ちょっと一息

キャリアカウンセラーの資格活用 vol.31

50代半ばで初めて、人とのかかわりや自分自身に興味

[2018/09/27]

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みなさんは、自分のことをどのような人間だと思っていますか?
 人のタイプを分類しようとする際、さまざまな指標で考えることができます。たとえば、外交的か内向的か、感情的か理性的か、現実主義か理想主義か、几帳面かずぼらか・・。信頼性・妥当性の高い検査に限っても多くありますので、一概には言えませんよね。
 しかも、「自分はこういう人間だ」と確信していたとしても、必ずしもそれが正しいとは限りません。自分が思い込んでいる自分像が、周囲に映っている人物像と異なるということはよくあります。

 今回ご紹介する八木則彦さんは、モノづくりが好きという自覚はあったものの、「60歳になるまで自分のことをよく知らなかった」ようです。さらに、「人に興味がなかった」と言います。
 しかし、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)やキャリアコンサルタントの学習を通して、何かが次第に変わっていきました。その変化のプロセスと現在のご活躍ぶりは必見です。ぜひご一読ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 東海工業株式会社(AGC(旭硝子)グループ)
 技師長
 キャリアコンサルタント
 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
 八木 則彦 さん


小さい頃からずっとモノづくり

 私は小さい頃からモノづくりが大好きで、いつも一人で部屋にこもって工作や模型づくりをしていました。そして中学・高校時代には地質や化石に興味を持ち、それが高じて大学は理系の資源工学を専攻しました。石油・石炭・鉱石などの調査や開発、精製を学ぶ学科です。学部卒業後、研究室にも2年間在籍しました。
 新卒で入社したのは、主にガラスや建築材料の原料となる資源などの調査・開発・製造・販売を手掛ける会社です。それから40年近く、技術者として新しい資源や商品の開発に携わり、今もその会社で働いています。
 長年の勤務で最も印象に残っているのは、工業用軽量ガラスパウダーの開発です。ガラスパウダーとは粉末状のガラスのことで、さまざまな製品に使われています。当時は工業製品の軽量化が求められていた時代でしたから、私たちは水に浮くほどの軽量性を目指しました。まだ世界で2社しか実現していなかった技術です。私たちがもし開発に成功すれば、初の国産化となる快挙でした。
 会社がその開発を始めたのは、私が30歳くらいの時です。それまで私は、鉱山現場で資源の調査や3交代での生産管理に従事していました。現場の仕事は好きだったのですが、急きょ、鉱山の閉鎖を告げられ、ガラスパウダー開発部門に異動することになりました。1年半の研究を経て、ついに成功しました。水に浮く、真ん丸の粉末ガラス。直径は100分の5mm。自動車の塗料から深海調査艇の部材まで、用途の可能性は計り知れません。私たちチームメンバーは大いに喜び、事業化に向けて工場を設立しました。
 しかし、残念ながら商品は売れませんでした。


誰に辞めてもらうかを決める面接役

 軽量ガラスパウダーの事業は、1年目赤字。2年目も赤字。しばらくの間赤字が続いていました。「3年以内に黒字にできなければ事業を撤退する」という会社トップの言葉にプレッシャーを感じつつ、私たちはコストダウンに取り組みました。
 ただ、嫌なことは続くものです。海外の競合他社から特許侵害だと訴えられたのです。私はその裁判の担当となり、裁判は12年間続きました。
 裁判をしながらも、新たな製造方法を開発し、約10年かけてようやくコストダウンに成功、黒字化することができました。さらに、裁判にも勝つことができました。しかし、競合他社との競争も激化し、事業の収益は低下していきました。追い討ちをかけるように、原料を供給してくれていた協力会社の事業撤退があり、その原料生産ラインを内製化すべく大型投資に踏み切りました。この投資は事業環境をさらに厳しいものにしていきました。
 結局、2008年に20年間続いた軽量ガラスパウダー事業は幕を閉じることになりました。それに伴って、工場従業員の働く場所がなくなりました。対象となる従業員は10人弱。会社は、そのうち1人だけを残し、ほかの従業員に退職してもらうことを決めました。
 その時、私はすでに50歳を越え、技術部門の責任者となっていました。そして、「誰を残し、誰に辞めてもらうか」を決める面接役となったのです。


仲間の話を聴けていたのだろうか?

