経営コンサルタントの国家資格、中小企業診断士。2014年度の1次試験が8月9〜10日に行われました。今年度の試験は、科目によって違いはあるものの、全体的には昨年度と同程度の難易度でした。また、ここ数年の傾向どおり、社会動向や実務上の知識を要求される問題が多かったと言えます。日本マンパワーでは、科目ごとの講評や分析講義、復元回答の募集などをホームページで公開していますので、受験された方はぜひアクセスしてください。結果発表は9月になりますが、受験された方は引き続き2次試験に向けて邁進しましょう。
一方、来年度の試験を目指す方にとっては、本格的な学習スタートに向けて準備すべき時期になりました。なかには挑戦するかしないか、悩んでいらっしゃる方もいるのではないでしょうか?
そこで今回は、中小企業診断士の学習がビジネスパーソンにとってどのような意味を持つのか、掛け値のないお話をご紹介いたします。ちなみに本記事は、資格取得によるメリットのお話ではありません。「たとえ資格を取得しなくても、学習を通して何を得られるのか」について焦点をあてています。経営コンサルタントを目指していない方にこそ、ぜひお読みいただければ幸いです。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
キャリアクリエイト部 1課
高橋 哲史 さん
業種を問わず、あらゆるビジネスパーソンに役立つ 経済産業省発表による日本の会社数は、約386万社。そのうち、中小企業・小規模企業は約385万社です(ともに2012年2月現在)。
99.7%が中小企業・小規模企業なのです。
中小企業診断士(以下「診断士」)は、
中小企業の経営課題に対して診断・助言を行うプロフェッショナルですから、日本のほぼすべての会社経営について、診断や助言をできる一定の基礎能力が備わっているということができます。
これを別の視点で考えてみると、
どのような業種・どのような職種で働く人であっても、中小企業診断士の学習をすれば、自社に役立つ能力を身につけられるという意味です。しかも、基礎能力を学びますので、使い方次第でさまざまな
応用をすることが可能です。
今、みなさんの所属する会社の経営状況はいかがでしょうか? 順調な会社もそうでない会社もあるかと思いますが、「従来からやってきた業界の慣習どおりに、今後も取り組んでいこう」という会社はあまりないはずです。新しいことにチャレンジし、さらなる成長あるいは巻き返しを図っている会社がほとんどでしょう。
ですから必然的に、そこで働くみなさんにも新しい職務が求められることになります。その新しい職務遂行に効果を発揮する方法のひとつが、診断士学習なのです。
もっとも、診断士の学習経験がない方にとってはピンと来ないかもしれません。そこで、実際に学習してきた私自身が日々感じていることについて、お話しさせていただきます。
考えたこともない新しい着眼点を知った 診断士の1次試験には、「経済学・経済政策」「財務・会計」「企業経営理論」「運営管理」「経営法務」「経営情報システム」「中小企業経営・中小企業政策」という科目があります。診断士の学習をするということは、これらの分野について幅広く学ぶということを意味します。
しかし、診断士の学習を始める人が、これら分野の全般について詳しいかというと、そんな人は皆無に近いでしょう。私もほとんどの科目で初めて知ることばかりでした。たとえば、「運営管理」という科目の中に
生産管理という学習項目があります。これは工場でのオペレーションなど
「効率よくモノを作って利益を上げる」道筋を知ることが学習目的になります。私は製造業で働いていませんので、実務には直接関係ありません・・と思っていたのですが、実は
現在の仕事にも非常に関わりがあり、「もっと勉強したい」と思っています。
ごく一例を挙げると、たとえば
正常作業域という考え方があります。これは、簡単にいえば肘を支点にして両手で作業できる範囲のことをいいます。人は、この正常作業域で作業をするのが、最も効率的だと言われます。確かに、言われてみればその通りです。また、実習で工場を訪れ、作業員の方に万歩計をつけてもらって計測するという学習があります。作業員の方が1日何歩歩くか。多ければ多いほど
動きに無駄があり、効率的でない上に、ミスや事故につながりやすくなります。学習では、この結果を分析して工場のレイアウトを見直しにつなげたりします。
こうした着眼点を、私は診断士の学習をするまで持っていませんでした。だからこそ新鮮でした。それが今では自然に、さまざまな業務をそうした視点で見られるようになりました。
「実務に応用が利く」という例のひとつです。
実務で使える知識を高いレベルで一通り学べる 実務に応用が利く点は、ほかの科目でも同様です。
たとえば「経済学・経済政策」。この科目ではいわゆる経済学の理論を中心に学びます。理論と言うと実務とかけ離れているイメージがありますが、
理論を知ることでさまざまな仕組みが理解でき、具体的な事業戦略につなげる手がかりになります。
また、「財務・会計」では、財務諸表や利益計画、ファイナンスなどを学びます。お金はどのようなビジネスにも関連しますが、経営者に比べて会社員は金銭感覚が鈍い傾向にあります。そのため、診断士学習によってその感覚を身につけられれば、
ビジネス感覚が鋭くなると言えます。
「経営情報システム」では、ITの基礎知識に加えて、
経営の中でITをどう戦略的に使えるかについて学びます。今やITを活用していない会社は少ないと思いますが、それを経営と結びつけて有効に駆使できているかどうかには疑問の余地があります。この点でも、新しい視点を培うことができるのです。その他「企業経営理論」「経営法務」「中小企業経営・中小企業政策」についても、おそらく多くの人が断片的にしか知らない知識を、万遍なく学べます。
このように、
実務で使える知識を、経営コンサルタントとして認められるレベルで一通り学べることは、診断士学習の大きな魅力ではないでしょうか。
成長した自分を感じ、働き方やキャリアを変えられる さて、こうした新しい知識を身につけることによって、自分に何が生じるのか? 実は、それが診断士学習による効果の本質かもしれません。
私の実感を元にして言うと、まず、
視野が拡がります。今まで見えていなかったものが、見えてくるようになります。それに伴って、
自分の仕事の幅が広がってきます。それは、与えられる業務の幅が広くなるというだけではありません。与えられた業務は以前と同じでも、その
周辺にまで自分の思考が働くようになるのです。
それによって、さまざまなことを
深く考えられるようにもなります。これまでは経験を根拠にした勘で判断していたことが、理論的・客観的な根拠をベースにすることができるため、
理にかなった戦略的思考の掘り下げができるようになるのです。もちろん、成果物やそれに至るプロセスの質が上がることにもつながります。
それに何よりうれしいのは、
自分自身で「俺、成長しているな」と感じられることです。社会の中における会社、会社の中における部署、部署の中における自分、これらがつながり、
仕事への満足感もより高まりました。
自分の働き方やキャリアを、いい意味で変えられるようになったと言えるのかもしれません。
診断士学習は、ビジネスパーソンとしての自分を高められるという点で、あらゆる業種、あらゆる年齢、あらゆる立場の方に有用です。もちろん、経営者の方が学べば、自社の成長に大いに役立てられることでしょう。
さらに合格すれば、中小企業診断協会の活動などを通して、業界を超えた人脈が間違いなく広がります。
いいことばかり並び立てるようですが、私は心の底から「面白くて役に立つお勧めの資格」だと思っています。