましたが、すぐに解消できました。個々のバックグラウンドに関係なく、同じ場に立って同じ試験を目指しているという実感が、不安を解消してくれたのかもしれません。それまで、職務経験やキャリア、視野の広さなどに自信が持てませんでしたが、クラスメイトと出会ったことで一歩踏み出せたような気がします。
クラスメイトとは、通学コースの授業だけでなく、講座終了後にも一緒に試験対策勉強会をしたり、Facebookで情報交換したり、懇親会を行ったりしました。大人になってからこんな出会いができるなんて、想像もしていませんでした。
そんなクラスメイトとの支え合いもあり、試験は運よく1回目で合格することができました。講座を終えて3年経った今でも強い絆と連帯感でつながっています。
今、専業主婦をしている人の中には、おそらく以前の私のように自信が持てなかったり、不安を抱いていたりして、一歩を踏み出せない人がいると思います。企業社会から外れた期間の長さや就労経験の少なさによって、そうなるのは当たり前かもしれません。私の友人にも、能力があるのに一歩を踏み出す勇気が出ない人は多くいました。
でも、キャリア理論を学習するとわかるのですが、必ずしも職務経験だけが経験のすべてではありません。仕事以外の経験も、貴重な経験として誰かの役に立つことができるのです。キャリアカウンセラー資格は、その最たるもののひとつです。むしろ、子育てをした主婦だからこそ、同じ視点に立つことができ、その人の心情や状況を理解できる面もあります。
もちろん主婦だけでなく、誰もが自分ならではの経験を活かせる資格だと思います。
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★こうして、鈴木恵美さんはCDA資格を取得することができました。でもご本人は、「合格後の方が不安感が増した」と言います。果たして、どのような経緯で現在の活躍につなげていくのでしょうか? 本記事の続きは来月の当コーナーでご紹介いたします。
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