ソリューション営業ではなぜ通用しないか
[2014/04/30]
業界のボーダーレス化、BtoBやBtoCの相互参入、事業戦略の見直し、ビジネスモデルの変更など、営業を取り巻く環境は猛スピードで変化しています。そうした環境下で営業や営業企画を担当するビジネスパーソンは、どのような視点で営業すればいいのでしょうか。
新卒入社数年までであれば、基本的な営業プロセスを理解すれば、ある程度の成果を発揮できるかもしれません。しかし、30歳代のミドル世代やリーダークラスになると、組織からの期待・要望が高くなります。それまでと同様の営業方法では、満足できる成果を得るのは難しくなるでしょう。他社員あるいは他社と差別化して優位性を発揮しようとすれば、なおさら望ましい営業方法が必要とされます。
その望ましい営業方法が、つい最近までは【ソリューション営業】でした。顧客の課題をヒアリングし、それを解決することで顧客満足を得るという営業スタイルを指します。しかし、「今やソリューション営業では売上UPができない」と言われます。顧客が必要とする課題がなくなってきたからです。
この状況に対する打開策は【インサイト営業】にあります。
そこで、インサイト営業の解説を通して、「30歳代ミドルの営業パーソンは何を目指せばいいのか」について、井坂智博さんにお話をおうかがいしました。井坂さんは、知る人ぞ知る元トップセールスマンで、数多の企業の営業課題を解決した実績を持ちます。ぜひご参考にしてください。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ
代表取締役社長
井坂 智博 さん
1963年生まれ。茨城県出身。名古屋商科大学大学院経営学修士課程修了(MBA)。リクルートグループにトップ営業として延べ11年在籍。人事組織戦略、採用戦略、営業業務の標準化コンサルティングなどの経験を有する。とりわけ営業業務の標準化では、日本の上場企業を中心に176社もの営業課題解決の実績がある。1997年ITベンチャー企業を立ち上げ3年で同社をM&Aで売却。NPO国連支援交流協会国際社会支援東京支部長、上場企業の役員を歴任後、ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの経営支援を行い、年間260社の企業研修を受注し売上前年比1.7倍の実績を出す。2012年2月株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズを設立し、代表取締役社長に就任。障害者・高齢者などのリードユーザーを巻き込んだワークショップを展開している。名古屋商科大学キャリア形成非常勤講師、名古屋商科大学大学院戦略経営研究所研究員兼ビジネススクール客員講師。宣伝会議「営業力養成講座」講師、日経BP課長塾講師他。著書として「法人営業バイブル」(PHP出版)などがある。日経ビジネスオンライン執筆中。
ソリューション営業の限界
ソリューション営業とは、簡潔に言えば、顧客の課題を解決することによって、顧客満足を得る営業方法のことです。
たとえば、顧客に新しいコピー機を導入してもらいたい場合、「現在のコストはどのくらいですか?」「月に何枚くらい使っていますか?」「性能面で不満足な点はありませんか?」などと課題を聞き、それを解消するような商品・サービスを提案します。こうした課題解決型の営業方法が、ソリューション営業です。
そのためソリューション営業では、ヒアリングする力と、ヒアリング内容を整理する力が重視されました。顧客の課題を引き出すことによって、自社製品・サービスに結びつけられたからです。
しかし、供給過多の時代です。インターネットの普及によって、顧客が簡単に各種情報を入手することも可能になりました。営業パーソンと会わなくても、何でも購入できます。ですから、顧客が「自社の課題」だと思っていることは、すでに多くが解決されてしまっています。その状態で「お客様、不満足な点はありませんか?」とヒアリングしても、「いや、間に合っているよ。もっとコストが下がるならうれしいけど」という程度の返事しかされないことになります。顧客に課題をヒアリングしても、課題がないのですから解決のしようもありません。それが、成熟した社会におけるソリューション営業の限界だと言えるでしょう。
顧客すら気づいていない課題を見つける
結論を言いますと、30歳代のミドル世代やリーダークラスの営業担当者・営業企画担当者が目指すべき営業は、インサイト営業です。
ソリューション営業が顕在化した課題を対象とするのに対して、インサイト営業は潜在的な課題を対象とします。つまり、インサイト営業とは、顧客すら気づいていない課題を見つけ、最適の提案をすることなのです。しかも、お客様にとって部分的な最適を目指すのではなく、全体的な最適を目指します。そうでなければ、大きく売上を伸ばすことは難しいでしょう。
それでは、インサイト営業をするにはどうすればいいのか? それは、潜在的課題を見つけられるような発見力を身につけることです。しかし、それは容易なことではありません。
これまで多くの日本企業が営業パーソンに求めてきたのは、実行力だからです。ヒアリング力も整理力も、実行力です。営業パーソンに限らず、日本ではすべての従業員に実行力が求められてきました。それどころか経営者自身も、一部のベンチャー企業を除いては、ほとんどが実行力を糧に事業を行ってきたと言えるでしょう。
固定観念から脱却すること
発見力を高めるためには、固定観念から脱却することが大切です。今までと同じモノの見方をしていたら、新しいヒントが近くにあっても、発見することはできません。
たとえば、自分が売るべき商品がボールペンだとします。顧客にボールペンを売るため、さまざまな方法を考えるでしょう。でも、「ボールペンを売るためにはどうすればいいか」という発想だけでは、顧客の潜在的課題を見つけることはできません。考える方向性自体が固定化してしまっているからです。
ある会社では、固定観念から脱却するために、社員研修に禅を取り入れています。そして実際に、世界で誰も考え付かないような発想の商品・サービスを開発しています。
気合と根性で顧客を数多く訪問し、決められた質問をしてデータを整理することだけが営業のすべてではありません。営業とはもっと奥深いものです。
インサイト営業にしても、「これだけをやればいい」というものはありません。提案の仕方ひとつを取り上げても、注意が必要です。たとえば、「気づいていないかもしれませんが、お客様の課題はこれですよ」と言ってはいけません。顧客によっては、気づいていないことを他人から教えられると、プライドが傷つく人がいるからです。それとなく気づかせてあげることが大切になります。
従来から、「営業は潰しがきかない」と言われてきました。でも逆に、こうした奥深い営業ができる人は、どのような仕事でもできるはずです。ぜひ、その奥深さを楽しみながら、新しい営業に試みていただければと思います。
★このお話の続きは、次回の本コーナーでご紹介いたします。