ビジネスで好感度がアップする「江戸しぐさ」とは
[2015/06/30]
「人間」という言葉は「じんかん」とも読みます。その場合、「世の中」とか「世間」を意味するそうです。文字通り、人と人との間合い、すなわちコミュニケーションを意味すると言えるかもしれません。
企業のお客様相談室長として長年活躍され、『「ザ・お客様相談室」売上貢献高120億円』の著者でもある岸正則さんは、人との間合いを学ぶことがビジネスにつながり、自分の人間性を高めることにつながると言います。
そして、そのひとつの教材として「江戸しぐさ」が大いに参考になると言います。
みなさんは「江戸しぐさ」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか? 江戸の商人から伝わるとされるさまざまなしぐさを総称したもので、習慣づけられたくせのような行動のようです。
私たちが自己成長するための大きなヒント。特に、営業や接客など人に関わるお仕事をされている方には、ビジネスにも活かせる話題です。岸さんのお話をぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
岸 正則 さん
オフィス・CSサポート代表
(財)汎アジア産業振興協会 経営企画室 室長
NPO法人 顧客ロイヤルティ協会 監事
NPO法人 江戸しぐさ 認定普及員
1968年中央大学経済学部卒業後、トーヨーサッシ株式会社(現LIXIL=リクシルに社名変更)入社。金沢営業所長、ビルサッシ商品企画課長、商品統廃合責任者を経て、1989年ビルサッシ低層商品開発部長に就任。1998年お客様相談室長、2008年お客様相談室顧問を務めた後、同社退職。現在、CSや「江戸しぐさ」、カスタマーセンターの活性化などのテーマで研修講師として活躍中。著書に『「ザ・お客様相談室」売上貢献高120億円』(文芸社)がある。
思いやりを行動で表す「江戸しぐさ」
「江戸しぐさ」とは、江戸の商人たちが築き上げてきたとされるもので、生活哲学になっていたと言われます。
たとえば、渡し舟にほぼ満員の客が座って出発を待っているとします。そこに、1人が遅れてやって来る。そうした時、みんなが少しずつ詰めて、1人分が座る場所を空けてあげる。こうしたしぐさを「こぶし腰浮かせ」と言います。こぶし分ほど腰を浮かせて横に詰めるという行為を指したものです。現代風に言えば、電車やバスで席を詰めるということになるでしょう。
また、「傘かしげ」と呼ばれるしぐさもあります。雨の日、傘をさして狭い道を歩いていると、向こうから人がやって来て行き違う。そんな時、相手にしずくが落ちないように傘を傾けるというしぐさです。
こうした「こぶし腰浮かせ」や「傘かしげ」という名称は、江戸時代から使われていたわけではありません。後の世に名付けられたもので、しぐさの中には、最近になって考案されたものもあるそうです。
「うかつあやまり」もそうかもしれません。混んでいる電車の中で足を踏まれた。人によっては「気をつけろ」などと怒ることもあるでしょう。でも、「ごめんなさい、私がうっかりしていました」と踏まれた人が謝る。踏んだ人ではなく、踏まれた人です。そうすると、相手も「いや、私が悪かったんです」と謝り、その場が丸く収まることでしょう。
ここで気に留めたいことは、コミュニケーションのあり方です。
「しぐさ」とは、一般的に「仕草」と書き、ちょっとした動作や身のこなしのことを言います。でも、「江戸しぐさ」を漢字にすると、「江戸思草」と書くそうです。思いを動作や身のこなしで表すこと。つまり、人に対する思いやりを行動にするということです。
しかも、考えて行動するのではなく、くせのように身につけて、瞬間的に行動する。陽明学で言う知行合一が実践されていたのです。
ですから、江戸しぐさを知識として知るだけでなく、行動に移すことが非常に大切だと思います。お客様の言葉にも出ていない、その気持ちを読んで行動に移すという「気働き」につながるのです。
「陰徳善事」で人間性を高める
では、私たちは「江戸しぐさ」から何を学ぶことができるのでしょうか。私はこのように思います。
相手を思いやるしぐさを身につけると、ほかの人に喜ばれ、評価されます。そうすると、人を意識することにより、自分を律する気持ちが生まれます。自分を律すれば、行動が変わります。行動が変われば、考え方が変わってきます。
同時に、「あの人はよくできた人だ」「とてもすばらしい人だ」などと周囲からの好感度が上がりますので、情報が集まりやすくなります。
なぜ、情報が集まりやすくなるかというと、好感度が高い人には人が近づきやすいからです。たとえば、お店で陳列商品について尋ねたいことがあるとします。でも、近くにはいかめしい顔で腕組みをしている店員しかいない。仕方ないのでその店員に尋ねようとするけれど、なぜか2mくらいまでしか近づけない。でも、笑顔でゆったりとした雰囲気の店員であれば、1m以内まで近づいてしまう。これは、ある実験で得られた結果だそうです。人は、近くで話すほど意思の疎通が図りやすくなりますので、当然、前者よりも後者の方が情報は集まりやすくなるのです。
そして、情報が集まるということは、結果的にビジネスの向上につながるでしょう。
思いやりの行動は、人が見ていない時でも行うことが大切です。「陰徳善事(いんとくぜんじ)」という言葉をご存知でしょうか? 人が見ていなくても、良い行いをしましょうという意味です。元々は近江商人の教えだそうです。
たとえば、ごみが落ちていたら、拾ってゴミ箱に捨てるか、家に持ち帰って捨てる。財布が落ちていたら、交番に届ける。こうした陰徳を積んでいれば、いつかは誰かが気づき、評価につながります。同時に、じわりじわりと自分の人間性が高まっていくはずです。
こうしたことを自分のものにできたら、素敵だと思いませんか。
「江戸しぐさ」と問題解決手法を学ぶ
私は以前、お客様相談対応業務に携わっていたこともあり、現在は、「江戸しぐさ」をビジネス・コミュニケーションに活かす研修の講師などを行っています。
10月29日(木)には、日本マンパワーの公開コース【頭(言葉)より体(行動)が先!「確かな人間関係の築き方」〜先人の知恵「江戸しぐさ」に学ぶ!〜】の開催を予定しています。そこでは、「江戸しぐさ」にとどまらず、ゲームやワークを交えながら、顧客満足や人間心理、ものの言い方、身のこなし方、心構えなどを学びます。またプログラム後半では、受講者のみなさんが直面している問題や課題を洗い出していただき、具体的な問題解決手法を会得していただければと思っています。その手法はさまざまなことに応用できますので、ご自身の財産になるのではないでしょうか。
過去の似たような研修では、受講者から「お客様への対応が変わったことで、成約につながった」など感謝の言葉を多くいただいています。
さて、「江戸しぐさ」には「お心肥(おしんこやし)」という言葉があります。学問を学び、いろいろと体験して心を豊かにしましょう、人間性を高めましょうという意味です。
みなさんは、心を肥やすためのアクションを何かしていますか? もしよろしければ、今度の公開コースをその機会にしていただければ幸いです。特に、営業や接客など人に関わるお仕事をされている方には、ビジネスに直結したお心肥の第一歩になるかと思います。