アルバイト生活から特定業界専門のキャリアカウンセラーへ
[2015/08/31]
自分に合った仕事を探して、やりがいを感じながら活き活きと働く——簡単なことのようですが、非常に難しいことのようにも思われます。
今回ご紹介する藤代尚子さんは、「ほとんど職業の知識がなかった」「やりたいことがあったわけでもなかった」という状態で初めての就職活動をし、ほどなくしてアルバイトを転々とする生活を始めます。ところがその数年後、新幹線の車内販売アルバイトをきっかけとして働く楽しさを知り、その後当時女性では珍しい鉄道会社の正社員に採用されます。
さらに、キャリアカウンセラー(CDA)資格を取得することで、「アテンダントと鉄道員のカウンセラー」として活躍。今春からは、環境省で子どもたちの環境学習支援にも取り組んでいます。
アルバイトだった藤代さんがどのように変貌を遂げてきたのか。また、キャリアカウンセラー資格をどのように活用しているのか。ご本人にお話をおうがかいいたしましたので、ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
環境省 大臣官房政策評価広報課 環境学習担当
キャリアカウンセラー(CDA)
藤代 尚子 さん
新幹線・在来線のグリーンアテンダントを経験後、当時勤めていた企業で初の女性正社員の鉄道員となる。退職後、国土交通省の行政相談窓口にて鉄道などに関する苦情・内部告発の受付を担当。同時に、2014年から鉄道業界専門の「アテンダントと鉄道員のカウンセラー」としてフリーランスの活動も開始。2015年4月からは環境省の大臣官房政策評価広報課に所属し、修学旅行で訪れた中学生などへの環境学習を担当している。
あまり深く考えずに仕事を選んでアルバイト生活へ
私は、福島県の地方で育ちました。地元で見聞きする主な職業と言えば、公務員、教師、警察、消防、病院、自衛隊、酪農、稲作、炭焼きくらいでしょうか。その影響か、新卒で就職活動時期を迎えた際も、ほとんど職業の知識がありませんでした。世の中にどのような職業が存在するのか、よく知らなかったのです。
しかも、特別にやりたいことがあったわけでもありません。就職情報誌の待遇欄だけを見て、どんな仕事をするのかも知らず、いい加減な選択基準で仕事を選びました。
そんな調子で選んだ仕事ですから、長く続くわけはありません。仕事に面白みを見い出せず、職場にも十分に適応できないまま退職。その後はアルバイトを転々としました。塾の試験官、家庭教師、カラオケ店の店員、スーパーのレジ係等々。20代後半まで実家暮らしのアルバイト生活が続きました。
新幹線の車内で世の中を知った
そんな時、知人から紹介してもらったのが、新幹線の車内販売のアルバイトです。業界用語ではアテンダントと言います。元々旅行好きでしたから、話を聞いた時、「面白そう、やってみたい」と思いました。今思えば、これが私の社会人としての第一歩だったように思います。
働き始めると、当たり前のことですが、遅刻するわけにはいきません。現金精算や引き継ぎには正確さが求められます。人といかに協力するかを考えることも必要です。事故があったら帰れなくこともありました。そうした仕事のたいへんさを経験して初めて、社会人としての自覚が芽生えました。
新幹線の中では、さまざまな職業を知ることもできました。私はグリーン車を担当していましたが、お客様の中には、銀行の役員や大学の先生、予備校の講師、オーケストラの指揮者など、多様な方々がいらっしゃったからです。
また、鉄道会社はアテンダントだけで成り立っているわけではありません。私たちが車内販売をするためには、倉庫から商品を運んでくださるスタッフが欠かせません。ほかにも、それを支える庶務、給料計算をしてくれる経理、もちろん、駅員、運転士、車掌をはじめ、運行管理、車両整備、保線、電気システムなど、あらゆる役割を担っている人がいることも知りました。
そうして知識が広がれば広がるほど、「ああ、私はいろんな人のおかげで仕事ができているんだなあ」「世の中って広いなあ」と実感しました。そして、「働くって楽しいんだなあ」「この仕事、もっとやりたい」「人のために働きたい」「もしかしたら、私もがんばればがんばっただけ、何かできるんじゃないか」「長く働いて仕事を追求したい」などの思いにスイッチが入ったのです。
仕事に没頭するようになると、一時期はグリーン車の販売部門でトップの成績を収めることもできました。トラブルや嫌なことも多々ありましたが、それらを含めて鉄道の仕事に興味を持ちました。そして、「鉄道に関連する別の仕事も体験した上で、ほかの人のたいへんさも理解したい」と思うようになったのです。
そこで、新幹線のグリーン車から在来線のグリーン車の担当に移りました。そうすると、毎日グリーン車で学校に通う小学生の子がいる。福島では想像もできなかった世界をまた知ることができて、ますます興味がわきました。「もっと知りたい! 駅員になればもっと知れるはず」と思い、駅職員としての就職を決意しました。