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 今まで一緒にがんばって働いてきた仲間の退職を決めなければならない。なかには20年来の付き合いになる仲間もいます。そうした仲間の誰に辞めてもらうか選択の判断を自分が下さなければならない。それはもう、何と言えばいいのか、言葉にならない、たまらない気持ちが込み上げてきました。
 ただ一方で、「それが自分の仕事だから」という割り切りもあったように思います。先ほどお話ししたように、私はモノづくりが好きな半面、人とかかわることにそれほど関心がなかったのです。その人がどう思っているのか、あまり興味がありませんでした。転職・再就職ができるかどうかには配慮しましたが、結果として1人を選び、ほかの人には辞めてもらうしかありませんでした。

 ただ、実はこのことが、私がキャリアカウンセラーを受講したきっかけにつながります。しばらく後に、ある思いが芽生えてきました。
 「果たして私は、仲間の話をきちんと聴けていたのだろうか?」
 「私が一方的に話しただけではないだろうか?」

 それまで技術畑一筋で働いてきて、技術的な仕事には自信がありましたが、人とかかわるという経験をしてきませんでした。もしかすると、「人とかかわってこなかった自分」「人に興味がなかった自分」に初めて気づいたのかもしれません。50代半ばになって初めて、人とのかかわりや自分自身に興味を持ち始めました。


友人がキャリアコンサルタントに

 ちょうどその頃、大学時代の友人と会う機会がありました。彼も技術者としてバリバリ働いていたのですが、早期依願退職をしたとのことです。どうやら、彼の携わっている事業が他社に売却され、事務職に転属されたのが原因のようです。
 「今、何をやっているの?」
 「実は、キャリアコンサルタントの資格を取って、転職したんだよ。今は人事評価の仕事をしているんだ」
 私がキャリアコンサルタントという言葉を知ったのは、この時です。彼が言うには、転職に際してキャリアコンサルタントが相談にのってくれ、おかげで転職することができた。自分もこういう人になりたいと思った、ということです。
 彼の話を聞きながら、私は「今まで自分に欠けていたのは、こういうことなのかな」「私が今、興味を持ち始めているのはこれなのかな」と考えていました。
 気になった私は、すぐにキャリアコンサルタント養成講座の資料をあちこちから取り寄せました。ただ、取り寄せただけで終わり、受講に踏み切ることはできませんでした。「どうしようかな?」とぐずぐず迷っている間に、2年くらいが過ぎてしまいました。


定年退職したら何をやろうか?

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そうこうしているうちに、定年退職の年齢が間近に迫ってきました。
 「60歳を過ぎたら何をやろうか?」
 自信のある技術的な仕事を続けていきたいという気持ちはありましたが、会社から「定年後も残ってほしい」というオファーはありません。
 「特許の専門家にでもなろうかなあ」
 そのような会社への就職活動も始めていました。
 一方で、「人とかかわってこなかった自分」や「人とかかわること」への興味も消えていませんでした。ふと2年前に資料を取り寄せたキャリアコンサルタント養成講座のことを思い出し、日本マンパワーの「キャリアカウンセラー養成講座無料体験セミナー」に参加しました。2014年12月のことです。


もっと自分のことを知りたい

 体験セミナーでは、傾聴やキャリアカウンセラーの活動などの説明を受けましたが、私の心に一番響いたのはカードを使ったグループワークです。バリューカードと呼ばれる十数枚のカードには、1枚1枚に異なる仕事に対する価値観が記載されています。その中から、自分が大切にしている価値を2〜3枚選んで「なぜそのカードを選んだのか」「カードから思い出される経験」などを一人ずつ順に発表するのです。私も発表しました。すると、その後にグループメンバーが「八木さんは○○な一面もあるのでは?」などとフィードバックをしてくれるのです。
 これにはショックを受けました。初めて会った人たちが、私の思いや、私がどういう人間かを考え、理解しようしてくれるのですから。それを聞く私はというと、人のことどころか、自分のことすらそれまで考える機会がありませんでした。自分のことをよく知らなかったのです。
 「人とかかわるというのは、まず自分をよく知ることから始まるのかな」
 体験セミナーに参加するまでは、私の求めている講座・資格なのかどうか、よくわかりませんでしたが、体験セミナーに参加したことで、「もっと自分のことを知りたい」との思いが強くなったことは確かです。そして、「60歳以降の自分のきっかけになる何かが欲しい」という思いで、『キャリアカウンセラー養成講座』(現在の『キャリアコンサルタント養成講座』の前身)の受講を決めました。

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★会社の役員を務める八木則彦さんは、50代半ばで人とのかかわりや自分自身に興味を持ち、60歳直前で『キャリアカウンセラー養成講座』の受講を決意しました。この後、八木さんは実技試験で苦労することになりますが・・。八木さんのストーリーの続きは来月の同コーナーでご紹介いたします。
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