企業内でグループ・キャリア・カウンセリングを実践
[2019/03/27]
長年、大手外資系製薬会社で営業職として活躍。所長や営業部長の立場でも、社内でトップクラスの成績を収めてきた村尾光英さん。その村尾さんが、日本マンパワー『キャリアカウンセラー養成講座』(現在の『キャリアコンサルタント養成講座』の前身)の受講を決断したのは56歳の時。CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)を取得した後、早期退職制度に応募し、同社のキャリアデザインセンター業務を受託することになりました。
それから4年弱。村尾さんは現在もキャリアデザインセンターで働いています。しかし、働く場は同じでも、その内容は年々レベルアップしています。社員が相談しやすいような工夫はもちろん、1対1のキャリアカウンセリングにとどまらず、グループ・キャリア・カウンセリングも実践しています。
そんな村尾さんの経験には、学ぶべきことがたくさんあります。本記事は村尾さんのキャリアストーリー最終話です。ぜひご一読ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
2級キャリア・コンサルティング技能士
産業カウンセラー
村尾 光英 さん
声をかけられやすいよう社内カフェで仕事
現在、私が業務委託の立場で働いている製薬会社のキャリアデザインセンターは、2018年2月からパートナーとして協力していただいているキャリア支援の専門家と私との2人体制です。活動の柱は、1対1のキャリアカウンセリングとグループ・キャリア・カウンセリングの両輪になります。
1対1のキャリアカウンセリングは原則任意で専用アドレスで予約いただきますが、昨年から完全フリーアドレス化になったことを機に、希望があれば予約なしでも対応しています。予約を必須条件にすると、申し込みという心理的なハードルが高くなるからです。したがって、デスクワークをする際には、なるべく社内のカフェでするようにしています。そうすることによって、社員のみなさんは気軽に声をかけやすくなったようです。雑談のような雰囲気で始まり、キャリアカウンセリングに変わっていくことも少なくありません。もちろん、雑談からの流れで「別室で話したい」という人もいますので、ケースバイケースで対応しています。とにかく私たちの周りには人が集まってくる感じです。
以前に比べると、本当に門戸が広がっていることを実感します。
グループ・キャリア・カウンセリングのメリット
グループ・キャリア・カウンセリングとは、キャリアガイダンスとグループワークとカウンセリングの要素を併せ持ったものです。具体的には、キャリアデザインセンターの認知度を上げるために行ってきたセミナーやワークショップのことを指します。あえてグループ・キャリア・カウンセリングと呼ぶのは、私が企画・開催してきたセミナーやワークショップを見聞きした先輩やキャリア研究者から、「これはまさにグループでのキャリアカウンセリングだ」と評価していただいたからです。確かに、受講者からのアンケートにも、「○○に気づいた」「これから考えなければと思った」「自分の方向性が明確になった」など、キャリアカウンセリングを受けた後と同じ感想が多くありました。そのため、セミナーやワークショップという捉え方ではなく、グループ・キャリア・カウンセリングだと捉えるようにしたのです。
もちろん、1対1でキャリアカウンセリングをすることはとても大事ですが、グループ・キャリア・カウンセリングにはいくつかのメリットがあります。
まず、対象者の人数が多いことです。より多くの社員にキャリアを考えてもらうきっかけをつくるためには、グループ・キャリア・カウンセリングは非常に有効です。
さらに、グループで対話やディスカッションをしますので、ほかの人の価値観を聞くことによって、自分の視野を広げたり視座を高くしたりすることができます。また、自分の考えをほかの人に自分の言葉で表現し、それに対してフィードバックをもらうことで、1対1の時よりも理解が深まりやすくなります。
11段階のアンケートで受講者評価を解析
グループ・キャリア・カウンセリングの内容は、現場との話し合いによってアレンジしています。
たとえば、「部下のモチベーションが上がらないので上げてくれ」という依頼が組織長などから来ます。それに対して私たちは、依頼者との面談で細かく状況をヒアリングするようにしています。そうすると往々にして、別の異なる課題が見えてきます。そうした本質的なニーズに合わせて、コンテンツをアレンジしているのです。
テーマは少し専門的になりますが、たとえば、自分の最も大切にする価値観や欲求を表すキャリアアンカー、職務と役割を戦略的にプランニングするキャリアサバイバル、体験から学ぶラボラトリー体験学習など、さまざまです。
2018年度は1年間で767人が参加してくれました。先日も約60人を対象に行ったばかりです。
また、グループ・キャリア・カウンセリングを受けた社員によるアンケート評価の分析にも注力しています。以前は5段階評価をしてもらっていたのですが、現在はより精度の高い解析ができるように、11段階で評価の解析を試みています。キャリアカウンセリングは生産性に換算しにくいと言われますが、この手法を確立することができれば、企業におけるグループ・キャリア・カウンセリングがより普及するのではないでしょうか。
ちなみに、2018年9月に発行された書籍『グループ・キャリア・カウンセリング』(金子書房)にも寄稿しましたので、関心のある方はぜひご一読ください。
基礎知識を学べる養成講座は「始まり」
こうして自分の過去を振り返ると、今の自分があるのは、『キャリアカウンセラー養成講座』を受講したことが大きく影響しています。ただ、CDAの資格を取ったことがすべてかと言うと、必ずしもそうではありません。養成講座は「始まり」だと思っています。なぜなら、養成講座で学ぶ理論は基礎知識ですから、初心者にとっては非常に大切ですが、仕事として実践的に役立てるためにはさらなる学習が必要だと思うからです。
私の場合は、多くの社員を擁する企業で役立てようと思っていましたので、CDAの知識に加えて、ファシリテーションや組織開発の学習をしました。キャリアデザインセンターで働く前から、さまざまな専門書を読みました。でも、自分でワークショップをファシリテートしてみると、本を読んだだけではわからない点、足りない点が見えてきます。ですから、南山大学の人間関係研究センターでも学びました。学びを広げていくと、知識だけではなく、新しい先生や仲間とのつながりを得られるなどの副産物もあります。
みなさんも、もしキャリアコンサルタントやキャリア支援に関心があるのであれば、「自分は何がしたいのか」を改めて考えられるといいと思います。そして、資格取得だけを目的にするのではなく、「取ってから何をしたいのか」を考えておくと、資格を活用しやすくなるのではないでしょうか。特に、企業内で活用しようと考える方は、人材育成や組織開発などまで幅を広げて考えることが、専門家としての自分の価値につながります。大切なのは、CDAを取ってからいかに学び直すかだと思います。
私も、さらに学びを深め、HR部門や各部署と連携をとりながら、組織開発に力を入れていくつもりです。あわせて、日本キャリア開発協会(JCDA)の研究会活動などを通して、グループ・キャリア・カウンセリングの普及に助力できればと考えています。