ちょっと一息

これからの社会とキャリアコンサルタント(前編)

キャリアコンサルタント・CDAに期待される役割

[2019/04/25]

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 2016年4月にキャリアコンサルタントが国家資格となってから、丸3年が経ちました。その登録者数は全国で4万人を超え(2019年2月末現在)、社会から広く必要とされていることがうかがえます。
 では、これから先、キャリアコンサルタントにはどのような役割が期待されていくのでしょうか。また、その役割を果たすために、キャリアコンサルタントはどのような専門性を発揮することが望まれるのでしょうか。
 その方向性を探る参考として、2月12日に行われたトークセッション「これからの社会とキャリアコンサルタント・CDA〜専門性と使命〜」の内容をご紹介いたします。登壇者は日本キャリア開発協会(JCDA)理事長の大原良夫さんと、日本マンパワー・キャリアコンサルタント養成事業担当取締役の田中稔哉さん、モデレーターはat Will Work代表の藤本あゆみさんです。ぜひご一読ください。


●登壇者
 日本キャリア開発協会(JCDA)
 理事長/研究員
 大原 良夫 さん

 株式会社日本マンパワー
 取締役
 キャリアコンサルティング事業推進部長
 田中 稔哉 さん

●モデレーター
 一般社団法人 at Will Work
 代表理事
 藤本 あゆみ さん


これからの社会でさらに活躍するために

藤本 キャリアコンサルタントあるいはキャリアカウンセラーが、これからの社会を見据えて「どのような専門性を持ち、どのような使命を果たしていくべきなのか」について、お話をおうかがいできればと思います。まず、お二人は現在、どのような課題意識を持っていらっしゃいますか。問題提起も含めてお教えください。

田中 日本マンパワーの『キャリアコンサルタント養成講座』の受講者数は年間3,000名近くに上り、資格を持つ人は年々増えています。そうした人たちが、キャリアコンサルタントとして活躍できる領域を広げていくことが、第1の課題だと考えています。資格取得後にどのような形で活躍していただくかを、教育機関としても考えていくべきだろうと思っています。
 その意味では、「われわれがなすべきことは何か」を資格取得者ご自身が捉え直すことも必要かもしれません。キャリアコンサルタントの仕事と言うと、職業上の悩みがある人に対して1対1の個別相談を行うことを連想するかもしれませんが、果たしてそれだけでしょうか。個人的にはそうした疑問も抱いています。
 また、さまざまな価値観、バックボーンを持つ人が共に生きる社会が当たり前になりつつあり、今後はますます「多様性を生かす社会」になることが予想されます。そして、私たちキャリアコンサルタントはそれに寄与していくべきだと言われます。その点で、多様性を生かすためにキャリアコンサルタントは何ができるのかを改めて考えることも大事だと感じています。
 極端な例を挙げると、たとえば「多様性は必要ない、自分さえ良ければいい」という考え方も多様性のひとつです。そうした人にキャリアコンサルティングをする場合、「そうですよね、その考えも多様性のひとつですよね。よくわかります」と受け入れるだけでいいのでしょうか。これは問題提起となりますが、一緒に考えていければと思います。

大原 日本キャリア開発協会(JCDA)は、国家資格キャリアコンサルタントの試験機関および更新講習実施機関であると同時に、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)という民間のキャリアカウンセラー資格を認定・付与しています。JCDAは成長を支援するというカウンセリングの機能を重視しているので、キャリアカウンセラーという呼び方を大切にしています。CDAの会員は現在1万7,000人を超え、さまざまな分野・領域で活躍されています。そうした会員に最近よく話しているのは、専門性を発揮して社会貢献をすることが重要だということです。
 では、果たしてキャリアカウンセラーあるいはキャリアコンサルタントの専門性とは何でしょうか? みなさんならどのように説明しますか?
 専門性とは、私たちの強みやアイデンティティであり、私たちがどのように社会の役に立つかということを意味しています。さらに言えば、社会貢献を実践するためには、自分たちの専門性を社会に認知してもらうことが重要になります。そうした点について、改めて話し合っていければと思います。
 また、JCDAでは、健康診断や人間ドックのように、すべての人が自分のキャリアを定期的に点検できるような機会を設けられるよう、「キャリアカウンセリング機能を社会システムとして具体化する」ことを基本理念にしています。成熟した社会への発展を支援し、成熟した社会を維持することが目的です。そして最終的に、「共に生きる社会」「つながりのある幸福な社会」をつくることが、私たちの目指していくべき姿だと思っています。
 ただ、そのためには、社会の要請にどのように応え、何をなすべきかを考える必要もあるのではないかと思います。実際、CDA資格認定が始まった2000年当時と比べると、社会は変遷し、キャリアカウンセラーも増えています。そうした現状において、旧態依然としてわれわれの領域を「就職・就業に悩みや問題を抱えている人の相談を受けること」に限定していていいのでしょうか。その点も問題提起として一緒に考えていければと思います。


