組織開発に向けての「対話」を成功させる条件
[2012/08/29]
部門間・部署間・チーム間に“溝”ができてしまって、組織全体の力としてまとまらない。上司と部下の間に“溝”ができてしまって、お互いの不平・不満が絶えない。
そうした状況を改善するひとつの方法が「全員による対話」であり、それによって組織の全体像・全体システムが見える化され、組織と自分の関係性がわかりやすくなります。また、ほかの人の仕事内容や事情、想いなども理解でき、“溝”を埋めることができます。
これは、先月の「ハッピーキャリアの作り方vol.47」でご紹介した内容です。
でも、「全員による対話」を成功させるにはいくつかの条件があります。その一つは、「参加している人が自分の意見を語ること」です。
たとえば会議のとき、みなさんの職場では全員が自分の意見を発表しますでしょうか? 人数が多くなると、どうしても“黙っている人”が生じてしまうのではないでしょうか。
実は、それには理由があります。
今回はそんなお話について、日本マンパワーのコンサルタントで、『組織開発ファシリテーター養成講座』の進行役も務める水野みちさんにおうかがいしました。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
人材開発企画部 研究開発G 専門部長
水野 みち さん
自分の意見を言わない人の心理は?
対話というものは、ときに“なあなあ”になってしまうことがあります。対話に参加している人の中に、自分の意見を言わない人が多い場合です。たとえば、「社長だけが話して、ほかの人はみんな黙っている」という光景は、その最たるものだと言えるでしょう。これでは対話とは言えません。
こうした光景では、参加者にどのような心理が働いているのでしょうか?
たとえば、
「言っても無駄だ」
「自分の意見を否定されると怖い」
「自分の考えが間違っていると恥ずかしい」
「場の空気を乱してはいけない」
「私が意見を言ってもどうせ変わらない」
これらが理由である場合は、少なくとも意見があるので、発言ができるような場や関係性を作ることで、活性化しやすくなる可能性が高いと言えます。
しかし、一番難しいのは、
「特に意見がない」「みんなが言うことに従いたい」というケースです。
これは、「自分なりの考えを持つ訓練ができていない結果である」とも言えます。自分の意見を持つとは、求められる解を推察して、誰かの意見や文献を引用するということではありません。自分なりの経験に基いた見解を統合・言語化し、他者に伝えるということです。これは、対話力とも言えますし、説得力も増します。
みなさんの組織ではどのような従業員の反応が多いでしょうか?もしも、意見がない社員が多いとすれば、これからのグローバル社会では太刀打ちできなくなる可能性は大きく、リスクを抱えていると言えます。なぜなら、グローバル社会では自分の意見をしっかりと主張できるということが、ビジネスを行う上で必要最低限のスキルだからです。意見のない社員は気持ち悪がられることさえもあります。
「違っていてOK」「対立してもOK」という考え方や文化が必要
では、意見を持つようにと言って、すぐに持てるものでしょうか?もしも、「みんなと違っていてはいけない」、または「上位者に対して反対意見を抱いてはいけない」「組織ではトップからの命令は絶対だ」ということを前提に過ごしていたらどうでしょうか。日本では組織に対して物分りのいい人をサラリーマンの代名詞としているようです。以前、ある女性社員が「会社に勤めて8年経って、はじめて“○○さんはどう思うの?どうしたいの?”と意見を求められました。それまで問われたことがなかったし、私がどうしたいかなんて考えたこともなかった」とおっしゃっているのを聞いて驚きました。彼女は言われたことはきちんとこなすまじめな社員ですが、変化の激しい昨今、会社の新たな人事方針として打ち出された「自ら考え、問題意識を持って行動できる自律型社員の育成」に戸惑いを感じていました。彼女が優秀じゃないわけではありません。これまでの環境(学校・社会)がそういった人材を育てる風土だっただけなのです。
そうした環境で育った相手に対して急に「意見を言うように」「主張をするように」と言っても、そこには大変な努力と意識の転換(パラダイムシフト)が必要になります。極端なことを言うと、まずは自分と他者は違うということをきちんと意識することが必要になります。「違うのは当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、日本社会では意外と「違い」を良しとしていないことの方が多いのではないでしょうか。
たとえば、飲み会の席で、最初は全員ビールというのが常識で、何の疑いもなしにビールを頼んでいた社員Aさんがいたとします。ビールを頼まない外国人社員に対して「和を乱すやつだな・・・」と批判的に捉えていました。しかし、文化が一転して「Aさんは本当は何を飲みたいの?」と聞かれるとどうでしょうか。周囲は、人に合わせているAさんを冷ややかに見ます。そして、全員が各自好きなものを頼んでいます。ビールの種類も飲み方も豊富です。Aさんは一瞬戸惑い、どんな飲み物があるのかを知ることから始めます。それらの飲み物を前に、自分に問いかけます・・・「これはどうだろう?」「あれは以前飲んだけれど、好きだったか、嫌いだったか?」。他者の考えや志向と自分のそれとを区別して分類し、選択します。このプロセスを通してはじめて「私はこれが好きなんだ、これが私なんだ」という認識をします。
このように、従業員の意見を育む前提には、「違っていてOK」「対立してもOK」という考え方や文化が必要になります。違うことで排除されるようでは、意見は育ちにくくなります。よく見かけるのが、意見を求めるのに、自分と違う意見が出てきたら面白くないとして一掃してしまうというマネジャーのジレンマです。そのような暗黙のルールが根強い場合は、マネジャーが自身や風土を見直す必要があるでしょう。
「個のビジョン」によって共有ビジョンが生まれる
話を戻しますと、ポジティブアプローチなどの「全員での対話」の場を活かすためには、個の確立が重要です。たとえば、共有ビジョンを作り上げるためには、個人が自分なりの目指したい方向性、つまり「個のビジョン」を持っていることが望ましいと言えます。「個のビジョン」がなければ、共有ビジョンと「個のビジョン」とを照らし合わせて融合することもできません。
「個のビジョン」を考える上でもやはり意識の醸成プロセスが必要になります。
つまり、先ほどご説明した意見の確立のプロセスと同じように、ビジョンについても個々人に問いかけ、違いを認めた上で語り合い、軌道修正しながら自分のものを創りあげるということが必要になってきます。組織開発をするためには「個の確立」も同時に進める必要があり、「個の確立」をするためには、個人のキャリア開発が欠かせないということになります。
もし、キャリア開発をないがしろにして共有ビジョンを作り上げようとするならば、おそらく個人の心の中に、「押しつけられた」「なんとなく嫌だ」「本当はやりたくない」「やる気がでない」などの心理が働くことでしょう。
ぜひキャリア開発を充実させて、組織開発に取り組んでいただければと思います。