仕事の合間に、履歴書を添削
ところが、当時、女性の駅員はほとんどいませんでした。女性が採用されにくい時代だったのです。それでも運よく、関東地方の鉄道会社に入社することができました。最初は契約社員でしたが、後にはその会社で初めての女性正社員になることもできました。
そうして念願の駅員として働いていたある時、改札口で若い女性から声をかけられました。
「どうやって入社したんですか?」と。
一度や二度ではありません。高校生から社会人まで、何人もの女性にそう尋ねられました。彼女たちは、鉄道会社に入社したいのに入社できないでいる人たちです。先ほどお話しした通り、女性が鉄道会社で働くのが難しい時代でしたから、そうした人がたくさんいたのです。
ですから私は、休憩時間などを利用して、彼女たちの相談に乗ってあげることにしました。たとえば、「志望動機はこう書くといいよ」などと履歴書の添削指導。採用試験の概要や仕事内容、職場環境についても、私の経験で話せることをいろいろ教えてあげるようになりました。
人を支援するためにキャリアの理論を学びたい
なぜ、彼女たちが私を頼ってきたかというと、鉄道会社は特殊な業界ですので、学校やハローワークのケアが十分でないからです。彼女たちの就職・転職をサポートする機関が実質的になかったのです。
そこで、「ほかにサポートする人がいないのなら、私がサポートしよう」と思い立ちました。あわせて、駅員の中にはひどいクレームなどが原因でメンタルヘルス不調になったり、異動・転職を余儀なくされる人もいましたので、そうした鉄道員のその後のキャリアもサポートできればと考えました。
ただ、当時の私にとって、サポートできるのは自分の経験の範囲内だけ。しかも、その経験は次第に古い情報になっていきます。「私の拙い蓄積だけで他人の人生を左右していいのか」と考え、キャリアや人の心に関する理論について勉強したいと思いました。そうして探して見つけたのがCDA、日本マンパワーの『キャリアカウンセラー養成講座』だったのです。
受講直前に東日本大震災の発生、会社の退職など紆余曲折がありましたが、無事受講に至ることができました。
自分で状況を改善することができるんだ
『キャリアカウンセラー養成講座』では、キャリアを中心とする理論を広く体系的に学ぶことができて、非常に勉強になりました。
また、通学コースを通して自分の人生を前向きに考えられるようになったのも、大きなプラスでした。
たとえば、生まれてから現在までの自分の満足度や幸福感を振り返って、クラスメイトと話し合う「ライフラインチャート」のワーク。実は私には、受け止めきれない辛い過去があり、家族にも話したことのない気持ちを抱いていました。それを人に話せるだろうかと不安でしたが、思い切って話したことで、わだかまっていた気持ちが少しすっきりしました。そして、自宅でも同じワークをやってみたりしました。
そうすると、自分が今までどういうスタンスで生きてきたのか。自分は何が好きで、何が嫌いなのか。何を楽しいと思って、何を苦しいと思うのか。そんな、自分の傾向が見えてきました。そして、自分がいい状態になるためにはどういう条件があるのか、どういうふうに考えればいいか、などが次第にわかってきました。そうしたら、ずいぶんと気持ちが楽になりました。
「今まで、自分に起こったことはすべて運だと思ってきたけど、そうじゃないんだ」
「自分に起こる偶然は、自分では変えられない仕方のないことだと思ってきたけど、そうじゃないんだ」
「私には何もできないと思っていたけど、そう思わせてしまったのは自分なんだ」
「楽しいと思えた状況を、自分で作り出すこともできるんだ」
「自分の力で状況を改善することができるんだ」
そう思えるようになったのです。
鉄道業界の専門のキャリアカウンセリング
キャリアカウンセリングについて学習した後、鉄道業界の専門のキャリアカウンセリングサービス『アテンダントと鉄道員のハッピーキャリア研究所』を立ち上げました。いわば、鉄道員になりたい人のための就職支援ブログです。
すると、全国から相談が来るようになりました。鉄道業界に入社したい人はいるのに、相談する先がほかにないからだと思います。誰にも相談しようのない、行き場のない悩みが私の元に集まってきているのかもしれません。
主に中途採用をサポートしているのですが、応募書類の添削をした人はほぼ100%書類選考に通過していますし、面接の練習に来てくれた人は大半が最終面接までいっています。私自身が仕事で苦労した経験もみなさんに伝えられますので、今後もライフワークとして続けていければと考えています。
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★鉄道員になりたい人をサポートしてきた藤代尚子さんは、その後、環境省で修学旅行生を対象にした環境学習を手掛けることになります。環境省でどのような仕事をなさっているのか、キャリアカウンセリングをどのように活用しているのか。来月の当コーナーでご紹介いたします。