これからの女性のhappyとは
[2013/03/27]
以前の日本社会では、女性管理職という存在はあまり一般的ではありませんでした。そんな中、管理職やリーダーとして、現在第一線で活躍なさっている女性は、ある意味、女性の活躍推進におけるトップランナーだと言えます。そして、その次に管理職候補・リーダー候補として期待されている女性は、セカンドランナーだということになります。
でも、当のセカンドランナーの女性たちは、必ずしもそれを目指しているわけではありません。むしろ、リーダーや管理職になるのに消極的で、仕事ばかりの人生ではなく、結婚や出産などのライフも満たすことを望んでいる人が多いと言われます。
そうした女性を支援しようとする研修が、『女性向けキャリア開発研修 For−W』です。前回に引き続き、開発プロジェクトメンバーの女性3人に、研修の意義をうかがいました。
●座談会出席者
株式会社日本マンパワー
人材開発企画部 研究開発グループ
小出 真由美 さん
株式会社日本マンパワー
人材加発企画部 ソリューショングループ
木下 幸代 さん
株式会社日本マンパワー
人材開発企画部 事業推進グループ
嶋 美乃 さん
幸福度は環境が決めるものではない
——研修の開発チームを立ち上げた当初、ある映画を観たとうかがいました。
小出 はい、『happy—しあわせを探すあなたへ』というドキュメンタリー映画です。
嶋 この映画には、いろいろな国のさまざまな境遇の人が登場します。スラム街に住む人力車の運転手や家族、財産を捨てて重病者の介護をするボランティア、アフリカの砂漠やチベットの山麓に住む人々。ある人の仕事は、朝から晩までとてもきついのに、収入は私たちよりはるかに少ない。家にベッドもなく、狭い部屋で雑魚寝のように寝ていたりします。
でも、心理学者や脳医学者によると、私たち先進国の人間よりも映画の登場人物たちの方が、幸福度は高いらしいのです。「幸せっていったい何だろう?」と考えさせてくれる映画でした。
小出 ですから、研修を企画するにあたって、「幸せって環境が決めるものじゃないよね。じゃあ、何だろう?」って話し合いました。
嶋 実際、私たちが幸せに感じるもののほとんどが、お金や地位や物が手に入ることではありません。それ以上に、現状をどうプラスに感じ取れるかどうかという部分がすごく大きいと思います。だから、お給料をたくさんもらったりポストに就けたりすることが、仕事へのモチベーションになるとは限らないのです。外から与えられるものではなくて、内側から湧いてくるものがあれば、活き活きと働けると考えていきました。
ワークもライフも自分らしく充実させたい
——モチベーションの源泉が、女性と男性とで違うのでしょうか?
小出 たぶん違いますね。今の若い男性は違うかもしれませんが、私たちより上の世代の男性の方は、出世を目指してきたと思うのです。「一生働くのであれば、せっかくだから出世してたくさん稼ぎたい」と望んできたように思います。そうした出世競争の中で、自分が年上の人より出世できれば、名誉なことと感じたのではないでしょうか。
木下 でも女性の場合、年上の人より上役になるのは躊躇する人が多いと思います。人間関係が難しくなりますから。
小出 ですから、人事担当者が女性の管理職率を高めようと希望者を募っても、積極的に手を挙げる女性はほとんどいないのです。
木下 トップランナーの女性の中には、仕事を優先して「子どものお弁当をほとんど作ったことがない」という人もいますね。
小出 「ベビーシッターをフル活用した」という人もいます。
嶋 でも、今の女性はそこまでして仕事を続けたいと思えないんです。
小出 そうなんです。今の女性は、仕事もしたい。でも、結婚もしたいし、子どもも生みたい。男との人と一緒になって肩肘張って働くのではなく、女性としてのオシャレなども楽しみたいのです。男性やトップランナーの女性から見たら「甘えたこと言ってるな」と思うかもしれませんが、今は「ライフをおざなりにしてでも仕事を続けたい」という女性はほとんどいないと思います。
嶋 いろいろ楽しむのが今の女性のhappyなんです(笑)。
木下 私も、「自分は何のために働くんだろう?」と働く価値を掘り下げて考えた時、ライフが大部分を占めていたことがわかりました。ですから、ライフを考えないワークだけの研修をしても、受講者にはたぶん響かないと思います。人事担当者の中には、「会社で研修をやるんだから仕事のことだけを考えるべきだ」「ライフのことは自分自身でコントロールすべきだ」と考える方も多いと思いますが、ライフイベントで生活や働き方が変わったりする女性は、この先の仕事を考えるとき、ライフを考慮した上でワークを考えないと腹落ちしにくいのです。
小出 そのため、私たちがこのたび開発した研修は、女性が自分の軸を持ち、ライフイベントでなどの転機をプラスに受け止め、自己効力感を醸成し、多様な働き方や、物事の捉え方について視野を拡大することをねらいとする研修です。
受講者がhappyな未来を描けるように
——働く女性の幸福度を上げることにつながらないと、意義のある研修にはならないんですね。
小出 幸福かどうかは、自分の捉え方ひとつかもしれません。ただ組織としては、「仕事が幸福につながる」と感じるような機会づくりが大切だと思います。
嶋 たとえば、仕事そのものにやりがいを感じたり、社会に貢献できていると感じたり、自分の内側から湧いてくるものが明確になればなるほど、モチベーションを高められる研修になると思います。
小出 そのためにはやはり「ぶれない自分」が大事だし、さらに「視座を高く持ち、前向きに受け止める」という感度も必要になってくると思います。たとえば私たちが、映画『happy』に出てくる登場人物と同じ暮らしをしても、幸福を感じるとは限りません。仕事でもそれと同じことが言えるのです。それはすごくもったいないことだと思います。
嶋 あるひとつの出来事についても、幸福と捉えることもできますし、不幸と捉えることもできます。でも、どのようなライフイベントでもきっと自分の糧になりますし、自分のモチベーションにつなげられるはずです。
小出 仕事についてもどう捉えるかが、幸福度に大きく影響すると思います。毎日流されるように仕事をして不平不満を言っていたら、おそらく幸福を感じることはできません。自分のワークやライフをきちんと意味づけして、自分の軸をもっていることが大切なのです。
木下 働いている女性たちが仕事もキャリアも充実しながら、いかにhappyな未来を描けるか。その機会をつくることが、セカンドランナーのキャリア作りの支援につながるはずです。『女性向けキャリア開発研修 For−W』は、そうした研修プログラムになったのではないかと思います。
★座談会の続きは来月以降の同シリーズでご紹介いたします。