ちょっと一息

30歳代ミドルに求められるインサイト営業 vol.3

固定観念から脱して、新しい問題定義を

[2014/06/30]

メルマガ1407_画像1 海外の先進的な企業では、まだ誰も気づいていないような社会課題を見つけようとする動きが活発化しています。その社会課題を抽象化して問題定義を深め、自社の事業や商品・サービスで解決するビジネスへと展開していこうとしているそうです。
 一方、日本ではどうでしょうか? ほとんどの営業パーソンが組織や上司から指示されているのは、自社の商品・サービスを使ってくれる相手を見つけることかと思われます。

 このお話は、ソリューション営業からインサイト営業(顧客の気づいていない課題を発見して提案する営業スタイル)への方針転換を提唱する、井坂智博さんにおうかがいしました。井坂さんによると、「日本人は社会課題を見つけることはできても、なかなか問題定義をするまでに至らない。でも、自分で問題定義できるようにならなければ、インサイト営業をするのは難しい」そうです。さらに、「そのためには固定観念から脱することが大切」だと言います。
 前回・前々回の本コラムをご覧になられた方は、その必要性を十分にご理解いただいていることかと存じます。今回は「固定観念からの脱し方」についてお話をうかがいました。


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ
 代表取締役社長
 井坂 智博 さん

1963年生まれ。茨城県出身。名古屋商科大学大学院経営学修士課程修了(MBA)。リクルートグループにトップ営業として延べ11年在籍。人事組織戦略、採用戦略、営業業務の標準化コンサルティングなどの経験を有する。とりわけ営業業務の標準化では、日本の上場企業を中心に176社もの営業課題解決の実績がある。1997年ITベンチャー企業を立ち上げ3年で同社をM&Aで売却。NPO国連支援交流協会国際社会支援東京支部長、上場企業の役員を歴任後、ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの経営支援を行い、年間260社の企業研修を受注し売上前年比1.7倍の実績を出す。2012年2月株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズを設立し、代表取締役社長に就任。障害者・高齢者などのリードユーザーを巻き込んだワークショップを展開している。名古屋商科大学キャリア形成非常勤講師、名古屋商科大学大学院戦略経営研究所研究員兼ビジネススクール客員講師。宣伝会議「営業力養成講座」講師、日経BP課長塾講師他。著書として「法人営業バイブル」(PHP出版)などがある。日経ビジネスオンライン執筆中。


メルマガ1407_画像2発想の視点を根底から変える

 どのような職種であっても、私たちは多くの固定観念に縛られながら仕事をしています。たとえば、「この商品はこれが当たり前」「営業の仕方はこうあるべきだ」「こういう仕事の進め方が正しい」等々。しかし、こうした数々の固定観念から脱することができなければ、新しい問題定義や新しい解は見つけられません

 自動車業界で今、クルマにOSを搭載する技術が話題になっています。運転できない人でも目的地に行けるような全自動運転システムも、米国で開発されつつあります。
 ただ、現状の日本でそれを実現するのは難しいでしょう。「PL法などとの関連で、万一、事故が生じたらどうなるのか?」という問題があるからです。ところが、開発にあたっている米国企業では、考え方がまったく異なります。
 「我々はクルマをIT化しようとしているわけではない。そもそもこれはクルマじゃなくて、アプリケーションなんだ
 発想の視点が根底から違のです。全自動運転システムのいい・悪いは別にして、彼らの発想には見習うべき点があります。固定観念から脱しなければ、こうした発想の視点には立てなでしょう。


メルマガ1407_画像3固定観念から脱するために

 固定観念から脱するためにどうすればいいのか。
 その解決のひとつの方法として、弊社・株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズでは、これまで気づかなかった視点に気づくという瞬間を体験する」という機会を提供しています。これは、高齢者、障がい者、外国人など、従来の一般的商品・サービスの対象から除外されてきた多様な人たちとともに参加するワークショップやセッションで、新規事業開発・商品開発のコンサルティングや研修にも必ず取り入れています。
 なぜなら、高齢者、障がい者、外国人などは、未来を先取しているからです。どんなに若くて元気な健常者であっても、いずれは年をとって高齢者になります。近い将来、日本は超高齢社会を迎えます。その時、多くの人が不便に感じるであろうことを、高齢者、障がい者、外国人などはすでに体験しているのです。ですから私たちは、彼らをリードユーザーと呼んでいます。リードユーザーは、若い健常者が想像すらできないような生活の不便を、日々感じています。


リードユーザーが電車に乗ろうとすると

 たとえば、車いすユーザーが電車に乗ろうとします。その際にはまず、改札口で駅員に「○○駅まで行きたいんですけど」などとお願いします。そうすると駅員は、「少々お待ちください」と言って、どこかに行きます。そして5分も10分も待たされます。健常者が電車の改札を通るためにはICカードをかざすだけで済みますが、車いすユーザーはそうではありません。「この程度は普通、駅員によっては30分以上待たされたこともある」というのが現実なのです。
 しかも、駅員が事前に手配した電車にしか乗れませんので、駅のホームに電車が入ってきても何本か見送ことになります。たとえ無事に乗ることができたとしても、「急用を思い出した」などの理由で途中下車したくても下車できません。最初に告知した行先で駅員が待っているため、自由に行動できないのです。


メルマガ1407_画像4学ぼうとするか、軽視するか

 株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズには、全盲の役員がいます。彼がペットボトルのお茶を購入する際、何を基準に「おいしそう」だと思いますか? 全盲ですからラベルの文字は読めません。実は、手触りです。「これはざらざらしていて、茶筒の手触りに似ているからおいしそう」と言うのです。
 こうした感性・感覚は、新しいビジネスセンサーになり得ます。実際、イタリアのある化粧品会社では、視覚に障がいのあるスタッフが匂いの開発に携わっています。視覚を閉じている分、他の4感が開いている場合が多く、このイタリアの視覚障がい者の場合は嗅覚が優れているという強みを仕事に活かしている例と言えます。

 こうしたリードユーザーの状況を目の当たりにすることは、固定観念から脱する大きなきっかけになります。今まで想像もしなかったことに気づくことができるからです。この気づきをきっかけに新しい興味をわかせることも可能です。
 「別の障がいのある人ならどうなんだろう? 高齢者や外国人だったらどうなんだろう?」というように。
 新しい発想で問題定義をするために固定観念を脱しなければいけないという理由が、おわかりいただけたでしょうか。こうしたリードユーザーに学ぼうとするか、あるいは「メインターゲットではないから」と軽視するか——そうした姿勢の違いが、インサイト営業できるかどうかの違いにもつながものと思われます。

★このお話の続きは、次回の本コーナーでご紹介いたします。

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