ちょっと一息

キャリアカウンセラーの資格活用 vol.33

「小さなきっかけ」が面談制度や学会入会につながっていく

[2018/11/29]

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 ガラスや建築材料の原料となる資源、に関する技術畑一筋で働き、会社役員という立場になっていった八木則彦さん。50歳半ばまで、人よりも物に対する関心が強く、人の感情や思いにはあまり興味がなかったようです。ところが、従業員に退職を求める必要が生じたことをきっかけに、人とのかかわりや自分自身に対して興味を持ち始めました。
 また、ちょうどその頃に会った大学の友人がキャリアコンサルタント資格を取得したと聞き、日本マンパワーの「キャリアカウンセラー養成講座無料説明会」に参加。ますます自分に興味がわき、60歳直前に受講をスタートしました。
 資格試験では苦労もされたようですが、その分だけ自分に向き合うことができました。資格取得後の働きぶりは、いい意味で「変わった」と自覚できるものになりました。

 しかし、八木さんの資格活用はそれに留まりません。その後、会社にキャリアデザイン面談の取り組みを提案したり、個人的に大学の先生に教えを乞いに行ったり。活用範囲がどんどん広がっています。
 その詳細はいったいどのようなものなのでしょうか? 八木さんのキャリアストーリー最終話は、みなさんにも刺激を与えてくれるはずです。ぜひご一読ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 東海工業株式会社(AGC(旭硝子)グループ)
 技師長
 キャリアコンサルタント
 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
 八木 則彦 さん


自分の軸を発見できれば働き方が変わる

 弊社は、ガラスや建築材料の原料となる資源などの調査・開発・製造・販売を行う会社ですから、社員個々の技術力が欠かせません。そのため、20〜30代の若手社員に技術を継承しようと、毎月、社内講習会を開催しています。それは、人材育成の一環として数年前から取り組んでいる活動で、私が全体のプログラムやコーディネートを統括しています。
 ただ、ある時、ふと気づきました。
 「技術の知識を持っているだけでは、仕事に活かすことができないのではないだろうか。社員一人ひとりに仕事へのモチベーションがなければ、どれだけ知識を持っていても意味がないのではないだろうか」

 そう気づくことができたのは、キャリアコンサルタントCDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の資格取得後、日本キャリア開発協会の講習・研修に参加する中で、「自分の軸や将来が見えると自分をより深く知ることができ、モチベーションが高まるのではないか」と考えたからです。
 実際、私も「人とかかわるという軸が見えたことによって、自分を知ることができ、仕事への取り組み方も変わりました。ですから、若い人も自分の軸を持てるように一緒に考えていくことが、結果的にその人の働き方を変えていくのではないかと思ったのです。


若手技術者へのキャリアデザイン面談

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 そこで、社長や担当役員に、20〜30代の若手技術者を対象とする個別のキャリアデザイン面談の実施を提案しました。いわゆるキャリアコンサルティングです。対象者は5人でしたから、キャリアコンサルタントは私1人でも対応できます。
 それに対して、社長も担当役員も取り組み自体には賛同していただけました。ただ、当時、私は役員の立場でしたから、人事評価に影響を及ぼす可能性があります。そのため、役員退任後の2017年5月からスタートすることになりました。

 面談にあたっては、各種講習・研修への参加はもちろん、書籍を購入したり論文を取り寄せたりして、よりよい面談になるように勉強しました。
 そうして考えたプログラムは、1人につき1回約90分の面談を5回。それぞれのテーマは、(1)振り返りによる自己理解、(2)仕事への興味・価値観を探るワーク、(3)自分の軸(キャリア・アンカー)発見、(4)職務と役割の戦略的プランニング、(5)自分の強み・弱みありたい姿のまとめ、としました。


うれしい面談の効果と対象の拡大

 実際に面談をして若手技術者の話を聴くと、個々のさまざまな一面に触れることができました。なかには、将来についてあまり考えたことがないという人、言われたことだけやればいいと思っている人もいました。
 ただ、後日、「吸収できることは何でもやりたい」など仕事を前向きに捉える若手技術者の声が聞かれるようになりました。あるいは、「彼はいい意味で何か変わったよね」と先輩社員から評価される若手技術者も出てきました。
 もちろん、そうした変化はキャリアデザイン面談による効果だけではないかもしれません。その人自身の努力やタイミングによるものもあることでしょう。それでも、若手社員が面談を受け入れてくれて、いい方向に変わっているという事実があるのですから、非常にうれしく思います。
 現在は、技術者だけでなく、総務・経理・営業の20〜30代の社員にも対象を広げて面談をしています。若い人たちのキャリア形成に少しでも役立ってもらえればと、今後も続けていきたいと思います。


論文に感銘を受けて大学の先生に電話

 職場以外の活動としては、引き続き各種講習・研修自主勉強会などに参加し、知見を広げています。
 また、今年の春から1ヵ月に1回くらいのペースで、ある大学キャリアデザインの先生から個人的にさまざまな教えをいただいています。というのは、会社でキャリアデザイン面談を担当する中で、大学におけるキャリア教育の重要性を肌で感じ、いろいろな資料を調べていたところ、その先生の論文が目に留まったのです。
 それは、「一歩踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」を育てるという内容でした。それを読んだ時、「これは大学生だけでなく、自分を含めて社会人にも必要だ」と感銘を受けたのです。そこで、早速、先生の研究室に直接電話をしました。
 「先生の論文を読んで感銘を受けました。お時間の許す時で結構ですので、一度お会いしてお話をおうかがいできませんでしょうか」

 部屋に閉じこもってモノづくりをするのが好きだった私ですが、実は、思い立ったらすぐに現場へ行かないと気が済まない性格なのです。そんな私のお願いに、先生は快く応じてくれました。アドバイスをいただいたり資料を提供していただいたり、会社のキャリアデザイン面談にも大いに参考にさせてもらっています。
 近い将来、先生のご紹介で日本キャリアデザイン学会にも入会できる運びになり、今取り組んでいるキャリアデザイン面談の事例を発表できればと考えています。


                          取り組んでいるうちに興味が広がっていった

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 今後も引き続き、その人が自分の軸を発見し、自分を理解できるような支援に取り組んでいきたいと思っています。
 さらに、できれば社会に出る前の大学生を対象に、キャリアデザイン面談のような、将来を一緒に考える機会を持てればと思います。大学の職員ではありませんのでどこまでできるかわかりませんが、一人ひとりと向き合ってみたいという思いを持っています。

 最後に、キャリアコンサルタントの資格を持っていながらも「これからどうしようかな?」と考えている人に向けて、エールを述べさせていただきます。
 私がCDAを目指して学習を始めたきっかけは、「もっと自分のことを知りたい」「自分のきっかけになる何かが欲しい」ということだけでした。
 でも、自主勉強会など仲間とのつながりによって合格することができ、合格したことによって勉強の場が広がり、考えが整理されるとともに自分と向き合うことができました。その延長で「会社の若手社員とも向き合えたらいいな」という思いが生まれ、キャリアデザイン面談の実施に至りました。そして、面談をよりよくしたいという思いから、大学の先生にもお教えいただけるようにもなりました。
 つまり、「自分にできることからやってみよう」という姿勢で取り組んでみたら、取り組んでいるうちに興味が広がっていったのです。
 ですから、みなさんも、最初は小さなきっかけでいいのではないでしょうか。自分の興味あることに少しだけ動いてみるだけで、知らず知らずのうちに何かに発展するかもしれません。

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