急速に拡がる企業内キャリアカウンセリング
[2011/10/26]
ここ3年くらいの間に、「企業内におけるキャリアカウンセリング」の取り組みが急速に拡がってきています。日本マンパワーでキャリアカウンセリングに関連するセミナーイベントを開催しても、毎回のように、定員を超える人材・教育担当者で埋め尽くされます。
ここで言うキャリアカウンセリングとは、就職や転職に向けての相談を意味するわけではありません。漠然とした不安、働き方への違和感、仕事へのモチベーション、社内でのコミュニケーションなど、誰もが抱くようなモヤモヤをスッキリさせて、「自分らしく活き活きと働いてほしい」という意図の取り組みです。
会社によって多少、施策対象とする範囲は異なりますし、まだ取り組みの始まっていない会社もあります。ただ、その範囲も導入企業も確実に拡がっていることは確かなようです。
企業でのキャリアカウンセリングの導入に国内黎明期から携わってきた日本マンパワー・キャリアドック部の坂室繁さんに、その背景と現状をおうかがいしました。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
キャリアドック部 CDA企画課
専門課長
坂室 繁 さん
現代ビジネスに特有の心理的問題 ビジネスパーソンにとって、現代は、心理的問題を抱えやすい時期だと言えるでしょう。
たとえば、変化の激しい経済情勢にあって、会社や部署の統廃合が進んでいることが挙げられます。自分の働く会社でそうした統廃合の話が出れば、ほとんどの人は少なからず動揺するはずです。そんな話が出ていなくても、新聞やテレビで他社のニュースを見聞きするだけで、「もしかするといずれの自分のところも」と漠然とした不安を抱く人もいるかと思います。
また、ほとんどの会社で、限られたチーム人員ながらも高い成果を求められるでしょうから、仕事の質・量ともにプレッシャーがかかります。それがストレスとなり、場合によってはメンタルヘルス不調につながることもあります。
さらに、上司と部下とのコミュニケーション・ギャップの問題もあります。管理職の方々が若い頃は、「上司から怒られて育つ」という光景が当たり前だったかもしれませんが、今はそうした手法で人材育成が成り立つとは言いにくい状況です。それを認識せずに上司が毎日のように部下を叱咤すれば、部下は悩みや不満を抱き、場合によっては離職につながる可能性もあります。
利害関係がなく専門的にサポートする第三者
自社の社員がこうした問題を抱えている場合、その相談相手となるのは、本来であれば直属の上司かもしれません。しかし、部下からすれば、その内容によっては上司に相談しにくいケースがあります。
たとえば、仕事でストレスが溜まっている時。「上司に相談すると怒られるのではないか」とか「俺のやり方が気に食わないのかと言われそう」などと尻込みすることでしょう。コミュニケーション・ギャップもまさにそうで、上司への不満を上司に相談する人はあまりいないでしょう。何らかの理由で仕事へのモチベーションが下がってしまった時なども、上司に相談すると「自分への評価を落とされるのでは?」と考えてしまうかもしれません。
このように、職場で生じる心理的問題については、上司よりも、利害関係のない人への方が相談しやすいものです。利害関係がなく、話の内容をしっかりと受け止めて専門的にサポートしてくれる第三者がいれば、非常に心強いのではないでしょうか。
それが、企業内キャリアカウンセラーなのです。
また最近では、上司自身が不安を抱くケースも聞かれます。とくに中堅社員が初めてリーダーを任される時などは、「自分はリーダーとしてやっていけるのだろうか?」「部下をきちんと指導できるのだろうか?」という心配をする人が少なくないようです。
たとえ、リーダーシップや指導力に長けている管理職であっても、万能ではないでしょう。誰かが何らかの補完をする必要があるはずです。
そうした上司の立場の社員にとっても、専門的な観点から社員をケアしてくれるキャリアカウンセラーは、ありがたい存在に映るのではないでしょうか。
キャリアカウセリング施策の効果
現在、比較的先進的な企業で行われているキャリアカウンセリングの施策としては、希望者に対するキャリア相談、キャリアを考える研修の実施、研修後あるいは定期的なキャリア面談などです。その内容は、不安や悩みを解決することだけを目的としているわけではありません。順調に働いている人に対しても、「自分のキャリア形成を見据えた上で、仕事を捉え直し、気持ちの整理や新たな気づきを促す」ことが図られています。なかには、自己申告制度や社内公募制度などと関連して導入している会社もあります。
これらの施策の導入によって、得られる効果は少なくありません。たとえば、
「人間関係がよくなり、職場が明るくなる」
「コミュニケーションが円滑になり、チームワークがよくなる」
「メンタルヘルス不調の予防につながる」
「個々の仕事へのモチベーションが高くなる」
「自分に合ったやり方で仕事に取り組める」
「離職を防止することができる」
などが挙げられます。
こうした効果は、結果としてチームの成果、会社の成果にもつながるでしょう。「一人ひとりのキャリアを大切にする」という意識が社内に浸透するという派生効果も生まれます。
キャリアカウンセリング施策がさらに拡がってくれば、多くのビジネスパーソンに直接関与してくるかもしれません。それがどのようなものか、参考にしていただければ幸いです。