何のためにこの仕事をしているのだろう?
[2014/07/30]
「モノが売れない」と言われる時代。営業パーソンは日々ご活躍なさっていることと思われます。ただその一方で、「思うような売上を上げられない」と厳しい状況に立たされている人もいることでしょう。なかには、「ノルマがきつい」などの理由で営業職を離れようと考える人がいるかもしれません。
でも、元トップセールスマンで営業課題解決の研修やコンサルティングなどに実績のある井坂智博さんは、「営業は本当におもしろくて奥が深く、やりがいのある仕事」だと言い切ります。
いったいこの差はどこから生まれてくるのでしょうか?
これまで3回続いてきた井坂さんの連載も最終回。今回は「営業の仕事とは」にスポットを当てます。ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ
代表取締役社長
井坂 智博 さん
1963年生まれ。茨城県出身。名古屋商科大学大学院経営学修士課程修了(MBA)。リクルートグループにトップ営業として延べ11年在籍。人事組織戦略、採用戦略、営業業務の標準化コンサルティングなどの経験を有する。とりわけ営業業務の標準化では、日本の上場企業を中心に176社もの営業課題解決の実績がある。1997年ITベンチャー企業を立ち上げ3年で同社をM&Aで売却。NPO国連支援交流協会国際社会支援東京支部長、上場企業の役員を歴任後、ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの経営支援を行い、年間260社の企業研修を受注し売上前年比1.7倍の実績を出す。2012年2月株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズを設立し、代表取締役社長に就任。障害者・高齢者などのリードユーザーを巻き込んだワークショップを展開している。名古屋商科大学キャリア形成非常勤講師、名古屋商科大学大学院戦略経営研究所研究員兼ビジネススクール客員講師。宣伝会議「営業力養成講座」講師、日経BP課長塾講師他。著書として「法人営業バイブル」(PHP出版)などがある。日経ビジネスオンライン執筆中。
営業パーソンの「モチベーションの源泉」
仕事でモチベーションが下がる時はどんな時ですか?
営業パーソンがこうした質問を投げかけられたら、多くの人が「営業成績が下がっている時」と答えるのではないでしょうか。ある意味で、非常にわかりやすく納得できる回答です。
それでは、営業成績が上がればモチベーションは上がるのでしょうか? 多くの人が「上がる」と答えるかもしれません。でも、それはおそらく目標管理やノルマ管理といった評価の一面のみにフォーカスを当てているからでしょう。
その論理で言えば、「営業成績が上がり続けなければモチベーションは維持できない」ことになります。見方を変えれば、「営業成績を上げるために仕事をしている」ことにもなりかねません。
しかし、各々の営業パーソンにとって、モチベーションの源泉は営業成績だけではないはずです。果たして、それは何でしょうか?
営業の仕事は何のため?
自分は何のために営業の仕事をやっているのだろうか?
営業パーソンのモチベーションを高めるために、たとえばこうしたテーマで研修を行ってみるのもいいかもしれません。モチベーションの源泉を突き詰めるのです。
会社規模にもよりますが、もし自社の全営業パーソンが参加して、グループワークなどを行ったら、さまざまな価値観に触れることができるでしょう。
「家族を養うため」
「お金持ちになりたいから」
「人の喜ぶ顔が見たいから」
「社会的な名誉を得たいから」
「自分の能力を数字で計れるから」
「社会で困っている人を助けるため」
個人の価値観に根ざしているのであれば、どれもいい解だと言えます。「何のために営業の仕事をやっているのか?」という質問には、ひとつの正解だけがあるわけではありませんから。
解の引き出しを増やす効果
こうしてほかの人の解を聞くと、自分の解の引き出しも自然に増えていきます。解をたくさん持つということは非常に大事で、解が複数あれば、ひとつの解を満たすことができなくても、モチベーションは下がりません。別の解がモチベーションを維持してくれます。
また、「これまで給料を上げることしか考えていなかったけれど、人の喜ぶ顔を見るのがうれしいという価値観もあるのか。じゃあ、もっと喜んでもらうにはどうしたらいいだろう?」などと、視点を増やすことにもつながります。そうすれば、今までの自分の殻がちっぽけに思えてきて、急に新しい発想がわいてくることもあります。ほかの人と話すことによって、多くの人が、自分が持っていなかった解を見つける楽しさ・喜びを感じ、いい意味で仕事に対するスイッチが切り替わるのです。
これは、私が今までにいくつもの研修を重ねてきて実感した、受講者の変化です。
「人と人とのかかわり」に必要な存在として
残念ながら、すべての企業が多様な解を持つことを推奨しているかというと、必ずしもそうとは言えません。ともすると、「営業とは、お客様の課題を解決して売上につなげることだ」など、ひとつの価値観しか示していないかもしれません。
しかし、どのような環境下でも、自分の解を増やしながらきちんと成果を上げていけばいいのです。むしろ、解を増やすことができなければ、継続的に成果を上げていくことは難しいとも言えます。
現在、あらゆる商品がインターネット経由で購入できるようになりました。営業パーソンと一度も対面しなくても、取引をすることが可能です。それは非常に合理的で、「便利な世の中になった」と捉えることができるかもしれません。
ただ一方で、「人と人とのかかわりが希薄になった」とも言えます。
しかし、私たちは人と人とのかかわりの中で生きています。さまざまな事情を抱える人がいる社会において、必ずしも合理的な方法で解決できることばかりではありません。だからこそ営業パーソンは必要なのです。
顧客も正解がわからない時代ですから、営業パーソンは企業価値を高めるためのコンサルタント役になれます。また、商品・サービスの提供を通して、個人のライフスタイルを充実させる変革者になることもできます。営業の仕事がきちんとできる人であれば、どんな仕事もできるでしょう。
営業職は社会的に貢献でき、あらゆる仕事につながる汎用性の高い職種です。私は、営業という仕事をそのように捉えています。ぜひ、それを楽しんで、前向きにスキルアップしていただければと存じます。