カウンセリングとコンサルティングの違い
[2012/06/27]
ナラティブ・キャリアカウンセリングとは、ストーリーを語ることでクライエントの自己の意味を作り、社会に通用するようなストーリーを作っていくものです。クライエントがキャリアカウンセラーと語ることで、自分のアイデンティティが明確になり、なすべき行動も明確になります。
こうしたナラティブ・キャリアカウンセリングをするために、カウンセラーを目指す人はどのような専門性を身につければいいのでしょうか?
また、カウンセリング現場ではどのようなことに気をつければいいのでしょうか?
先月に引き続き、特別セミナー『就労相談におけるキャリアカウンセラーの専門性〜ナラティブ・キャリアカウンセリングについて〜』(4月18日開催)の内容を一部ご紹介いたします。最終回となる今回は、「カウンセリングとコンサルティングの違い」から話が始まります。
●講演ファリシテーター
日本キャリア開発協会理事
大原 良夫 さん
(株)日本マンパワーにて「キャリアカウンセラー養成講座」の開発等に従事。日本キャリア開発協会理事。専門分野はキャリア開発、キャリアカウンセリングおよび性格心理学。
カウンセリングは問題解決か
コンサルティングとカウンセリングの違いは何でしょうか?
そう聞かれたら、みなさんはどのように答えますか? クライエントが「いやあ、こんな問題で困っているんです」と言った時、コンサルタントはどうするでしょうか? カウンセラーはどうするでしょうか?
コンサルティングの場合、「問題」に焦点を当てます。
たとえば、私が上司にいじめられているとします。それに対して、「大原さん、その上司にこんな対応方法をしたらどうでしょうか」「毎日、顔を見ないようにしたら楽になりますよ」などという関わりがコンサルティングです。「問題をどのように解決するか」というアプローチです。
一方、カウンセリングは、「クライエント」に焦点を当てます。たとえば、「大原さん、どうしてそれを問題だと思うの?」などという関わりです。「なぜ、その出来事がその人にとって問題なのか」と、クライエントにアプローチするのがカウンセリングです。
ちなみに、心理カウンセリングでは、さらにクライエントの内面にアプローチします。
でも、私たちは心理カウンセラーではなく、キャリアカウンセラーです。キャリアカウンセリングをしなければなりません。ですから、クライエントから「こんな問題が起きた」と相談された場合、クライエントの自己概念の成長のために、「クライエントはこの問題をどう意味づけているのか?」にこだわるのです。そして、意味づけがわかると、この問題は出来事からクライエントに意味ある経験に変わります。
このように問題と自己の関係性に注目するのが、キャリアカウンセリングではないかと思います。
たとえば、いじめに遭っている子がいるとします。その子から相談を受けたら、「こんな風にしたらいいよ」とアドバイスしますよね。そういったアプローチはコンサルティングです。
そうではなくて、「この問題はあなたにとってどんな意味があると思う?」「ひょっとしたら、友だち関係を作る時の成長の機会なのかもしれないね」というアプローチもあります。そのように、経験とその人の関係を考えるのが、キャリアカウンセリングの考え方です。
キャリアカウンセラーの専門性と将来
さて、就労相談においては、人と職業のマッチングや発達アプローチ、傾聴だけではどうもうまくいかず、語りを聴くナラティブ・キャリアカウンセリングが必要ではないかとお話ししてしました。
それでは、次に「キャリアカウンセラーの専門性」とは何でしょうか。
私は、「理論」「技能」「自己理解」の3つだと思っています。
当たり前のことですが、専門家であればまず「理論」が欠かせません。さまざまな知識を学ぶことによって、カウンセリングの幅が拡がり、的確な見立てをすることが可能になります。理論と実践とを使い分け、応用しようとするのがプロの条件だと思います。
また、理論を使えるようにする必要もあります。そのためにトレーニングの機会を設け、「技能」を身につけることも、専門家の条件だと言えます。
ただ、「理論」と「技能」だけでは不十分です。残念ながら、多くのキャリアカウンセラーがこの2つを勉強すること専門家だと勘違いしていますが、それだけでは専門家とは呼べません。
人を支援するには「自己理解」が必要なのです。自分をわからずして、どうして他者をわかり得るのでしょうか。自分の心の持ちようが理解できなければ、相手の心を理解できるわけがありません。「自分が何者か」「自分が何にこだわりのある人間なのか」ということに向き合わなければ、真のキャリアカウンセラーではないと思います。
しかし、たいていのカウンセラーは理論と技能止まりです。なぜかというと、自分を見つめるのが辛いからです。理論を勉強してCDAの一次試験に合格した、技能をトレーニングして二次試験にも合格した。でも、大事なのは、その後の自己理解です。
それらが揃ってこそ、キャリアカウンセラーの専門性と言えるでしょう。
こうした専門性を身につけることによって、私たちはどこに向かっていくのでしょうか。私は、キャリアカウンセリングを「問題解決をすること」だと世間が思っている限り、将来の発展はないと考えます。
そうではなく、「人の成長を支援する」のがキャリアカウンセリングです。そのように定義を変える必要があります。そうすれば、「その人のこだわりを見つけることによって、その人がキラキラ光る」かもしれません。
おわりに〜ナラティブに惹かれた理由
最後に、ある人の過去の経験をお話しいたします。
以前、その人は公的な機関で就労支援をしていました。ちょっと人気のCDAで、クライエントが列を作って並んでいることもありました。
それを見たこの人の恩師が次のように言いました。
「あんた、行列ができたことで喜んでるの? バカね。たとえばあなたがタイ焼き屋さんだとするじゃない。そうしたら、あなたがすべきことは、一人ひとりのお客の顔を見る間も惜しんで、アンを効率的に入れて、お客を速く捌くことじゃないでしょう。その人を見て、その人に合った“あん”を入れてあげるのがあなたの役割でしょ。『この人だったら白あんがいいだろう』『この人だったらこのくらいの黒あんが最適だろう』というような仕事をしなさい」
その人はそれまでマッチングが大好きで、テスト結果を見て「あなたにはこの仕事が合っているよ」というようなアプローチをしていました。でも、この話を聞いてからは、“あん”の配合をいろいろ考えるようになりました。そうしたら、それはナラティブ・キャリアカウンセリングじゃないとできないと気づいたのです。気持ちを聴いてあげるだけではなくて、その人のストーリーを聴きながら「あなたはこんなことにこだわっている人なんだ」って。そういうキャリアカウンセラーになりたいと思って、ナラティブ・キャリアカウンセリングがすごく好きになったということです。