ちょっと一息

ハッピーキャリアの作り方 vol.67

個人の仕事観が組織の将来を大きく左右する

[2014/03/26]

視野 組織内でキャリアカウンセリングを受けると、自分が本来抱いていた仕事観に気づき、目標が明確化され、課題が整理され、視野が拡がっていく——日本マンパワーが産学連携チームで調査・分析してまとめた『企業内キャリアカウンセリング白書2013』で、そのことが明らかになりました。
 そして、白書の実験・分析にご協力いただいた、(株)ビジネスリサーチラボの伊達洋駆さん、ユースキャリア研究所の高橋浩さんたちによる振り返りの座談会では、「キャリアカウンセリングを受けた後、心理的な内面で何かしらの化学反応が起こる」「仕事観が意識化されることによって、仕事に対する意味が明確になり、日々の振り返りや内省をしやすい状況になる」などのご意見をいただきました。
 本記事は、その座談会の続編です。お二方ともにヒューマンリソースやキャリアなどに関して確かな実績とお考えを持っていらっしゃる方ですので、その一言一言は貴重なヒントとして受け止めることができます。今回の続編でも、個人の将来、組織の将来にたいへん参考になる発言が凝縮されています。ぜひご一読ください。


●座談会参加者
 株式会社ビジネスリサーチラボ 取締役
 伊達 洋駆 さん
 株式会社ビジネスリサーチラボ 取締役。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター 客員研究員。大学研究者が研究拠点を構築する支援を、産学連携コーディネートという観点から行っている。

 ユースキャリア研究所 代表
 高橋 浩 さん
 博士(心理学)。CDA。日本キャリア開発協会顧問。大学の非常勤講師、行政や企業におけるキャリアカウンセラーや教育研修講師を務める。キャリア心理学の実践と研究を両輪とし、生き生きとした個人と社会の実現に向け活動中。

 株式会社日本マンパワー
 白書プロジェクトチーム


価値観は抽象度を高く、目標は具体的に空と木

——白書のプロジェクトを通して、ほかにお感じになられたことはありますか?
伊達 会社組織では経営理念が重要と言われますが、個人が働くうえでは個人の理念が重要だと思います。キャリアカウセリングではそれを自己概念と呼ぶのでしょうか。平たく言えば、自分は何を大事にして働いているか」ということです。それを自覚していれば、与えられる仕事にも大事にしていることがわかるので、取り組み方が違ってくると思います。逆に自覚していなければ、いつかやる気をなくしたり、「自分はいったい何をやっているんだろう」と疲れてしまうのかもしれません。

高橋 伊達さんのご意見は本当にそうだと思います。特に若い人たちは、自分のやりたいことと組織のやりたいことが違ってくると、辞めてしまったり、回避したりする方向に行きがちです。でも、自己概念や仕事観を理解したうえで、組織とどう刷り合わせていくのかという方向に向かうことができれば、仕事も楽しくなると思います。

伊達 仕事観は具体的なものであるべきではありません。価値観は抽象度が高くないと、世の中のことを受け入れられなくなってしまいまから。なかには「自分はこの年次までにこういう仕事をしなければならない」というような人もいますが、単純に具体的な目標を唯一無二の価値として掲げたら、それ以外のことを受け入れられなくなって、結果的に不幸になりやすいでしょう。ですから、自分の価値観や仕事観について、抽象度を上げて整理する時間を作ることは、非常に大切だと思います。

高橋 大賛成です。抽象度を上げることは、企業と自分という関係だけでなく、同僚と自分との関係も改善できます。たとえば、お互いに抽象度の高い仕事観を表出し合えば、相手を受け入れやすくなるのです。実はあるセミナーを受講して私自身が感じたことですが、相手の仕事観を聞いた時、抽象度が高ければ「ああ、そうだよね」と肯定的に受け止めることができたのです。ですから、社内でそれぞれが違う仕事観を持っていても、抽象度が高いことで接点が非常に増えて、チームとしてひとつになれるように思います。

伊達 「仕事の中で何を大事にしているか」という部分では高い抽象度が求められ、「具体的に何かを進めていく」という時には具体的な目標が必要になります。抽象度の高い仕事観を参照しながら具体的な目標を立てていくのが望ましいのではないでしょうか。それらがごちゃごちゃになって、具体的な目標を理念にしてしまうと、「これ以外の仕事は受け入れられません」という状態になってしまいがです。

高橋 具体化した目標は、ご自身の価値観を100%表したものになるとは限りません。一挙手一投足すべてが自分の価値観に合っているということは、現実的におそらくあり得ないでしょう。でも、目標の一部にでもいいので「自分の価値観とつながっている」ということを自覚できれば、人間は働きがいを持つことができ、ある程度辛いことにも耐えられます。そうした「つながり感」を持てるような具体的な目標を立てることは大事だと思います。


チーム白書の手法を、自社経営陣への説得材料に

——企業のご担当者様などに向けてメッセージをお願いします。
伊達 今回の白書では、自分の価値観がはっきりしていないと目標が明確化しなかったり、課題が整理できなかったりするということがわかりました。そうした個人の価値観のあり方は、10年・20年というスパンで考えると、相当な差になって組織に跳ね返ってくるのではないでしょうか。そうした意味で、企業内キャリアカウンセリングは、社員の中長期的な雇用を考えている企業にとっては欠かすことができなと思います。ほかにもいろいろな施策があり得るでしょうが、社員に自己概念をいかに自覚させるのかという点にコストをかけるかどうかで、将来的にかなり差が出のではないかと思います。
 また、これまで、人的な施策そのものがあまり効果測定されてきませんでした。キャリアカウンセリングに限らず、人材を巡るあらゆる施策に関して、「これは人のことだから」とか「人間関係だから」とか「集団だから」「難しいから」などの理由で可視化されてこなかったのです。
 しかし、生産管理においては職人技をオートメーション化できるように、人材マネジメントにおいてもあきらめずに考えて追求することが非常に大事だと思います。実際、今回の白書では効果を測定することができました。ですから、人材マネジメントの業界でも、効果測定されているものを評価する文化が形成され、体系化されていくことが必要だと考えます。

高橋 私は以前、企業の中でキャリアカウンセリングに取り組んでいました。その当時、経営陣に対して説得力のある説明をどうするかというのが非常に悩ましい課題でした。説得の限界も感じていました。ですから、現在、企業内で活躍されているキャリアカウンセラーの方は、白書で示したインフォグラフィックスなどのやり方を工夫・活用して、経営陣に上手く説得材料として使っていただければ、企業内のキャリア開発がさらに促進されるのではないかと思います。
 キャリアカウンセリングの導入にあたって、「導入すれば、社員の目が輝いて変わるんですよ」などと情緒的に経営陣を説得する方法もあるとは思いますが、同時に、定量的な説得手法も必要だと感じます。「効果の本質を伝えきれていないな」ともどかしさを感じていらっしゃるご担当者の方にも、ぜひ読んでいただければと思います。

——キャリアカウンセリングが日本にある程度広まってまだ10年程度です。ですから、いまだにキャリアカウンセリングへの誤解も見受けられます。私たちとしても、個人の理念を自覚する機会として、企業様と一緒にもっと広げていきたいと思います。本日はありがとうございました。

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