人材紹介を通して見える「転職マッチング」の最新動向
[2014/06/30]
2008年9月のリーマン・ショックに始まった世界的金融危機は、日本企業の人材戦略にも大きな影響を与えました。人材紹介業界では「ピーク時の契約件数に比べるとほぼ半減」にまで落ち込んだと言われます。企業が人材採用を手控えたからです。
しかし、その後少しずつ回復傾向が続き、今や人材紹介業界は「非常に活況」だと言われます。人材紹介サービスは、正社員の中途採用を望む企業に転職希望者をマッチングして紹介するサービスですので、それが活況だということは、中途採用の求人数が増えていることを意味します。
もっとも、求人数が増えたからといって、必ずしも「転職しやすくなった」とは言えません。企業が求職者に求める人材像のハードルが高くなっているようなのです。
今、企業は転職希望者に何を求めているのでしょうか? 企業の採用担当者と日々接している日本マンパワーの布浦伸彦さんにお話をうかがいました。布浦さんはキャリアカウンセラーでもありますので、求職者へのアドバイスもいただいています。ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
キャリアコンサルティング部
企画・業務管理課 兼 人材紹介グループ
課長
布浦 伸彦 さん
(CDA:キャリア・ディベロップメント・アドバイザー)
求人数は増えるも採用基準のハードルは高まる
人材紹介業界における最近2〜3年の動向を振り返ると、企業の採用意欲が非常に高まっていることがわかります。今年に入ってからも、昨年以上に求人数が増えていることを実感します。
ただ、それによって転職しやすい状況になったかと言われると、必ずしもそうとは言えません。売り手市場になったからと言って、誰でも採用されるわけではないのです。企業が求職者に求める人材像のレベルは下がっていないからです。むしろ、2000年代半ばと比較すると、採用基準のハードルは高まり、面接の回数が増えるなど慎重な採用選考が行われているように思われます。
企業の求人ニーズは千差万別だが・・
求職者に求められるニーズは企業によってまちまちで、本当に千差万別です。
たとえば経理担当者を例にあげると、「経理のこの部分に強い人」などの専門性を求める企業もあれば、「経営全般を任せたい」「資金繰りも含め、財務まで見てほしい」など幅広い役割を求める企業もあります。また、営業職では、「新規顧客をどんどん開拓してくれる人材」を求める企業もあれば、「既存顧客に深く入り込んでくれる人材」を求める企業もあります。
同じ職種であっても、企業によって人材募集の背景が異なりますし、ビジネス手法や社風・文化も違うのです。求める人材像が異なるのは当然だと言えるでしょう。
ただ一方で、どの企業にも共通した人材像もあります。私たち人材紹介業界では、それを「ポータブルスキル」と呼んでいます。
どの企業にも共通するポータブルスキルとは
ポータブルスキルとは、社外に持ち運び可能なスキルのことです。平たく言えば、他社に転職しても発揮できるスキルのことを指します。ビジネスパーソンのスキルには、そうした一般的に評価されるスキルと、自社でしか通用しないスキルが混在しているのです。
たとえば、AさんがB社で働いているとします。「Aさんは非常に仕事ができる」とB社内では周囲から尊敬されています。でも、AさんがC社に転職したらどうでしょうか? 今まで通り、仕事ができると評価されるとは限りません。Aさんの能力は、B社でしか通用しないかもしれないからです。
それでは、ポータブルスキルとは具体的に何を指すのでしょうか? 最もわかりやすいのは資格ですが、それだけではありません。たとえば、コミュニケーション能力もポータブルスキルのひとつです。また、自ら考え、自ら行動して課題解決をはかる自律性も、ほとんどすべての企業に共通する採用基準だと言えるでしょう。
転職希望者が採用基準を満たす第一歩
こうした企業ニーズの下、今、人材紹介業界で何が起こっているかというと、「それに見合う人材の不足」です。「人材がほしい」という企業がたくさんあるのにかかわらず、採用基準を満たす人材が少ないのです。
その理由は経済動向や個人の意識などが複合的に絡み合っているものと思われます。ただ、転職を考えている人にとっては、少しもったいない状況になっていると言えなくもありません。ですから、もし人材紹介会社に登録しようと考える人がいるならば、採用基準を満たせるように、ぜひ次のことにご留意ください。
まず、人材紹介会社の特性を把握して登録先を賢く選択しましょう。どの人材紹介会社にも、得意としている求人対象があるからです。「この紹介会社はどの年齢層・どの業種・どの職種を得意としているのか?」という観点で調べてみればわかるはずです。そして、自分の志望に最もマッチする人材紹介会社を選べば、望む求人に出会う確率が高くなります。
次に、登録の際にはできるだけ情報開示をするように心がけてください。登録時には職務経歴や希望条件などを記載する欄がありますので、できるだけ詳しく書くことをお勧めします。人材紹介会社は、企業の求人ニーズに合った人材を探すのですが、その最初の手掛かりが登録情報だからです。
登録情報だけでなく、人材紹介会社との面談の機会があれば、ざっくばらんに何でも話すのがいいと思います。少なくとも私たち日本マンパワーでは、企業のニーズをヒアリングしてきたスタッフ自らが、登録された人とじっくりお話をして、双方に適した仕事をご紹介するようにしています。スタッフのほぼ全員がキャリアカウンセラー(CDA)ですので、安心してご利用いただけるはずです。
自分のことを理解し、整理しておく
さらに、最も大切なことは、自分自身のことをよく理解し、整理しておくことです。
企業から「ぜひウチに来てほしい」と言われるような人はみなさん、自分自身のことをよく把握しています。自分の経験をしっかりと棚卸して整理していますので、自分のポータブルスキルへの理解も深まっています。また、今後のキャリアプランやマネープランも明確で、自分に対する課題意識も持っています。
一方、自分自身のことを整理できていない人は、面接で「なぜ転職したいのか」「自分の何を活かせるのか」「何をしたいのか」などを細かく質問されていくと、どうしても難しい局面に立たされてしまいます。
経験の棚卸やキャリアプランの作成は私たちキャリアカウンセラー(CDA)もお手伝いいたしますが、その前にぜひご自身でも整理しておかれることをお勧めします。そうすることが、企業のニーズと自分のニーズとをマッチングさせる第一歩だと言えるかもしれません。
★来月の本コーナーではさらに詳しい内容をご紹介いたします。