シニア世代に待ち受けている厳しい就労事情
[2014/06/30]
みなさんは10年後、自分がどこでどのように働いているか、想像できますか?
現在40歳代後半以上の会社員の人は、10年後には役職定年や定年を迎えているかもしれませんね。それより若い会社員の人はいかがでしょうか?
「そんな将来まで目を向けられない」
「将来のことなどわからない」
「暗い気分になるので考えたくない」
そうした人もいることでしょう。しかし、会社員であるならば誰もがいずれは、今の会社に残るか、あるいは会社を出るかを決断しなければならない時がやってきます。その時までに何らかの準備をしておかないと、より辛い将来がやって来るかもしれません。現実に今、厳しい環境で不本意な思いをしている60歳以上の人がたくさんいるのですから。
果たして、60歳代になると何が起こるのでしょうか?
そうした事情に詳しい日本マンパワーの秋本暢哉さん(ミドル・シニアのキャリア開発支援研究会メンバー)に、シニア世代の働き方についておうかがいしました。ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
人材開発営業部
ソリューショングループ 専門部長
マネジメントコンサルタント
秋本 暢哉 さん
年金は後ろ倒し、受給額も減る可能性
今、50歳代後半以上のシニア世代に関わる社会環境が激しく変化しています。
なかでも、一般的なシニア世代が直接的な影響を受けるのは、公的年金の制度改正ではないでしょうか。ご存じのように、公的年金の支給開始時期が後ろ倒しになりました。従来は60歳から受給できましたが、1941年4月2日以降生まれの男性、1946年4月2日以降生まれの女性については、受給年齢が順次遅くなっています。1961年4月2日以降に生まれた男性および1966年4月2日以降に生まれた女性は65歳にならないと年金を受給できません。最近の国の動きに関する新聞報道をみると、今後はさらに後ろ倒しされていくとの推測もなされています。
また、受給開始年齢だけでなく、受給額についても楽観できない状況です。2014年6月4日付けの日本経済新聞朝刊には、ショッキングな内容の記事が掲載されました。厚生労働省が公的年金の長期的な財政について8つのケースで見通したところ、3つのケースで、約30年後までに会社員世帯の年金水準が現役会社員の収入の50%を下回るようなのです。現在は62.7%ですから、相当減ることになります。最悪のシナリオ(対物価実質経済成長率▲0.4%)では、2055年度には39.0%にまで下がるという想定分析もなされています。
実際にどうなるかはわかりませんが、「受給年齢が後ろ倒しされ、受給額が減る」可能性が高いことは確かです。
シニア世代が置かれている不本意な状況
一方で、今後は平均寿命が延び人生が長期化すると予想されていますし、雇用継続制度によって「65歳まで働く」ことが一般化しつつあるのですから、今後は70歳以上にまで職業人生が長期化していく可能性も大いにあり得るでしょう。
そうした場合、私たちはどこでどのように働くことになるのでしょうか。
そのヒントとして、シニア世代をめぐる現在の状況をお伝えするとします。
2013年4月1日から改正高年齢者雇用安定法が施行されたことにより、企業に「本人の希望があれば65歳まで雇用する義務」が生じました。ビジネスパーソンにとっては、定年年齢に達する際、退職か継続雇用かを選ぶことができます。
ただ、継続雇用を希望したとしても、定年前と同じ感覚で働くのは難しいという現実が立ちはだかります。多くの場合、再雇用契約によって雇用形態や待遇条件が大きく変わるからです。たとえば、すでに次のようなケースが生じていると聞きます。
○給与が激減する上、仕事内容が単純作業に変わり、仕事に対するモチベーションが下がる。
○マネジャーの立場からプレイヤーの立場に戻ったが、自分がプレイヤーだった頃とは取扱商品が変わり、しかも営業先の担当者が若返りしている。そのため、以前のような成果を上げられない。
○これまで部下の部下だったような年下の社員が自分の上司になり、指示されることが精神的に受け入れがたい。
こうした状態は、企業規模や業種などによって異なります。
中小企業の場合はシニア世代が比較的活躍しやすい一方、中堅規模以上の企業では難しい状況が続きます。たとえば、製造業などでは生産拠点を海外に移行する動きにより、技術系や生産管理などの職種の人は活躍の場自体が失われることがあります。営業職の人でも、国内需要の低迷により営業拠点の統廃合があれば、職種転換や転勤、場合によっては退職を余儀なくされるというケースもあります。
再雇用者に提供できる仕事がなくなる
さらに、将来的には今以上に厳しい状況に置かれるかもしれません。その根拠として、私がお付き合いしている企業の人事担当者の多くが、今後の再雇用者の職務提供について次のように語るからです。
「現在、定年退職者の8割以上が再雇用の道を希望しています。それに対して会社は、なるべく以前と同じ職場の仕事を提供するようにしています。しかし、今後さらに再雇用希望者が増えると、60歳までと同じ職場・同じ仕事を提供できるかどうか、先行き不透明です。再雇用者が多くなると、その人数に見合った仕事を提供できるとは限らないからです」
すでに現在においても、第一線で活躍していたマネジャー層が、再雇用によって給与が半分以下になり、従来は外注していたような単純作業をしている、という例もあります。 しかも、それはフルタイムだと限りません。1人当たりの労働時間を制限されパートタイムで働く可能性も十分にあります。そうなれば、期待できる収入はいっそう下がることになります。
働き続けたいという意思があるにもかかわらず、これまでと同じレールを走ることはできず、不本意さを感じながらも別のレールを歩かざるを得ない。シニア世代に限らず、誰もがそうなる可能性を拭えない時代だと言えるのかもしれません。
そうならないためには、自分自身で主体的に望ましい準備をすることが何よりも大切だと思います。
★記事の続き「望ましい準備」については、来月の本コーナーでご紹介いたします。