ちょっと一息

ビジネス心理を実務に応用する(2)

社員が自ら学び、仕事への満足度を高めるためには

[2015/10/29]

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 新しい“心の科学”をビジネスに応用した「ビジネス心理」の考え方とは?

 ビジネスに実践できる総合的な「心の科学」がビジネス心理です。
ポジティブ心理学や認知科学、脳科学など、さまざまな科学を応用して、人と組織を変革することをねらいにしていることが特徴です。
 たとえば、なぜ成果主義では人はモチベーションを高められないのか? なぜ原因を探しても解決に至らないのか? そんなことも、ビジネス心理を学ぶことによってわかるといいます。

 先月は、ビジネス心理の基本的な考え方や事例について、日本ビジネス心理学会副会長/デジタルハリウッド大学教授の匠英一先生にお話をうかがいしました。
 本記事はその続編です。社員満足度や現場での学びなどについてご紹介いたします。会社を好循環させる条件は・・ぜひご一読ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 匠 英一(タクミ エイイチ) さん

デジタルハリウッド大学 教授
日本ビジネス心理学会 副会長
1990年東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。同年に東京大学の研究者らと(株)認知科学研究所を創設。PC教育利用の企画・市場開発を中心とするコンサルティングに従事する。また1995年に(株)ヒューコムに就職し、事業企画や営業の部長職に12年間従事。退社後、大学教員と兼任でコンサルティング業を行うほか、これまでに計15件の業界団体・コンソーシアムを創設する。2010年より日本ビジネス心理学会によるビジネス心理の資格認定制度を創設。監修・執筆した公式テキストは、韓国・中国の大学や企業よりオファーがあり翻訳版と資格を輸出。著書は「認知科学:最強の仕事力」(高橋書店)、「顧客見える化」(同友館)、「心理マーケティング」(JMAM)など約40冊。また、心理学者として、NHK「Rの法則」や日本テレビ「ナカイの窓」などにも出演している。



ビジネス心理2

顧客満足度は必ずしも業績につながらない

 マーケティングを考える時、もっとも大きな課題となるのが顧客満足度です。ただ、日本においては、社員がお客様に奉仕的にサービスするというニュアンスが強い傾向にあります。その結果、顧客満足度は高いけれど業績にはつながらないというデータが多く現れています。
 そうした現象から、満足度そのものを見直す必要が出てきました。
 そこで注目されるようになったのが、社員自身の満足度です。お客様だけの満足ではなく、社員の満足も重視しなければいけないという考え方です。成長し続けている企業では、統計的にも社員の満足度と会社の業績との間に相関関係があることが実証されています。

 では、社員満足度を上げるためにはどうすればいいのでしょうか? それが大きな問題となります。
 そのひとつのアプローチとして、ワークプレイスラーニング(ワークプレイスマネジメント)が挙げられます。直訳すれば「働く現場での学び」という意味です。教育学の分野では「実践コミュニティ」と呼ばれます。
 解釈の仕方は諸説ありますが、平たく言えば「現場での学びの協働プロセスを活かす仕組み」と考えられるでしょう。


「教えない」という教え方もある

 「現場で学ぶ」というとOJTを思い浮かべるかもしれませんが、それとは異なります。
 OJTは先輩が新入社員に仕事の方法などを教えます。しかし、教えない」という教え方もあるのです。教えないことによって、新入社員が自分で考えるようになるからです。
 たとえば、日本舞踊では師匠が「桜の花びらが落ちるように、手のひらを振りなさい」などと助言したりします。「花びらが落ちるように」という表現は、直接的な説明ではなく比喩的な表現です。でも、学ぶ側は試行錯誤しながら「花びらが落ちるようにってどういう意味なんだろう?」と考えます。これもひとつのワークプレイスラーニングです。

 あるいは、失敗から学というプロセスもあります。リフレクティブ・シンキングと呼ばれ、自分の過去の行動のプロセスを振り返って見直すという意味です。
 ただ、これをするのは意外に難しいことです。自分の認識を、外部視点から見るように客観視して認識しなければならないからです。ちなみにそれを、心理学ではメタ認知と呼んでいます。


内発的動機を活かせば社員満足度につながる

 ここで問題となるのが、社員満足度ワークプレイスラーニングとをどのように結び付けて実務に応用していけばいいのかということです。

 社員満足度を高めるためには内発的動機が必要です。内発的動機とは、「その活動が好きだから」「社会的意義があるから」というようなその活動自体への欲求や意義づのことです。
 内発的動機がなければ、現場の中で自発的に学ぼうとしませんが、一方ではワークプレイスラーニングによって内発的動機が生まれてくるのです。そうした相互作用の関係に注意が必要です。
 つまり、内発的動機を活かしてあげることと、ワークプレイスラーニングを強化することは切り離すことができないもので、その結果として社員満足度の向上につながるということになります。
 その工夫にはさまざま考えられます。たとえば、異なる部門の社員同士が対話(ダイアローグ)して交流できる場を作る。あるいはメンター制や多様なチューター制を導入し、他者から学ぶ場を設けることや教えるために学ぶという機会を作る。そのあたりの設計の方向性が、ビジネス心理を学ぶことによって得られるわけです。


ビジネス心理3

現場にあるマイナスをプラスに変えるために

 『釣りバカ日誌』という映画作品をご存知でしょうか。釣りのことばかり考えて、仕事は満足にできないダメ社員、ハマちゃんが主人公の物語です。普通、ハマちゃんのような社員がいたら、会社にとってマイナスだと捉えられるでしょう。でも、彼が存在することによって、社外の人との出会いがあったり、顧客を引き付けたりして、会社へのプラスの作用がもたらされていきます。
 そうした意味で、あらゆる企業が“人財”としてのリソースをどのように組み合わせればマイナスをプラスに変えていくことができるか、その仕組みを改革していくことが求められます。

 ビジネス心理は、心と脳と身体を統合する「心の科学」であり、現場を変革するための科学です。単に心理学の知識を学ぶものではなく、ビジネスの場でどう変革をすすめるかを重視しているのです。
 それはちょうど、英語を学ぶ方法と同じです。100個の英単語を覚えているけれど10個の英単語しか使えない人と、20個の英単語を覚えて20個とも使える人とを比較すれば、後者の方が力を発揮できるのですから。
 試しに一度、ビジネスに使える“心の科学”に触れていただければ幸いです。

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http://www.bpa-j.org/

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