自分に問いかけ、クリティカルシンキングを
[2009/07/24]
ある大学で、中国から来た留学生に日本人学生が「どうして日本で勉強しているの?」と質問しました。そうすると、中国人留学生は次のように返しました。
「あなたはどうして日本で勉強しているの?」
尋ねられた日本人学生は言葉が出ませんでした。なぜなら、日本以外の国で勉強することを今まで考えたことがなかったからです。日本で生まれたら日本の小学校へ行き、日本の中学・高校へと上がり、日本の大学に行くのが当たり前——そうした社会通念に疑問を抱かず、それ以外の選択肢を自分に持っていなかったのです。
しかし、この会話を経験することによって自分の中に"問い"が生まれ、自己概念を成長させるきっかけとなります。
この話を教えてくれたのは、日本マンパワーの立野了嗣さんです。そして、考えることの大切さを説いてくれました。先月に引き続き、今月も「キャリアカウンセリング」に関する立野さんのお話をご紹介します。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
キャリア形成事業推進本部 本部長(当時)
立野 了嗣 さん
クリティカルシンキングの重要性
私は常々、キャリアカウンセラーのみなさんに"クリティカルシンキング"を提唱しています。直訳すると「批判的に考える」という意味ですが、私は次のような意味で使っています。
クリティカルシンキングとは
社会通念など外部の知識や経験を鵜呑みにすることなく、自分自身に問いかけ、じっくり考え、その知識や経験を自分の言葉にすること。
これは、「自分自身の考え方をも問い直す」ということを含んでいます。人が成長するためにはこうした考え方が重要で、キャリアカウンセリングの本質にもつながるものだと思います。
キャリアカウンセラーが促すべきこと
ただ残念ながら、日本の学校教育は"考えること"よりも"覚えること"の方に重点が置かれています。ですから、考えることに慣れていない人、自分自身への"問いかけ"が不足している人に出会うことが少なくありません。たとえばキャリアカウンセリングの現場では、次のような例もあります。
あるクライエントが、自分の息子の就職先について相談に来ました。
「息子がNPOに参加して、『アフリカの難民を助けたい』と言うんです。『普通の社会も経験したことがないお前がそんなたいへんなところに行ってどうするんだ! もっときちんとした就職先を探しなさい』と言っているのですが、息子が言うことを聞かなくて・・・」
クライエントは、「アフリカは危険」「あえて危険な場所に行くべきでない」「『きちんとした就職先』は日本企業」「普通の会社員になることが幸せにつながる」などの社会通念を衣のようにまとい、子どもを自分の手元において置きたいという願望を叶えようとしているのかもしれません。
この場合においてキャリアカウンセラーの役割は、クライエントの考えにクライエント自身が疑問を抱くことを促し、子どもの自立を認められるようなきっかけを与えることです。つまり、"自分への問いかけ"をスタートとして"考えること"を促し、子どもや社会との"つながり"に気づいてもらうことなのです。
自分に問いかけるために前提となる意識
"問いかけ"を促すためには、「(原因は自分にあるので)自分で変えよう、自分で何とかしよう」という当事者意識を、クライエントに持ってもらう必要があります。逆に、「(原因は外部にあるので)嫌だ、面白くない」などの意識は他人事あるいは被害者意識でしかなく、そのままでは"問いかけ"に至りにくいと言えます。
"問いかけ"は、必ずしもクライエントだけに求められるものではありません。キャリアカウンセラー自身にも求められます。将来のキャリアカウンセリングのあり方についても、キャリアカウンセラー自身が"クリティカルシンキング"をすることによって導き出されていくものだと考えます。
キャリアカウンセラーでないみなさんも何か問題が生じたら、ぜひ当事者意識を持って自分に問いかけ、クリティカルに考え、自分の言葉で捉えてみてください。