キャリアを形成する「ダイアログ(対話)」とは?
[2009/10/29]
若手社員と話をしている時、OJTで新人に説明している時、社員面談を行っている時などに、
「どうも手ごたえが感じられないなあ。この子にはキャリアアップしていこうとする意欲があるのかなあ?」
と感じたことはありませんか? 特に人材部門のご担当者であれば、そうした疑念がよぎる機会が多いのではないかと思います。
そこでキーワードとなるのが「ダイアログ」です。ダイアログとは「対話」という意味で、組織活性化への糸口として注目されています。このダイアログの手法を活用して、「個人のキャリア形成にも役立てられないか」と考察したのが今回の内容です。
解説してくれたのは日本マンパワーの大原良夫さん。ご自身のキャリア形成を図ろうとする人にも、キャリア形成をサポートする立場の人にも、参考になるものと思います。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
キャリアドック部 部長
CDA
大原 良夫 さん
ダイアログと雑談、議論との違い
ダイアログという言葉が社会的に広まったのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のピーター・センゲ教授が、『最強組織の法則』(1990年発行)という著書で「学習する組織」という理論を発表したことによります。彼はその中で、ダイアログというキーワードを使いました。
ダイアログとは日本語で対話という意味ですが、彼に端を発して組織・企業で注目されているのは、「ダイアログによって新しい考え方が生まれてくる」という概念です。
ただ、会社の同僚や先輩、後輩とたわいもない話をしたり、飲みながらコミュニケーションをとったりする時の会話は、ダイアログとは言えません。雑談と呼ばれます。また、緊迫した雰囲気で意見をたたかわせる議論も、ダイアログとは異なります。
ダイアログとは、上下の関係なく自由な雰囲気の中で真面目なテーマについて協調的にやりとりし、自分の考えを深めていくような会話を指します。日本の組織や企業では、このダイアログの考え方を人材開発戦略のひとつとして組織活性化に生かそうと試みられつつあります。
ダイアログによるキャリア形成イメージ
こうした背景の中、私は「ダイアログをキャリア形成に生かせないか」と考えました。
なぜなら、個人のアイデンティティはダイアログによって作られるからです。誰しも、自分以外の人と対話をして初めて、自分の特性をつかむことができ、「自分が何者か」を実感・確認することができるからです。しかも、仕事をすることによってアイデンティティが磨かれます。そして、その磨かれたアイデンティティこそが、自分のキャリアとなります。
逆から考えれば、キャリアを形成するためにはアイデンティティが必要で、アイデンティティを作るためにはダイアログが必要なのです。
ダイアログによるキャリア形成のイメージはこうです。
たとえば、誰かに自分の職業経験を語るとします。そうすると、その人は語りながら、自然に自分のキャリアを再確認します。そして、「私はやっぱりこれを大切にして生きてきたんだなあ」と振り返ることができます。この振り返りが、さらなるキャリア形成につながっていきます。
また、話を聞く人も自分の考えを深めることができます。たとえば、みなさんが先輩の職業体験を聞いたとしたらいかがでしょうか? 「ああ、この人はこういうことにこだわって働いてきたのか。じゃあ、私はどうなんだろう? 私のこだわりって何だろう?」と、新しい視点で自分のことを振り返ることができるのです。
抽象論ではなく、個人的な話を
ダイアログのイメージとして参考になるので、パブリック・カンバセーション・プロジェクトというアメリカで行われた研究事例をご紹介します。これは、『あなたへの社会構成主義』(ケネス・J.ガーゲン著)という本に記載されている内容です。
ある場所に、「中絶」の賛成派と反対派を集め、会話をしてもらいました。一般的な議論では多くの場合、対立した挙句に並行線に終わります。しかし、この研究では、いくつかの条件がつけられました。たとえば次のようなことです。
・中絶の話題の前に、小グループで自分の人生や生活について話し合う。
・中絶の話題では、自分の立場にとらわれず、個人として話す。
・抽象論ではなく、中絶と自分自身との関係や経緯について話す。
・自分にとって何が重要かを話す。
・自分の考えに半信半疑な点や確信が持てない点などを話す。
これら以外にも進行上の仕掛けがいくつかありました。
このプロジェクトの結果、参加者は自分の賛成/反対の考えを変えることはありませんでした。ただ、参加者の意識が「自分の意見は変わらないけれど、相手の意見をとても理解することができた」というものに変わったそうです。
この事例は、「自分の個人的な話をすることによって自分のこだわりを確認し、相手の個人的な話を聞くことによって自分を振り返る」という効果ではないかと思うのです。
職場でやってみたいダイアログの例
ダイアログを個人のキャリア形成に役立てるよう、職場でたとえば次のような試みはできないでしょうか。
ひとつのプロジェクトが終了した際に反省会を行います。おそらく、良かった点、悪かった点、問題解決策などが発言されると思います。そうしたら、「今回のことで君たちはいったい何を学びましたか?」と問いかけてみます。プロジェクト・メンバーは無難な回答をするでしょう。そこで、「私はこういうことも学んだよ」「あなたは個人的に何を学んだの?」「あなたにとってそれを学ぶことは重要なの?」「なぜ重要なの?」と、ダイアログを展開してみるのです。
上司と部下の関係意識が強いとダイアログにならないでしょうが、対等の立場で自由な雰囲気で話せれば、キャリア形成の一助となるでしょう。
あるいは、仕事の話の延長線上でダイアログを行うことも可能だと思います。
「私の話、どう思う?」「どう思うって、その通りだと思います」
「どこがその通りだと思う?」「え、あの、○○○○○の点ですが・・」
「へぇ、どうして?」「○○○○○だと思うからです」
「今、君の話を聞いて、私はこんな考えも浮かんだよ。どうかな?」
こうした展開を促せられれば、これまでに見つけられなかった何かが見つかるでしょう。
キャリア支援とダイアログの関係
今、企業などで行われているキャリア形成支援施策は、必ずしもすべての人に受け入れられているとは限りません。なかには、会社や人材部門担当者の意図が従業員に伝わっていないケースも見受けられます。このことは、日本マンパワーが厚生労働省から委託事業として受けた「キャリア健診(企業向け・個人向け)調査研究事業」でも感じました。
その理由はもしかすると、キャリア面談やキャリアカウンセリングなどのキャリア支援施策にダイアログが足りないからかもしれません。あるいは、制度として確立するのではなく、日々の業務の中でダイアログを活用することが好ましいのかもしれません。
いずれの方法にせよ、自分や周りの人がキャリアやアイデンティティを振り返る機会づくりとして、ダイアログは将来にプラスの影響を与える大切な行為だと思います。
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