キャリアとは何か、仕事とは何か

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藤本 田中さんから「キャリアコンサルタントの仕事とは何か」、大原さんから「キャリアコンサルタント・CDAの専門性とは何か」という問題提起をしていただきましたので、まずはこの点についておうかがいできればと思います。お二人はキャリアコンサルタント・CDAをどのように定義されていますでしょうか?

大原 生き方を支援する人だと考えています。生き方の中に仕事というものがありますので、もちろん職業選択や職場適応の支援も含まれます。ただ、私たちの最大の強みは「その人の人生全体を見て、人生を充実させるお手伝いをすることができる」ということにあると思います。

田中 私は、その人が主体的な意思決定を支援する専門家だと捉えています。大原さんのおっしゃる人生という観点で言えば、人生は瞬間・瞬間の意思決定のつながりであるように考えています。

藤本 今、仕事のあり方や定義も変わってきているように思われますが、お二人の定義において、キャリア仕事はどのように位置づけられるのでしょうか?

田中 私は「金銭的な報酬を得るもの=仕事」とは考えていません。むしろ、家事や地域活動、副業などを含めて、「社会の中での役割」と表現する方が望ましいと思います。それは、ある社会とのかかわり方の名称と言えるかもしれません。名称は、他者とかかわる領域ごとに付きます。職業名はそのひとつでしかありません。そして、それらの役割がキャリアということになります。

大原 私も、仕事という言葉はあまり使いません。キャリアまたは役割という捉え方をしています。仕事という捉え方をしない理由は、たとえばある人が「あなたは仕事の中で何をやりがいに感じますか?」と聞いた時、相手が「別にありません」と答えたらどうでしょうか。もしかすると、「いや、何かあるはずでしょう」と再度問いかけるかもしれません。そう問いかける背景には、「人は仕事をすべきであり、やりがいを感じるのが当たり前」という社会的通念があると思われます。でも、人にはさまざまな価値観があります。仕事をしていなくても充実した人生を送っている人もいます。そうした固有の人生そのものがキャリアです。それを想定して、「どのような時に充実感を得ているのか」を聞こうとするあり方も、キャリアカウンセラーの専門性のひとつだと思います。


キャリアコンサルタント・CDAの専門性

藤本 さまざまな価値観を想定することも専門性のひとつだということですが、キャリアコンサルタントの専門性を私たちはどのように捉えればいいのでしょうか。

大原 心理療法の一つであるナラティブセラピーという分野では、「治療的会話」という言葉で専門性を表しています。心理療法ですから「治療」という言葉が使われていますが、非常に興味深いキーワードです。この表現を参考にしてキャリアカウンセラーの専門性を一言で表すなら、「内省的対話」と言えるのではないでしょうか。クライエントに内省的対話を促して自分の生き方を考えてもらうことが、キャリアカウンセラーの専門性だと考えます。
 もちろん、内省をすること自体は一人でも可能です。しかし、その場合は自分の枠組みを超える気づきがなかなか生まれません。ですから、キャリアカウンセラーが新たな気づきが生まれるように内省を促す質問をすることが重要になります。

田中 私も大原さんとほぼ同じ意見です。プロセスとしての内省的対話を通して、その先にある「ありたい自分の姿に気づけるようにする」ことが重要だと思います。
 さらに言えば、この場合の「ありたい自分の姿」とは肯定的であるべきだと考えます。たとえば、「自分さえ良ければいい」という人がいるとします。そういう人に内省的対話をすると、もしかすると「ますます自分さえ良ければいい」という気づきになるかもしれません。しかし、キャリアコンサルティングはそうした結果を想定しません。あくまでも肯定的な人間観をイメージして、その人がまだ気づいていない「ありたい自分の姿」に近づけるようなかかわり方をすることが、キャリアコンサルタントの専門性だと思います。

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★上記はトークセッションの前半部にあたります。後半部は後日公開いたします。
ぜひご期待ください。
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