キャリア形成の方向性を見つけるために
[2011/02/23]
「今の状態のまま仕事を続けていていいのかしら?」
「私はこれから、どんなキャリアを作っていけばいいんだろう?」
「将来の自分に漠然とした不安を感じてしまう」
こうした声が、日本マンパワーに寄せられることがあります。みなさんにも、似たような不安が頭をよぎることはありませんか? 仕事やキャリアを取り巻く現在の社会環境では、不安を抱くことは自然なことなのかもしれません。
でも、できることなら、自分の可能性を最大限に広げ、やりがいと自信をもって気持ちよく仕事をし、満足できるキャリアを築いていきたいですよね。
そこで、キャリア支援を日々推進する原恵子さんに、「キャリア形成の方向性を見つけるためのアドバイス」をうかがいました。今回からシリーズでご紹介いたします。みなさんの今後にお役立てください。
●今回お話をうかがったのは・・・
原 恵子 さん
〔主な資格〕CDA、産業カウンセラー、心理相談員、認定MBTIユーザー
Career Seed 代表
日本マンパワー「キャリアカウンセラー養成講座(通学コース)」講師
教育出版社、派遣会社を経て独立。現在は、キャリア支援に関わる実践と研究に取り組む。具体的には、キャリアカウンセラーなどキャリア支援職者に対する専門家教育やスキル向上支援、産業領域を中心としたキャリア開発やコミュニケーション分野の講師として活動。その一方で、筑波大学大学院(人間総合科学研究科)においてキャリア支援職者の職務特性や職業的発達についての研究を進めている。
※経歴は、取材当時のものです。
「幸せの基準がわからない」
「学校を卒業したら、正社員として就職するのが当たり前」
バブル経済崩壊前の日本には、こうした“暗黙の常識的な基準”が存在していたように思います。
でも今は、仕事との関わり方の選択肢が多様です。契約型の社員・派遣社員・フリーターとして働くことは珍しいことではありませんし、在学中に起業する人もいます。善い悪いは別にして、“暗黙の常識的な基準”は薄れてきたと考えていいでしょう。
一方で、インターネットの普及などによって、発信される情報が増大し、しかも以前に比べてたやすく入手できるようになりました。ですから、多様なキャリア形成の情報やモデルを日々見ることができ、自分の可能性の範囲も広く感じられます。
ただ、こうした社会的背景によって混乱も生じています。“暗黙の常識的な基準”がなくなったため、個々人が自分で“基準”を作らなくてはならなくなったからです。
「何を良いと判断するのか?」
「何を幸せと捉えるのか?」
こうした根源的な問いに対する答えも、自分自身で出すしかありません。でも、選択肢や情報が過多な状態ですから、「答えがわからない」というケースも少なくないのです。
Will−Can−Mustの視点
「自分に適したキャリア形成の方向性は?」という答えを見つけるためには、Will−Can−Mustの視点から、自分と仕事を捉えてみることをお勧めします。この3つの視点は、様々なキャリア教育やキャリア支援の現場でも、既によく使われているのではないでしょうか。
それぞれが意味することは、次のようになります。
Willとは、自分のやりたいこと、好きなことや大切にしたいこと、興味や関心、価値観などを意味します。
Canとは、自分のできること。ヒューマンスキルや職務上身についた力などを含めて、広く能力を意味します。
Mustとは、やらなければならないこと、求められること。自分ではコントロールできない制約条件や環境を意味します。たとえば、仕事上の担当職務・役割や立場、上司や同僚等自分を取り巻く人々、生活のために必要なものやこと、家庭の事情などがMustにあたります。
そして、WillとCanとMustの3つが交わる領域(図参照)を仕事の上で実現していくことを目指すことで、自分の特性を発揮でき、やりがいや満足感を得られると言われます。現状を大切に受け止めながら将来に目を向け、3つが交わる領域を模索し少しずつでも大きくしていくことで、自分らしいキャリア形成を進めていけると考えられます。たとえば、仕事はMustを中心に始まるかもしれませんが、こつこつと続けていくことでCanも育ち、自分らしいWillの部分も何かしら重なっていき、3つが交わる領域が大きくなっていくことで自分としての納得感や成長感が深まっていく、こうしたプロセスが一例ではないでしょうか。
たとえば、WillがあってもCanがなければ職務を遂行することができませんし、Mustと重ならなければ自分勝手な人と映るかもしれません。CanがあってもMustと重ならなければ外部評価を得られず、組織と自分との関係性が築けないなど成長感や達成感も感じられないかもしれません。また、Willが全く重なっていかなければ働く上での楽しさややりがいを感じることが難しくなるかもしれず、Mustだけでは義務感だけに陥ってしまうかもしれません。苦行のような辛い仕事になり、長続きしない可能性も高くなります。
Willを誤解せず、CanやMustにも目を向けて
それでは、みなさんのWill−Can−Mustはいかがでしょうか? バランスがとれていますでしょうか?
キャリア教育の中で誤解を受けていることがあるとすれば、Willだけが重視されがちなことです。たとえば、「やりたいことをしよう」「自分の目標を叶えよう」といったフレーズに代表される姿勢。これはWillだけを対象とした姿勢です。確かにWillは大切な要素ではありますが、それだけで自分らしい納得感のあるキャリアを形成できるわけではありません。CanやMustがないと、実現は難しくなります。
特にMustは大切な要素です。仕事や生活の上でのやるべきことや求められることを認識した上で、評価をまずは積み重ねていくことも大切です。たとえば「子どもが生まれたからがんばろう」というのもMustのひとつで、モチベーションの促進要因にもなります。
また、Willを狭い領域で捉えている人がいるのも気になります。たとえば新卒時の就職活動では、業種や職種にとらわれがちです。でもWillとは、業種や職種などの内容そのものだけを指すわけではありません。たとえば、「自由な雰囲気や職場を求める」「気の合う仲間と一緒に働く」「人に感謝される」「新しい経験ができる」「美しい環境を好む」「社会貢献への意識を高く持ち続ける」「仕事と生活のバランスを大切にする」など、プロセスにあたる点もWillに含まれるのです。
内容そのものだけをWillだと捉えてしまうと、実現できないケースが増えてしまう上、表面的なことにとらわれてしまい「これは自分の考えと違う」と狭い視野になってしまったり、違和感を感じやすくなってしまうかもしれません。その点、プロセスにも視野を広げれば、自分らしく働ける場所の選択肢が増えますし、「見えにくかった自分の価値観や基準」を改めて見つけることができるかもしれません。
Will−Can−Mustの全体に目を向けること
Willの領域を広く捉えること
この2つが、キャリア形成の方向性を見つける上で大切なヒントとなってくれるのではないでしょうか。
◆次回以降は、原さんのさらに詳しいお話をご紹介いたします。