上司が行うべき日常的なメンタルヘルスケア
[2012/11/28]
厚生労働省の『患者調査』によると、2008年のうつ病患者数は104.1万人。1999年には44.1万人でしたので、9年間で2倍以上に増加しています。しかもこれは医療機関で受診された人のみを対象としています。受診されていない人を含めれば、メンタルヘルス不調の人は相当数に上るものと思われます。
その中には、新型うつ病、若年性うつ病、現代型うつ病(以下、総称して新型うつ病)などと呼ばれる、従来とは異なる症状の人も見られます。「自己中心的で他者への配慮が乏しい」「環境や周囲に問題を責任転嫁する」「組織への帰属意識が薄い」「自分の好きな仕事や活動の時だけ元気になる (うつ症状が軽くなる)」「“うつ”で休職することにあまり抵抗がなく、休職中の手当など社内制度をよくチェックしていて、上手に利用する」などの特徴があると言われます。
こうした状況に対応を苦慮している企業が増えています。日本マンパワーでもお客様からこのような問題社員に対しての対応について教育や相談が増加しています。 今回は、メンタルヘルス教育の研修のコンサルタントである、小出真由美さんに「職場での適切な対応」についてうかがいました。ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
人材開発企画部 研究開発G
小出 真由美 さん
最近増えている新型うつ病
従来型のうつ病は、まじめで几帳面、責任感が強く、組織への帰属意識の高い人がかかりやすい傾向にあります。また、長期休養を余儀なくされると自分を責め、「職場に迷惑をかけるので出勤したい」などと周囲に気を遣うケースが一般的です。
しかし、20代から30代に増加しつつある新型うつ病では、まったく異なる傾向が見られます。専門家によると次のような特徴があると言われています。
・「自己中心的で他者への配慮が乏しい」
・「環境や周囲に問題を責任転嫁する」
・「組織への帰属意識が薄い」
・「自分の好きな仕事や活動の時だけ元気になる (うつ症状が軽くなる)」
・「“うつ”で休職することにあまり抵抗がなく、休職中の手当など社内制度をよくチェックしていて、上手に利用する」
例えば、休職中なのに自分の好きな活動を続けている姿を見ると、ただのわがままのように思えてくるかもしれませんが、主治医の指示に反して出社させ、万一症状が悪化することにでもなれば、安全配慮義務の観点からも問題が生じる可能性もありますので、個人情報に留意した上で主治医と産業医などで適切な情報交換を行いながら、対応していくことが重要になります。
また、こうした新型うつ病になる人は、社会的に未熟な傾向にあるため、組織としても息の長い支援が必要になってきます。
キーパーソンとなる直属の上司
こうした新型うつ病に対して、企業はどのように対応すればいいのでしょうか?
遅刻や欠勤、業務遂行能力の低下など問題行動や不適応状態については、あくまでも人事労務管理の枠組みで対応することが必要になります。メンタルヘルスの問題だからと腫れ物にさわるような対応をしたり、特例を認めるのではなく、きちんと社内規則に即した対応ができるようにしていくことが重要です。
また、メンタルヘルス不調で休職している従業員の仕事をフォローした同じ職場のメンバーにも労をねぎらい、無理させてないかなどの注意を払いながら、メンタルヘルス不調の連鎖を防ぐ必要があります。
その際、最も重要なキーパーソンとなるのは各職場の管理監督者です。現場の管理監督者は、出退勤状況の把握、表情・態度の観察、業務内容の評価ができるとともに、人事・総務担当者に相談しやすい立場にあるからです。
別の視点から言えば、職場の管理監督者には、
メンタルヘルス不調の予防対策
メンタルヘルス不調者の早期発見
メンタルヘルス不調への早期対応
のすべてが求められることになります。適切な対応が遅れると、生産性や業績の低下、周囲従業員への悪影響、人間関係の悪化などにつながる危険性もあります。
これは、新型うつ病に限らず、すべての従業員を対象にした対応となります。
管理監督者に求められること
管理監督者に求められることはたくさんありますので、ポイントだけ挙げさせていただきます。
まず、従業員の変化に対する気づきです。遅刻や欠勤が多くなった、元気がなくなった、顔色がすぐれない、仕事のミスが増えたなど、メンタルヘルス不調の兆候となる変化に気づくよう観察することが大切です。
また、部下からの相談にも対応します。部下のみなさんは、仕事でもプライベートでもさまざまなストレスを感じているはずですので、相談される機会があれば、プライベートを侵さない範囲で、ほかの従業員に察知されないように配慮しながら、親身になって対応することが大切です。
そのためには、日頃から部下とのコミュニケーションを円滑にしておく必要があります。コミュニケーションが円滑でなければ、従業員の変化に気づかないでしょうし、部下から相談されることもないからです。
ほかにも、職場内のストレス軽減という役割も担います。
その最たるものが過重労働対策です。残業が続いて睡眠不足になると、メンタルヘルスに不調をきたしやすくなりますので、部下に過重労働をさせないための対策を講じるとともに、過重労働が続いた場合の仕事量・業務分担の調整なども必要とされます。
また、部下にとって、管理監督者自身がストレスとなっている場合もあります。そうならないためには、やはり日頃から言動に留意しながらコミュニケーションを図る必要があります。特に、部下は言葉よりも表情・態度を敏感に感じ取りますので、気をつけてください。
ラインケアの不機能がもたらすリスク
このように管理監督者のやるべきことは非常にたくさんあります。今挙げたものはあくまで一例です。場合によっては管理監督者自身がメンタルヘルス不調に陥ってしまいそうです。
でも実は冗談ではなく、そうしたケースは少なくありません。ですから、管理監督者はけっして「自分だけで解決しよう」と思わず、人事・総務担当者や産業医などと連携して、いざというときには専門家につなぐ態勢を築いておきましょう。
こうした管理監督者によるメンタルヘルスケアは「ラインケア」と呼ばれ、ラインケアの風土を作ることは企業にとって極めて重要です。適切に機能しない場合、生産性の低下、業務ミスの増加などはもちろん、過労死や訴訟、企業のイメージダウンにつながるリスクもあります。
日本マンパワーには、このような管理監督者のメンタルヘルス対策を学ぶことができる『メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種ラインケアコース』に関する通信講座があります。ぜひ、現場のメンタルヘルス・マネジメントにご活用ください。