ちょっと一息

今につながる「私の転機」 vol.14

子どもを育てているというだけで未来にとても貢献している

[2018/12/20]

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 乳幼児連れのお母さんが安心して過ごせる場所がない。
 多くのお母さんが1人で悩み、苦しみながら子育てしている。
 お母さんの置かれている状況を何とかできないだろうか。

 そうした思いから始まった、永井由美さんの親子サロン作り。11月27日、神奈川県横須賀市にmam&kids salon「結−Yui−」の名称でオープンしました。お母さんが思い思いの時間を過ごせるサロンスペース、乳幼児が安全に楽しく遊べるキッズスペース、保育士が常駐する一時預かり託児室、自由に使える多目的会議室。やさしい目線で作られたそれらの空間は、利用する人に好評のようです。
 その大きな理由のひとつに、設立にあたったメンバーの存在があるように思われます。メンバーたち自身が子育ての難しさに悩み、苦しみ、自身のキャリアにもやもやを感じながらも、毎日を精一杯送る。その毎日の経験の中から見い出した改善策が、「結−Yui−」に詰まっています。
 本記事は、永井さんのキャリアストーリー最終話です。乳幼児を育てるお母さんがどのような状況に置かれ、メンバーはどのようなキャリアを歩もうとしているのかと併せて、ぜひご一読ください。きっと、何かを感じていただけると思います。


●今回お話を聞いたのは・・・画像エラー
 株式会社LINK 代表取締役
 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
 永井 由美 さん


専業主婦が深夜に働く理由

「乳幼児連れのお母さんが安心して過ごせる場を作ろう」
 私がそう思い立った時、一緒に働きたい人が何人か、すぐに頭に浮かびました。子どもを通わせている幼稚園などで知り合ったお母さんたちです。なぜなら、私が「お母さんたちの置かれている状況を何とかできないだろうか」と考え始めたのは、その人たちの苦しい状況を知ったからです。そのメンバーたちの話はけっして他人事ではなく、多くのお母さんたちの実情を物語るものだと思いますので、一部をご紹介させていただきます。

 まず、私が真っ先に誘ったお母さんのお話です。
 彼女は保育士の資格を持っていましたが、専業主婦をしていました。なぜかというと、保育士として働くためには、自分の子どもをどこかに預けなければならないからです。でも、できれば自分で育てたい。そんなジレンマを抱えていました。
 そして、夜間にパートタイマーとして働いていました。夕飯を作り、夫と子どもがお風呂に入ってから出勤。深夜2時に帰り、翌朝5時に起きて朝食とお弁当を作る。そんな生活が続いていたようです。
 けっして収入に困っている家庭ではありません。ひとりの時間を持ちたいという気持ちや、自分も働いている実感がほしいという気持ちがあったのだろうと思います。でも、そんな無理を続けていると、いずれ体調を崩してしまいます。できれば止めてほしいと、前々から思っていました。
 そこで、2人っきりで話しました。
 「私、乳幼児連れお母さんが安心して過ごせるような親子サロンを作ろうと思っているの。そこにはキッズスペースや託児室を設けるので、保育士の協力がどうしても必要。あなたは保育士の資格を持っているから、メンバーとして一緒にやってくれない? そこなら子連れで出勤して、働きながら子どもの様子も見られるよ。深夜に働かなくてもよくなるよ」
 そう話すと、彼女は泣き出しました。泣きながら「やらせてほしい」と言ってくれました。


                          お母さんたちは本当にたいへん

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 世間では「保育士が不足している」と言われています。でも、人数が不足しているわけではありません。事業主が求める就労条件と、保育士資格を持っている人の事情とが合わないのだと思います。
 実際、私の周りには保育士資格を持つお母さんがたくさんいます。でも、ほとんどみんな専業主婦です。そして、何人かはコンビニエンスストアやスーパー、ファミリーレストランなどで深夜に働いています。保育士なのに保育士として働けず、夜間にパートタイマーとして働くことは、けっして特殊なケースではありません。お母さんたちはみんな本当にたいへんな思いをしているのです。

 mam&kids salon「結−Yui−」では、オープンにあたって何人かのママ友に声をかけました。そうしたら、あっという間に15人が「働きたい」と集まりました。そのうち4人は子連れ出勤。中には1日3時間、週2回のメンバーもいます。でも、勤務時間中にその人のスキルのすべてを発揮してもらえれば、まったく問題はありません。みんな立場は対等で、働き方が違うだけです。それぞれに事情があり、働き方のスタンスがあるのですから、それをリスペクトして多くの選択肢から選べるようにできれば、みんながやりがいをもって働くことができます。
 私がこう考えられるようになったのは、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の学習を通して、人を多面的に捉えてリスペクトできるようになったからだと思います。


女性活躍と言われると気が滅入る

 また、別のメンバーから言われた一言は、今でも気になっています。
 「女性活躍と言われると、とても気が滅入る」
 彼女も専業主婦で、仕事をしていないことに後ろめたさを感じていました。夫が働いていて自分が働いていない、ということを申し訳なく感じるので、せめて家事だけはしっかりとやろうとしていると言うのです。
 「家事以外にやれることがある人はいいと思う。でも私は、家事をやることでしか自分を肯定できないの

 ネガティブな意味合い「私は専業主婦だから」というお母さんは、たくさんいます。多くの人から同様の声を聞きました。でも、ネガティブになることはまったくないと思います。子どもを育てているというだけで、未来に向けて大きな社会貢献していると思うからです。でも実際には、専業主婦である自分に自信を持てない人がいる。肯定的に感じられない人がいる。なぜでしょうか?

 「女性活躍と言われると、とても気が滅入る」と言ったメンバーの言葉に、その理由が隠されていると思います。女性活躍という言葉には、「働いていないと活躍していない」というニュアンスが感じられるからです。
 しかし、そう考えるべきではないと私は思います。働いているお母さんも、働いていないお母さんも、それぞれの事情や考え方の中で活躍しているのです。


子育てのしやすい温かい社会になるように

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 何かしらのスキルを持っているのに時間や場所の制約があり、それが事業主のニーズと合わない。その結果、無理をすることになったり、専業主婦に後ろめたさを抱いたりする状況を生んでしまっている——。同じような状況で同じような思いを抱いている人は、全国にも多くいらっしゃると思います。
 でも、「結−Yui−」では、こうしたメンバーが中心になって働いています。私自身、妊娠・出産で会社を退職してから数年間は、自分のキャリアが喪失してしまったようで、ずっと心にもやもやを抱えていました。ですから逆に、私たちの活動を見て、「あれなら私たちでもできそう」と思ってくだされば、それほどうれしいことはありません。
 もちろん、地域による格差はあります。私は秋田出身だから身をもって知っていますが、都会と田舎では、日常的に触れられる情報・職業・文化などに大きな差があります。「結−Yui−」のある場所もけっして都会ではありません。
 それでも、まずは自分たちが住む地域から変えていくしかありません。そうして、いろいろな活動が広がりつながっていけば、もっと子育てのしやすい温かい社会になると思います。私たちはまだスタートしたばかりですが、今後はできればお母さんたちの働き方子どもたちのキャリア教育にもつなげていければと考えています。


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